PF-JPA
年頭の挨拶
弁理士制度108年を迎えて



日本弁理士政治連盟
会長 加 藤 朝 道

  明治32年パリ条約加盟と共に特許法・商標法及び弁理士制度が導入されて以来、今年は108年目を迎えます。創設100年を過ぎて、ようやく知的財産は国家戦略となりました。
 文明開花の明治時代にあって、知的財産の制度が欧米列強に伍すための枢軸と考えて推進した高橋是清の先見性に思いを至すとき、私は今、次の百年の大計を構想する思いに駆られます。
 市場のグローバル化が進展するWTO時代にあって財貨は労働力も技術も著作物も国境を越えて大移動する時代になっております。
 革新的技術も、すぐ世界中に拡がり、自国の「特権」としては維持できないのが現状です。
 IT時代に入りあらゆる情報が瞬時に世界に流通します。正にグローバリズムが世界の唯一の原理かの如き様相を呈し、これから一層加速されます。
 このような時代にあって後発の発展国は、先端の技術を急速に取り込むことが出来、安い労働力と組合せて世界市場を制覇することが出来ることは、今や公理となっております。この趨勢は衣類や日用雑貨から先端技術分野にも及びます。
 日本は戦後60年間先進国に追いつけ追い越せでやっと追いつけたと思ったら、もう追い越される寸前にあります。
 ここでもう一度知的財産制度の根幹に立ち返ってみる必要があります。今や日本で特許をとっても隣国では野放しとなり日本へも逆輸入される有様です。国境はあってもなきが如く、というのがWTO自由貿易の世界です。インターネットによるコンテンツの流通は、そもそも国境を無視した所に成立しております。
 このような時代にあって、知的財産の保護は、全く新しい視座で再構成する必要があります。パリ条約の古典的な大原則「属地主義」は国境の存在を前提とした原則です。
 本年1月から侵害品は輸入に加え輸出も侵害とされ、水際取締りも強化されます。
 このような水際取締りは、グローバル化時代に侵害品の国際流通をチェックする制度として、今後一層強化される必要があります。
 グローバルな商品の自由流通は、適正なルールの下に行われなければなりません。かかるルールの代表たる知財制度は、新技術等の創造者に一定期間の独占権を与えることにより、模倣を防ぎ、創造と投資の意欲を鼓舞して自由主義経済の活性化を図ることを、根本精神としています。
 従って、日本がこれから追求する途は多層構造となるべきです。
 ● 第1に、国内における知財制度の完備と近隣諸国での整備の促進及び調和
 ● 第2に、我が国における水際取締り制度の確立と諸外国での対応制度の確立
 ● 第3に、日米欧先進国間及び日中韓等近隣諸国での知財制度の調和と相互協力の並行的強化
 ● 第4に、広域市場化とアジア広域知財制度の確立

国際化に対応する弁理士制度・知財制度のあり方
 弁理士制度の国際化時代への対応は、甚だ遅れています。
 外国出願関連業務が、やっと弁理士の標榜業務化されようとしています。「遅きに失する」の観なしです。これがEPCやPCTの成立した頃、20年以上前になされていたら、日本の知財における国際的地位はもっと高くなっていたと思われます。知財の源泉たる発明やコンテンツ情報には国境が無いこと、しかし、与えられる特許などの知的財産権には国境があることは、公理として教科書的には誰しも知っていた。しかしその保護をグローバル化世界の中で、どのようにグランドデザインするか、この視点が欠落していたと思われる。日本で特許を取るだけでは不十分で、外国でも取らなければ保護されない。このことも周知です。しかし、そういう現行制度がある中で、どうやって生命線を築き守って行くかという国家的視点からの知財の国際的保護の戦略的構想が必要ではないか。
 欧州ではECの成立と併行して欧州特許制度(EPC)が創設されて発展しています。今や、25カ国にも達する一大広域特許制度になりました。しかし、我が国での国際化への対応は全て個別企業と弁理士に委ねられ、米国・欧州・中国・韓国等での特許取得に努める以外ありませんでした。しかし、このやり方では既に限界に達しており、今や国家百年の構想としての、アジア広域市場化対応のアジア広域知財制度を構築する必要があります。
 知財の保護は国家の主権に係ること、即ち、「知財権の国境性」を十分考慮して知財を国際戦略的に保護・活用するためのグローバル・デザインこそ、今求められています。
 そして弁理士制度も、それに十分対応出来る制度に、再構築することが必要であります。
 アジア特許庁にはそれを支えるアジア弁理士制度が必要になります。日本の弁理士は、やがてその中核として活躍する時代が来るでしょう。
 皆さん、次の百年の大計へ向かって大きな夢を語ろうではありませんか。

以上

この記事は弁政連フォーラム第168号(平成19年1月25日)に掲載したのものです。
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