PF-JPA



新知的財産推進計画策定に際しての提言



  

fukuda.shinich
日本弁理士政治連盟
副会長 福 田 伸 一



提言1

初等・中等教育の過程において、教科書に知的財産権の重要性を明記し、啓発する教育体制を構築することについて検討すること。

政府は、これまでの知的財産推進計画に則り、様々な「模倣品・海賊版撲滅キャンペーン」を行っている。しかし、それらの多くは、既に自身の価値観を形成するに至った大人に対して警鐘を鳴らすものであって、そもそも、何故、模倣品や海賊版が悪であるのかを啓発しようとするものではない。知的財産が国家戦略の大きな柱として機能するためには不断の人材教育が不可欠であり、初等・中等教育の過程において、発明することの重要性、無形の財産である知的財産権を尊重する心、を十分に理解させなければ、如何に前記キャンペーン等を行ったとしても意味をなさない。
「新成長戦略(基本方針)〜輝きのある日本へ〜」において、政府は、「成長の原動力として何より重要なことは、国民全員に質の高い教育を受ける機会を保障し、様々な分野において厚みのある人材層を形成することである。すべての子どもが希望する教育を受け、人生の基盤となる力を蓄えるとともに、将来の日本・世界を支える人材となるように育てていく。」と明言している。
初等・中等教育の中で、人生の基盤となる力として、子ども達が知的財産権マインドを蓄えることは、資源に乏しい日本が、将来、世界の中で重要な地位を占めるために不可欠である。
したがって、初等・中等教育の過程において、教科書に知的財産権の重要性を明記し、啓発する教育体制を構築するべきである。

提言2

国内中小企業者に対する出願審査請求料の減額について速やかに実行すること。
(1) 背景
かねてより、多くの中小企業は慢性的な不況に喘いでいたものであるところ、その状況は、所謂リーマンショックの後、更に深刻な状況に陥っている。
中小企業の多くは、ものづくりの過程において優れた技術開発等を行ってはいるものの、経済的な問題によって知的財産権を確保することができていない。
(2) 特許庁施策と問題点
ここ数年来、特許庁に対する各種手数料の内、所謂登録料、出願料は、従前に比して安価になってきている。しかし、依然として、もっとも高額である出願審査請求料については、何ら有効な施策が講じられていない。
もちろん、特許庁は減免制度を採用するものであるが、これを受けるための中小企業要件は極めて厳しく、且つ、手続も煩雑である。
さらに、平成21年度には、暫定的措置として、出願審査請求料納付繰延制度が採用された。そのこと自体は評価するべきであるが、この制度とて、後日、満額を納付しなければならず、中小企業の経済的負担を軽減させることには繋がらない。
(3) 地域の取組み
現在、幾つかの「市」においては、市内中小企業者が特許権等の取得に際して補助制度を講じている。それらは、概ね、市税納付を主たる条件としつつ、出願審査請求料を含む特許庁費用、弁理士費用の総額の50%程度を補助するものである。
このような補助制度を講じている「市」は、市内事業者が特許権等を取得することで活性化し、その特許権が財産的に利用されることによって更なる雇用創出/技術開発につながり、最終的には地場の振興や市税増収を期待するものであって、決して潤沢とは言えない「市」の財源をやりくりして特許権等の取得を推進しようとするものである。
しかしながら、このような制度は、すべての「市」で講じられているものではない。
隣接する「市」間において、一方の市の事業者は補助制度を受けることができ、他方の市の事業者は補助制度を受けることができない、という地域格差が生じている。
(4) 国家としての取組
知的財産を国家戦略と位置づけるのであるならば、国家の基盤を形成する中小企業による特許権等の取得支援を、国政で行わなければならない。一部、知的財産を重要事と認識する市政に任せておくべきことではない。
知的財産の取得/活用を通じて中小企業が元気になることは、技術の発展のみならず、国家レベルでの雇用創出、税収増加につながるものである。
中小企業の出願審査請求料を半額にすることによって一時的に特許特別会計収入が減ずるかもしれないが、それは、特許権等の取得/利用によって収益を上げた中小企業からの税収によって十分に賄われるはずである。
(5) 知的財産推進計画2009について
知的財産推進計画2009の重点施策の一つに「中小・ベンチャー企業に対する特許手数料減免制度を見直す」(項目番号309)がある。ここには、「(本施策は)2009年度中に可能なものから着手する」と規定されていたが、少なくとも現状において「見直された結果」は示されていない。
これは、本施策が「特許特別会計の収支の状況、利用者ニーズ、他の利用者に与える影響等を踏まえつつ、〜」というスピード感に乏しい内容になっていたこと、そして、前記の通り「〜可能なものから着手する」という消極的な規定ぶりになっていたことに原因がある。
(6) 新たな知的財産推進計画に向けて
新たな知的財産推進計画において、知的財産推進計画2009と同様、「中小・ベンチャー企業に対する特許手数料減免制度を見直す」ことを重点施策の一つとしつつ、その内容については、もはや「検討や可能なものから」という次元ではなく、「中小企業の出願審査請求料を半額にする」という具体案を示し、且つ、その時期についても「遅くとも2010年度中に実行する」というようなスピード感のあるものにすることにより、喫緊の課題である経済不況に対処し、昨年末に閣議決定された「新成長戦略(基本方針)〜輝きのある日本へ〜」を実効あらしめるべきである。


 


この記事は弁政連フォーラム第205号(平成22年2月25日)に掲載したのものです。
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