PF-JPA
 
【国会】
知的財産国家に向けて 自由民主党
国家戦略本部事務総長
司法制度調査会会長
保 岡 興 治
 弁理士のみなさま、ご承知の通り、日本は、優れた工業製品を廉価に生産することで、高度な経済成長を遂げてきました。しかし、1990年代以降、従来のような方法では経済発展を続けることが難しいことが、分かってきました。目に見え手に触れられる有形の物から、目に見えない無形の知識に重点を置いた経済に移行することが、ますます求められています。それはアメリカ合衆国が世界に先駆けて行ったことですが、日本も、その途をたどりつつあるのです。いわゆる知的財産立国構想であります。

 私は小泉純一郎内閣総理大臣が総裁を務める自民党の国家戦略本部事務総長として、また同党の司法制度調査会長として、政府が昨年から推し進めてきた、この知的財産立国構想の火付け役であります。今後も党側の推進役として、米国と同じ道ではありますが、同国をしのぐ知的財産重視の経済社会の構築に向け、取り組む考えであります。

 知的財産立国構想の鍵となるのは、いうまでもなく、知的財産権を実効的に保護することです。ビジネスの分野でも法律の分野でも、土地や工場設備など有形物についての法制度は割合に整っていますが、知的財産権については十分でありません。この点は、大きな視野で改革を進めねばなりません。
 
 私が所属する自由民主党は、1955年の結党以来、わずかな期間を除いて日本の政権を担っています。知識を基盤とする経済への移行については、内閣総理大臣直属の知的財産戦略本部が今年設置され、集中的に取り組んでいます。私が会長を務める司法制度調査会をはじめ、自由民主党では、政策面での検討を積極的に進め、いくつかの提案を政府・知的財産戦略本部に行いました。その多くは、本年7月8日に決定された知的財産推進計画に取り込まれています。
 
 その中でも、私が特に重視しているのが、知的財産専門の独立した、知的財産専門の高等裁判所を作るというものです。
 現在、すでに知的財産権に関わる裁判について、日本では専門化が進んでおり、第一審のレベルでも、東京と大阪の地方裁判所に専門の裁判官が多数配置され、特許だけでなく、著作権や商標、不正競争の事件を集中的に審理しています。また、7月28日まで開催された国会において、これらの事件についての第二審レベルの審理を、東京高等裁判所に集中する法案が成立しました。知的財産専門の高等裁判所を設置するというのは、こうした方針をさらに一歩進めるものです。
 現在では、最高裁判所の下に、地域ごとに8カ所の高等裁判所が設けられています。この体制は、半世紀以上の間変わっていません。しかし、訴訟手続きの一層の充実と迅速化を図り、判決の統一をして予見性を確保し、知的財産権に関わる訴訟を専門的に処理する体制を整備するには、思い切って、第9番目の特別な高等裁判所を設けることが必要です。これは、内外に対して知的財産重視という国家政策を明確にすることでもあります。
 知的財産高等裁判所には、長官と、16名の判事が置かれる予定です。通常の事件は裁判官4名で構成する4つの部で処理しますが、先端技術や法解釈に関する重要事件については、各部から1名の裁判官と長官の5名で合議して、判例の統一を図ることにしています。
 日本の近代化は、1868年に徳川氏の武家政権が倒されてから始まりました。当時は財政的に極めて厳しい状況であったのに、日本政府は、非常に立派な裁判制度を急速に作り上げました。知的財産専門の高等裁判所を創設するという私たちの提案を受け、政府は来年の通常国会に法案として提出することを目指しております。
 私は、新しく裁判所を作るというだけではなく、知的財産権を実効的に保護するための、最も優れた仕組みを作るべきだと考えます。詳細な制度設計はこれからですが、私は、日本の裁判官の多くは現在、純粋な法律家ですが、技術的な事実認定について、能率がよく安定した判断ができるような仕組みを作るべきだと考えます。そのためには、科学技術のバック・グラウンドを持った優秀な若者が、責任のある立場で裁判所に入らなければなりません。そうした改革が第二審レベルで成功すれば、第一審のレベルを含め、次の段階の改革を進めることになります。
 知的財産権を保護するための日本の司法制度は現状でも極めて優れたものですが、わたくしは、政権を担う自由民主党の司法制度調査会の会長として、それを世界で最も優れたものにしたいと考えています。


「保岡先生との懇談」左から森弁政連会長、保岡先生、下坂日本弁理士会会長



この記事は弁政連フォーラム第129号(平成15年8月25日)に掲載されたものです。

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