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改革すべき日本弁理士会の問題点

 
iida.akio   
飯 田 昭 夫
 
 

 現在、第二次弁理士法改正の問題があるため日本弁理士会の活動は短期的なことに集中せざるを得ないが、法科大学院制度の開始と共に増加するであろう理工系出身の知的財産専門弁護士と知的財産専門法律家としての弁理士をどのように共存させるかを早急に検討しなければならない時期に来ている。
 ご承知の会員も多いと思うが、最近の理工系の大学卒業者の70〜80%近くは大学院へ進学している。このことを考えると、法科大学院が開始されれば、大学院の幅が広がったとして理工系大学出身者で法科大学院を選ぶ者も増加するであろうことは容易に想像できることである。しかも、将来弁護士の資格が今までよりも楽に取得できると考えれば、弁理士試験を受験するのでなく、法科大学院・司法試験・司法修習を経て弁護士となり特許出願等の業務を行う者も多く出現する可能性も否定することはできない。司法制度改革審議会意見書によれば9年後の平成22年には司法試験合格者を年間3,000人まで増加させることを目指し、平成30年には弁護士5万人規模へ到達することを想定しているという。このことは特許出願業務を行う弁護士の出現が近いことを暗示している。
 そこで、このような時代が到来しても弁理士が「知的財産専門法律家」として社会に定着し続けるために、日本弁理士会が早急に検討すべき問題点とその対応についての私見を述べる。

1.知的財産専門法律家としての弁理士の地位の定着
 新弁理士法による回路配置・著作物に関する権利・技術上の秘密の売買契約等の代理・相談など新たな法律事項に関する業務範囲の拡大は、弁理士を「知的創造サイクル全般にかかわる知的財産専門法律家」として強く位置付けられたものといえる。過去に弁理士は技術の専門家であることのみを強調しすぎた時代があったように思われるが、弁理士の国際的な相互乗り入れ、弁護士5万人の時代の到来を見据え、今後は弁理士が知的財産専門法律家であることを強く意識し、法律家としての研鑽も怠ることのないようにすべきと考える。このために会員が民法・民事訴訟法・商法などの研修を容易に行えるシステムを早急に構築すべきである。
 @弁理士資格の国家間相互乗り入れに関して:
 昨今、弁理士資格の相互乗り入れや、裁判管轄の国際統一など、国内の弁理士という感覚では対応できない時代になりつつある。特に弁理士の相互乗り入れに当たり、日本の弁理士は、例えば米国のPatent Attorney ( 特許弁護士) と同格として扱われるのか、Patent Agent(特許代理人:これを弁理士と翻訳する人がいるが明らかな誤り)と同格として扱われるのかで、その国際的位置付けがまったく異なる。Patent Agentは特許庁に対する特許出願手続き(意匠特許を含む)の代理人となる資格であり、商標出願は扱えない。また当然のことながら審決取消訴訟の訴訟代理もできない。日本の弁理士は"BENRISHI"であり、Patent Attorney でもPatent Agentでもない。しかしながら相互乗り入れを行う場合は、法律家(法曹)の資格すなわちPatent Attorney との相互乗り入れを実現することが、我々弁理士の将来のためにも、日本の国家戦略のためにも絶対必要なことである。そのために、先ず、法律家として必要な「弁理士への依頼者の秘匿特権」・「弁理士紹介制度」の導入を急ぎ、外国に対しては、法律家としての弁理士を強くアピールすることが必要である。
 A法科大学院に関して:
 法科大学院の開設にあたっては、法科大学院に知的財産専門コースを設置して、弁理士で侵害訴訟代理を望む者は、このコースを終了することにより研修に代えることも可能となるようなシステムを構築することが必要である。この上、法科大学院卒業を条件とする新たな司法制度により誕生する弁護士については、特許・意匠・商標の出願等弁理士の専権事項を扱う場合は、この知的財産専門コースを終了し且つ弁理士登録をするように働きかけを行うと共に、弁護士であっても弁理士登録の必要性を感じる魅力ある日本弁理士会への改革に早急に着手すべきである。
 現状のままでは弁理士法・日本弁理士会会則の適用を受けない特許・意匠・商標の出願代理人(弁護士)が弁理士と同数ぐらいになる時代が到来するかもしれない。国民に対し高度な専門的な知識・経験を要するサービスが提供できる知的財産専門法律家は、弁理士と特定の弁護士であると国民に認知されるような環境を構築することが急務である。
 また、弁護士5万人の時代となっても、技術・法律の両面でユーザーに十分満足を与えることができる知的財産専門法律家としての弁理士であるために、会員の法律面での資質の向上を継続的に行うシステムを構築することも必要である。

