PF-JPA
弁政連2年の歩み
−弁理士制度改革の現段階と課題−



日本弁理士政治連盟
会長 加 藤 朝 道

 はじめに
 会長としての2年の任期満了に際し、弁政連の活動を支えていただきました会員の皆様及び弁政連の方針の実現に多大のご尽力をいただきました国会議員の先生方に、心からの御礼を申し上げると共に、この2年を省みて見たいと思い筆を取った次第です。

知的財産と憲法
 2年前、私が弁政連会長に就任したのは、日本弁理士政治連盟創立30周年の式典の数ヶ月後の事です。総会では、「知的財産の創造・保護・活用を憲法に!」をスローガンに掲げました。森哲也弁政連会長(当時)は、参議院憲法調査会の公述人として選ばれ同旨の主張をいたしました。その後マニフェスト選挙の中で自民党の憲法草案(第29条)、民主党の憲法提言に、知的財産権について明記することが謳われ、知的創造立国が、国のかたちとして政治の中枢で取上げられることなりました。私はその年を知財立国にとって憲法元年と位置付けました。
 こうした中で2年が経ち多くの議論を残しながらも国民投票法が成立し、いよいよ憲法議論が本格化しようとしています。弁理士は、知的財産に関する唯一の専門国家資格であり、その政治連盟として、憲法改正の際には、知的創造立国が国のかたちとなるよう推進されることを、念願いたします。

知的財産戦略と弁理士制度改革
 2002年の小泉施政方針に始まり、知的財産基本法の下で2003年以来毎年知的財産推進計画が策定されて知的財産戦略が進められ、2006年からの3年間は第2期と位置付けられています。
 WTO・TRIPS体制の下での世界経済のボーダーレス化の進展は、各国知的財産制度の国際競争の激化を顕出させました。国際競争に生き残るか否かは、知的財産制度とそれを支える人的資源、その中核としての弁理士の国際競争力如何にかかっていると言っても過言ではありません。かくてそれを制度的に裏付けする弁理士制度の国際競争力の視点からの充実・強化が、至上命題となっています。
 勿論、バイオ・農水関連の特定分野や温暖化対策、ナノテクノロジー等の先端分野での知財専門家の充実、地域活性化のための弁理士の拡充の問題もありますが、これらの人的基盤の強化は、今や「国際競争力」という視点を抜きにしては、語ることができません。
 今や、知的財産権の保護・活用は一国だけでは不十分であり、国境を越えて自由に物とサービスが流通し、発明などの情報は通信ネットワークにより瞬時に世界に広まるのが現実となっています。
 そうした中で、弁理士制度の改革の歩みは、「遅々として一歩一歩」の観があります。今回の弁理士法改正案(参議院先議通過)は、日本弁理士会が総会決議によって方向付けをした項目中、幾つかは、達成しましたが、その他は今後の課題となって残っております。

今後の課題
 登録前実務研修制度が既登録弁理士への義務研修制度と共に導入されたこと、及び外国出願関連業務の標榜業務化は、これまで非常に大きな抵抗があったことを考えると大きな一歩前進ではあります。
 しかしながら、国際競争力を備えた弁理士の育成という観点からすれば論文試験に条約の復活がなく、単に国内工業所有権法の出題範囲内に含まれることを省令で明確化することに止まったことは、極めて首尾一貫性のない消極的改正であると言わざるを得ません。登録前研修にしても、そもそも合格者の急増による実務未経験者の増大への対応という性格のものであり、国際競争力の強化のためという積極的視点からのものではありません。
 さらに、今回の改正では、日本弁理士会総会決議に掲げた「技術と法律の素養を有し国際性を備えた知的財産専門家としての弁理士」という枠組みの理念をいかに実現するかという途筋が見えて来ない、という問題が残されています。これは、再度弁理士試験制度を研修も含めて国際競争力を備えたあるべき弁理士の制度的担保という視点から、全面的に見直すことが不可欠であります。

弁理士制度改正と立法府の役割
 平成18年4月スタート以来産業構造審議会の公式な場での議論は各項目について事務局の設定した方向付けが殆どネガティブなものであり、「マイナス」からのスタートであった。そのため、審議会での主張への支援に加え、それを国会議員の先生方に幾度となく訴えて、やっとここまでこぎつけた、というのが実情です。
 そういう意味でこの2年を省みると、弁理士制度推進議連(自民党)の果たした役割は極めて大きいと言えます。今回の改定の方向付けをこの2年間に何度も決議していただき、1年前の平成18年2月にようやく、特許庁から「やります」との言葉を頂きました。しかし、審議会の議論スタート後も9月中旬まで、殆ど強い逆風のままでした。登録前実務研修と外国出願関連業務について前向きな姿勢が事務局から示されたのは、やっと9月20日以降のことでした。この進展は7月4日弁理士の日記念式典での中川秀直議連会長のお言葉等、弁理士制度推進議連のご尽力による所大でした。
 そうした中、10月末に至り、残った2項目、「特定不正競争防止法及び水際手続への関与の拡充」と「条約の復活」のうち、「後者をあきらめないと前者も共倒れになる」との示唆がある筋からあり、弁理士会は、「条約の復活」に代わり「出題範囲の法令上を含む明確化」で妥協せざるを得ない所に追い込まれました。
 所が、後者で妥協しても、前者も法曹関係からの反対意見があったため一向に進みませんでした。
 この問題は、弁理士制度推進議連の臨時総会で議論される一方、党の公式機関(知的財産戦略調査会、司法制度調査会)で話題にもなりました。結局司法制度調査会を中心に打開が図られ2月上旬法案の閣議決定にこぎつけたものです。打開の中心としてご尽力賜りました保岡興治先生(司法制度調査会最高顧問)、山本拓推進議連事務局長(農水副大臣)、その他多くの国会議員の先生方に厚く御礼申し上げます。
 かくて、法改正の取組を立ち上げるか否かから、各改正項目としての採否、更に、法曹関係からの反対意見への対処に至るまで立法府からの行政(特許庁や法務省など)へのお力添えを抜きにしては、今や、弁理士法改正は何も進まない、ということが明らかです。
 法案の審議においては、与野党の委員から有意義な質問が出されると共に、参議院経済産業委員会による附帯決議(既報)がつけられ、参議院(先議)通過に至ったことは、自民党弁理士制度推進議連を初め、民主党知財制度改革推進議連や公明党知財制度議員懇話会などの与野党にわたる知財関連国会議員グループとの交流を深めて来た成果であります。

活動の成果は全弁理士に及ぶ
 弁政連活動の成果としての「弁理士法改正」の恩恵に全ての弁理士は等しく浴するものです。そうした観点から、弁政連活動への支援と協力を全ての弁理士が積極的にすることが、弁理士の社会的地位の向上、国際競争力の強化への布石となることを、重々ご理解賜れば幸甚に存じます。

おわりに
 我が国が知的創造立国を「国のかたち」として明確にすること、その推進の中核として国際競争力の強化に弁理士制度が機能すること、これこそが、弁理士制度の存在意義であると考えます。そして、そのような「国のかたち」の実現に向かって、弁政連に多くの志ある弁理士が力と知恵を結集し、弁理士制度と共に我が国発展の礎を固められるよう、念願して挨拶といたします。
−弁理士制度の強化によって国際競争力の更なる強化を−

(以上)

この記事は弁政連フォーラム第172号(平成19年5月25日)に掲載したのものです。
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