PF-JPA




急転する時代に対処すべき
新たな課題 

Kato Asamichi
日本弁理士政治連盟
筆頭副会長 加 藤 朝 道


 21世紀の巨大なプレートの地殻変動が引き起こす余波は、経済、政治、司法、特に知的財産をめぐり、様々な局面で現出しつつあります。この変動を敏感に感じ取って、国家的変革のグランドビジョンを提起して行くこと、そしてその実現の方向へ会員が一丸となって邁進すること、これが日本弁理士政治連盟に課された、現代的課題であると考えます。また、弁政連の会員は日本弁理士会の会員でもあり、その運動のベクトルは、基本的に同じ向きであるべきものです。
 我々弁政連はその中にあって、日本の知財制度の21世紀的あり方とそれに真に貢献しうる弁理士制度のあり方を掲げて、我が国と弁理士の未来を見据えた活動を行うことがその使命であります。
 この4月に弁理士法第2次改正が附帯決議と共に成立し、来年には能力担保研修が開始され侵害訴訟代理人たる弁理士が登場します。しかし、歴史的変革の感慨にふける間もなく、現実の世界は急展開しています。弁護士とのいわゆる共同受任は民訴法56条で複数代理の場合の個別代理として扱われ、弁理士の訴訟行為の範囲は、民訴法上本質的には弁護士と差は設けられておりません。ただ弁理士法上で弁護士が受任していることという受任条件付きとなっているだけです。この点をどうとらえるべきか、改めて考えてみたいと思います。
 この限定付代理人制度は、21世紀の弁理士制度の展望からその附帯決議と併せて読めば固定的なものではなく、過度的−段階的な第一歩であることが、明らかになります。国権の最高機関である国会の場で、弁理士制度の将来の方向はすでに定められています。そして衆参両院で全会一致でなされたこの附帯決議の重みを厳粛に受けとめて、現実化へ向けて貫徹することが、我々の責務であります。
 これにさらにエネルギーを与え、大河の流れとすることは全会員の双肩にかかっています。今や、全員が力を合わせて前進あるのみです。誰1人立ち止まることは許されません。これが21世紀への巨大な歴史の流れなのです。
 我々にとって次のステップは、付記弁理士でなく、弁理士そのものが知的財産に関する訴訟代理人となる資格を持つような制度設計に直ちに取り組むことです。そのためには、実務能力の増進に役立つ合理的な試験制度と訴訟実務能力に役立つ実務研修が必要です。このような観点から制度面、運用面を含み独創的で実状に合った制度を工夫することが必要であると考えます。
 さて、第2次改正法成立のわずか2ヶ月余の後、7月3日知的財産戦略大綱が内閣府に設置された知的財産戦略会議により決定され、政府は直ちに知財基本法準備室を設置しました。大綱の柱は、知的財産の創造、保護、活用とその人的基盤の充実であります。人的基盤においては、専門人材の養成が第1に挙げられ、各論として、法科大学院での知財等のビジネス関連分野の教育の強化と共に、弁理士等の専門人材の充実と機能強化が謳われています。これは、附帯決議より簡潔な表現となっていますが、その方向性は自明であります。
 弁理士の充実と機能強化には、質的・量的両側面がありますが、とりわけ訴訟代理人としての実務能力の強化が重点です。その第一歩は第2次改正による既存弁理士集団の機能強化です。この面では、日本弁理士会研修所による所が大であり、裁判所、日弁連等の法曹関係者の有力な支援を引き出すのは会員の積極的参加の姿勢です。次に、機能強化された将来のあるべき弁理士の育成の問題があります。
 法科大学院による知財教育の強化は、専ら法曹の枠内での法曹の知財司法面での機能強化策であり、一方弁理士の司法面での機能強化は、弁理士の知財分野での法曹化の側面を有すると考えられます。この2つの流れは、今後互いに切磋琢磨しつつ共存して新しい「知的財産実務専門家群」という知財の一大実務フィールドを形成することが期待されます。
 専門職大学院と法科大学院の設置基準等について8月5日中教審答申が出ました。平成16年4月スタート予定の法科大学院の設置基準から見る限り、知的財産法を選択科目の一部として履修する可能性が極く一部ありうるものの、それを中核としたコースは、導入できないと思われます。このような形で養成される新司法試験合格者が、知財実務専門処理能力を身につけることは、直ちには至難と考えられ、このままではこれから向こう十数年に亘り、国家戦略上の空白が相変わらず続くことは必至でしょう。
 一方、機能強化された弁理士等の養成のため、専門職大学院の構想が謳われています。ここで如何なる実務能力の涵養を目指すのかが重要となります。
 知財実務処理能力は、発明であればその創造過程に深く関与しうるだけの能力と理解力が不可欠であります(これを「実務基礎素養」と言う。)。単に知的財産法を学ぶだけではこれは達成されません。特に創造戦略の中核たる先端技術分野において実務基礎素養をもった有為の人材に、さらに知財実務教育により知財リーガルマインドを涵養すること、これこそが、知財実務専門家の国家的養成の要であります。
 このような視点から、知財実務専門処理能力をもった知財実務専門家をいかに養成し、そして、「機能強化された新弁理士」としての資格に継げるか、の具体的構想を練ることが、今改めて、急務であると考えます。

以上

この記事は弁政連フォーラム第117号(平成14年8月25日)に掲載したのものです。
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