2.国民のための弁理士の地位の確立
 私は、愛知県・三重県・岐阜県・静岡県・長野県をその支部地域とする日本弁理士会東海支部の支部長を平成12年度に、また平成8・9・10年度には副支部長の役を支部会員の支援のもとに経験させて頂いた。東海支部地域は弁理士の数が比較的多い愛知県と、これに隣接する岐阜県、愛知県に隣接するが弁理士人口の極めて少ない三重県、また名古屋分室から遠方に位置する長野県・静岡県の会員の関係は本会と地区部会の関係の縮図である。この間の支部活動を通じ、弁理士の知名度は、全国レベルで判断すると依然として低いものであることを痛感した。また特許事務所と弁理士の関係が理解されていないことも明らかとなった。この知名度の低さが、弁理士法違反となる非弁活動が減らない一因であると確信すると共に、弁理士の地位が向上しない一因であると認識した。
 そこで、まず第1に「弁理士」という資格があるということを一般国民にアピールし、且つ「特許事務所」は「弁理士」の経営する事務所であること、すなわち弁理士と特許事務所を関連づけて理解して頂けるような次のような活動を積極的に実行することを提唱したい。
 @報道機関への積極的アプローチ
 IT技術・特許訴訟・職務発明・偽商標など、報道機関が弁理士の専門分野に関する番組・記事が企画されても、その解説者・コメンテーターとして弁理士が登場することはほとんどない。これは、テレビ・ラジオ番組作成者・編集局長・記者等現場のマスコミ関係者に弁理士が知的財産権に関する法律専門家として認識されていないからである。そこで、経済・工業に関係することがない番組作成者・記者・キャスターなどに「弁理士」を知ってもらうシステムを構築することを提唱する。
 A地方の中小零細企業の特許保護(侵害訴訟)
 司法制度改革審議会の意見書では、特許・実用新案権の侵害事件は、原則として、東京地方裁判所と大阪地方裁判所の2つの裁判所に限定することが示されている。
 基本的に、特許事件の迅速な処理のために裁判所の特許専門部門を強化することは必要である。しかし、損害賠償金額が少額の特許権侵害損害賠償事件や、侵害行為差止請求のみの事件や仮処分事件等までも、東京・大阪地方裁判所に限定してしまうと、資力の乏しい地方の中小零細企業は訴訟するなということと等しくなってしまう。簡単に言えば、損害賠償金額よりも弁護士・弁理士の日当・交通費の方が多くなることがあるからである。
 自分で手がけた特許に関する訴訟事件につき、日当がもらえないからといって特許権侵害訴訟代理が可能となった弁理士が訴訟の代理を簡単に拒否することができるであろうか。
 このような行為は、弁理士の社会的信用・評価を下げる以外のなにものでもないし、中小零細企業の特許権取得意欲を減退させ、延いては国家的な損失を招きかねない。
 資力の乏しい中小零細企業が事実上裁判を受ける権利を奪われることのない制度、例えば中小零細企業が当事者の特許権侵害訴訟については、現行の競合管轄を維持する制度を構築することを提唱する。
 B職業奉仕を通じての社会貢献
 東海支部では、無料市民講座「休日パテントセミナー」を月1回土曜日に開催し、一般市民に工業所有権のイロハを教えている。毎回好評を博し受講者も増加しており、新聞などに掲載されたことにより、弁理士制度の普及に役立っている。近畿支部でも同様なセミナーを開催している。一般市民を対象とするこのような奉仕活動こそ、弁理士の地位を高める地道な活動である。非弁理士活動から国民を守るこのような地道な職業奉仕活動をマスコミに評価されるような方法で、実施可能な地域から全国展開できるように積極的に活動することを提唱する。

 以上、弁理士の知的財産専門法律家としての地位の確立・定着に絞って述べたが、この対応には年数を必要とするので、若き会員の早急な意識改革を望む。


この記事は弁政連フォーラム第107号(平成13年10月25日)に掲載されたのものです。

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