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東海支部地域における知的財産の現状

 
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日本弁理士政治連盟
副会長 飯田 昭夫

 
 

 東海支部地域における知財の現状ということですが、東海支部地域が、三重県・愛知県・静岡県・岐阜県・長野県と5県にまたがり、県によりその対応が大きく変わりますので、主として愛知県を中心として報告します。

<ものづくり全国1位:特許出願件数全国4位>
 東海支部地域は、「ものづくり」産業の日本の中核をなす地域であり、その中でも愛知県は工業製品出荷額日本1位を保持している県であります。しかしながら、好景気の巨大企業に恵まれてか、下請け製造の需要がなくなることなく、知的財産、特に特許出願に関することは親会社任せの傾向があります。そのことは、出願件数からも推測でき、平成15年度の都道府県別特許出願件数では、東京都の18万件、大阪府の6万2千件、神奈川県の2万7千件、そして愛知県の2万5千件で、東海支部地域5県全部合わせても3万7千件です。3年前までは神奈川県と愛知県の差は約1万件ありました。

<東海支部の知財啓発活動とそれを支える支部会員のプロボノ活動>
 そこで弁理士会東海支部は、「ものづくり生産高(出荷額)は、日本1位でありながら、特許出願件数は、全国第3位の神奈川県より1万件以上少ない全国第4位である」という実態を中部通商産業局(現在の中部経済産業局)や愛知県等に認識してもらおうと、組織的に広報活動をするとともに、平成12年より東海支部独自の企画として、無料市民講座「休日パテントセミナー」を毎月1回定期的に名古屋市内で開催し、市民の意識改革・マスコミの意識改革を行っています。この休日パテントセミナーについては、中部経済産業局名古屋特許室の室長のご理解とご協力を得ながら走り出して、本年度で4年目になりますが、平成13年1月の中日新聞に、パテントセミナーと愛知県の出願件数が全国4位のことが大きく取り上げられ、啓発活動としての支部活動の成果が出ています。本年度は、静岡、豊橋でもパテントセミナーを開催し、その輪は名古屋市から東の豊橋市そして静岡県へと拡大しています。
 特記すべきは、当日の受付、講師、準備等は全て多数の支部会員のプロボノ活動で支えられていることであります。

<愛知県知的財産戦略会議:あいち知的財産創造プラン>
 愛知県の知的財産に関することとして、愛知県知事の提唱による、愛知県知的財産戦略会議(愛知県副知事、中部経済産業局長、名古屋商工会議所専務理事、ブラザー工業(株)社長、東海支部長等愛知県における重要メンバー)があります。そのメンバーには日本弁理士会東海支部長も含まれ、県の知的財産戦略会議に日本弁理士会東海支部が直接関わっています。この会議の下に、ワーキンググループが形成され、そのメンバーは中部産業局産業企画部長、愛知県産業労働部長、トヨタ自動車知的財産部長、デンソー知的財産部長、日本弁理士会東海支部副支部長等といったトップレベルの実務家で構成され、形式上ではすばらしい組織ができ、「あいち知的財産創造プラン」策定等の活動をしています。今後はこのワーキンググループの更なる活躍が期待されます。
東海支部には、知的財産戦略委員会が設けられ、松浦支部長・神戸担当副支部長をサポートしています。このように、愛知県の知的財産戦略には、日本弁理士会東海支部が大きく関わっています。しかしながら、実行までのスピードは、国レベルと比較するとスローペースと言わざるを得ません。

<名古屋市>
 ところで、名古屋市は、外国出願補助金制度をかなり昔から設けている数少ない地方公共団体で、貿易の振興を知的財産の面でも保護する先駆的な活動をしてきています。しかしながら、最近の名古屋市の知的財産に関する活動は沈没した状況を保っています。

<大 学>
 大学知財本部の動きとしては、国立大学はそれなりの準備をしていますが、まだ、知的財産専門家として弁理士を認識していない部分が見え隠れしています。私立大学の場合は、技術系大学が少ないこともあり、少子化の影響も少なく、大学運営に影響がないのか、大学知財本部に対する関心は低いようです。
 このことに危機感を感じた東海支部が、大学支援キャラバン隊を結成し、大学に対する支援・啓発に積極に乗り出しました。どの地域でも同じと思いますが、大学講師の弁理士が、講座で満足せず、大学知財の重要性を大学トップに対してアピールする努力が、国家戦略としての知財の活用には必要と思います。

<知的財産セミナービジネス>
 東京・大阪で成功した知財セミナーを名古屋で計画する会社もありますが、ことごとく期待を裏切られているようです。
 言い換えれば、知的財産に積極的な企業はごく限られた企業に過ぎないという現実であります。知的財産を有しなくても親会社の製品の製造をすることにより、企業を維持することが容易にできる環境が、知財に対する中小企業の取り組みを遅らせている1つの要因と考えられます。それに風穴を開けるのが無料市民講座「休日パテントセミナー」であります。この講座を通じて知的財産の重要性を認識する市民・企業が増加することが必要でしょう。
 以上のように、東海支部地域とりわけ愛知県全般としては、まだまだ知的財産に関する取り組みが薄いといわざるを得ませんが、一部地域では(例えば豊橋市)、産業の活性化を知的財産戦略を踏まえて検討・実行しているようです。
 結論的にいえば、愛知県の知的財産に関する啓発、権利の保護・利用等に関しては、現状、トヨタグループをはじめとする大手企業と日本弁理士会東海支部の活動で決まると思われ、弁理士の責任が重要な地域といえます。

以上

この記事は弁政連フォーラム第132号(平成15年11月25日)に掲載されたのものです。

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