PF-JPA
「弁理士の労働者派遣」は
弁理士制度の根幹を揺るがす



日本弁理士政治連盟
会長 加 藤 朝 道

 9月30日構造改革特区有識者会議は、弁理士の労働者派遣について、他の6士業と共に意見書をまとめた。弁理士と公認会計士は非独占業務(相談業務等)について「容認・17年度中の措置」とされる一方、行政書士、弁護士、司法書士、税理士及び社労士の5士業については、「派遣元を各士業法人とし、派遣先を各士業又は各士業法人とし、今後ニーズを調査した上で、検討を行い平成17年度中に結論を得る」とされた。
 これを、弁理士の結論と比較すると、その格差の大きさに、愕然とする。
 その弁理士に関する「結論」は次の通りであった。

 弁理士法第4条1項及び第3項に規定する業務のうち同法第75条で規定する業務以外となる、相談に応ずること(いわゆるコンサルティング)に係るものに関し、特許業務法人以外を派遣元とする場合には、労働者派遣を認めることとし、平成17年度中に所要の措置を講ずる。

なぜこのような「結論」になったか?
 特区推進論者の主張は、各士業の業務を「独占・非独占業務」で切り分け、非独占業務は派遣業法の対象に開放すべし、ということにあった。
 しかし、弁理士について見ると、弁理士法第4条第1項、3項の業務のうち、75条以外の相談業務には、4条3項の契約についての相談がありその中には「技術上の秘密の売買契約」の相談が含まれる。
 また、これらの個別案件の相談は、「弁理士の名称を用いて」行うものであるから(4条3項標榜業務)、弁理士法の枠内で行われるべきものであり(弁理士法76条)、「誰にでもできる」相談ではない。そして、この標榜相談業務は、弁理士の専業代理業務と密接に関連しその高い専門学識能力と倫理保持を前提として、平成12年改正で導入された新しい制度であり、いわば「準独占業務」とも言うべきものである。
 即ち、これらの、相談業務を75条の「専業」以外だからと言って直ちに「非独占」とし、かつ「誰でもできる」業務とすることは、論理に大いなる飛躍があり、妥当ではなく、また実態にもそぐわない。
 即ち、この独占・非独占の切り分け論は、弁理士業務の実態から外れたためにする形式論に過ぎない。
 
「技術上の秘密」を扱うこと−弁理士業務の特質
 出願代理の前段として「発明相談」がある。弁理士であればこそ、依頼者は、安心して発明(秘密)について相談することができる。ここで記憶し蓄積した「情報」は、継続的な顧客との信頼取引関係の下では、有効に保持・活用されるが、転々と派遣先が変わる派遣労働者としての弁理士の場合、次の派遣先Bにおいて、ただちに問題となる。つまり頭脳に蓄積した技術情報は、弁理士として仕事をすることで利益相反と盗用漏出の危険にさらされるのである。
 これは一弁理士の問題に止まらず、弁理士制度の利用者にとっての危険である。技術上の秘密情報は、一度流出したら取り返しが付かない損害を与えるのである。
 このような実態から、弁理士制度がことのほか労働者派遣制度に本質的になじみ難い制度であることが、明らかとなろう。
 不幸にも特区構想の導入に際してこのような議論をする場も機会も弁理士には与えれなかった。そのような仕組みの中で、一方的に弁理士の労働者派遣が決定された。当事者たる弁理士、日本弁理士会の意見を聴取することなしに、である。因みに9月16日付日本弁理士会の構造改革特区室宛意見書は、9月30日有識者会議では、その存在すら報告されなかった。関係省庁の窓口として、弁理士については特許庁が介在していたが、残念ながら「結論」に至る過程で弁理士会の意見は公式には全く聴取されないまま、8月9日から9月30日の有識者会議に至った。総選挙による政治の空白期間中のことである。

自民党内閣部会で有識者会議意見は
部会長預かりに

 流石、10月4日内閣部会では、出席委員から士業の構造改革特区のうち、弁理士の措置について、弁護士、行政書士等他の士業とのバランスを欠くこと、弁理士の業務が技術上の秘密を扱う特殊性から特に派遣になじみ難いものであること、弁理士制度推進議連で検討する時間もないこと、等の異議が出され、大村秀章専任部会長預かりとされた。ここに初めて、政治のチェックが入った。これは、当連盟の必死の問題提起の結果である。しかし、行政内の流れからすれば、「時既に遅し」であり完全に押し返すことはできなかった。

弁理士制度推進議連の対応策
 10月14日弁理士制度推進議連は、会合を開き議論を行った。その結果、 弁理士派遣業務の「相談」から「個別事案を除く」ことを明確にすると共に、「平成17年度中に具体的結論を得て措置」として、その結論のチェックを行うことが確認された。
 出された対応策は、次の通であり。前記「措置」の第1文に第2文を加入するものである。(下線が加入部分)

 当該弁理士の労働者派遣事業については適正に実施されるコンサルティング業務の範囲の明確化(個別事案に係るものを除外)、守秘及び利益相反行為防止の徹底に措置を行う。
【平成17年度中に具体的結論を得て措置】


 ここにコンサルティング業務の明確化として、「個別事案に係るものを除外」としているが、その趣旨は、弁理士の名称を用いて行う本来の標榜業務(準独占業務)は、除外するという趣旨である。これらの相談業務は、通例個別の発明とか技術上の秘密(ノウハウ)に関連して行われるものであり、それは弁理士の独占業務に準じて扱われるべきものであることを意図したものである。
 次に、[平成17年度中に具体的結論を得て措置]とされたが、その意義は、弁理士会の納得の行くよう、個別事案に係るものを除外できることが明確化され、かつ、守秘及び利益相反行為防止の客観的に実効性ある措置が、法的に取られることを条件として、弁理士会の同意を得て「結論を得る」ことを明らかにしたものであり、この点について政治のチェックが入るべきことを明らかにしたものと解される。

残る問題点
 10月18日の現時点では、特許庁及び関係省庁から、具体的措置について最終的な案は示されていない。特許庁から、色々な提案が出されてはいるが、決定的問題は、規制法規たる労働者派遣法では派遣元・派遣先・派遣弁理士の三角関係を規定する各個別の派遣契約も労働契約も、所管厚労省は、直接調査権限がなく、単に「指導」ができるのみであり、違反が生じた場合、公表という形式罰しか適用できないことである。
 これでは、実効性ある措置が取られたとは、到底期待されないが、現在これを超える対策案は、提示されていない。
 我々は、触覚を働かせて自らのチェック機能を強化し、これらの問題に対処すべきである。それなくしては、せっかくの政治のチェック機能も無為に終わることとなろう。これは、日本弁理士会に残された大きな課題である。


(以上)

この記事は弁政連フォーラム第155号(平成17年10月25日)に掲載したのものです。
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