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行政書士会との一連の騒動について
 <平成13年04月25日>
 
furuya.fumio
日本弁理士政治連盟
最高顧問 古 谷 史 旺
 
 

新弁理士法は、業務の一部の施行が据え置かれた変則規定
1.平成12年法律第49号をもって同年4月26日公布、同13年1月6日施行の弁理士法は、業務の一部に関する第4条第3項の施行期日が"公布の日から起算して2年を超えない範囲において政令で定める日"と据え置かれた変則施行となっている。

据え置き規定は第4条第3項、契約代理…。
2.第4条第3項は『弁理士は、前2項に規定する業務のほか、弁理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは著作物(著作権法(昭和45年法律第45号)第2条第1項第1号に規定する著作物をいう。)に関する権利若しくは技術上の秘密の売買契約、通常実施権の許諾に関する契約その他の契約の締結の代理若しくは媒介を行い、又はこれらに関する相談に応ずることを業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りではない。』と規定されている。

何故、変則規定になったのか。
3.大正10年施行の弁理士法を21世紀の時代と業務の実態に合った弁理士法に改め、知的財産権に関わるこの業界が更に発展する礎を築いて、若い世代に遺産として引き継ぎたい。そんな思いに駆られた昭和30年代の先達からの意思を受け継ぎ、関係各位の筆舌に尽くし難い血の出るような努力が実って、新弁理士法の骨格が固まり、漸く国会上程に漕ぎ着けた矢先、突如として降って湧いたのが、行政書士会の弁理士法改正に対する反対の動きであった。
 行政書士会の主張を端的に言えば、"権利義務又は事実証明に関する書類の作成は、行政書士の専権(行政書士法第1条の2,同第19条)であるから、新弁理士法第4条第3項でいう契約代理云々の規定は、行政書士法を踏みにじるものであって認められない。"というものであった。

前門の虎、後門の狼
4.第4条第3項でいう契約代理云々は、我々弁理士の誰でもが経験する依頼者から相談を受ける事項である。弁理士は特許等の知的財産権に関する権利の創生及び権利の取得並びに権利の活用に至る、いわゆる"知的創造サイクル"に深い関わりの中で日常業務を行っている。しかるに、大正10年施行の弁理士法は、権利の取得に重きが置かれ、曖昧な規定ぶりとなつていたことから、契約の代理云々が弁理士の業務に入るのか否かが常に問われ、弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱等の禁止)規定違反に怯えていた。
 士業法の中でも圧倒的優位を誇る弁護士法との関係で、関係各位が最も苦労されたのも、弁護士法との業際問題であり、この第4条第3項でいう契約代理云々の規定もその一つであったことは、想像するに余りある。
 弁護士会との関係を決着できた、と喜んだのも束の間、後門に行政書士会が待ち構えていた。

追い風と向かい風の中で翻弄された弁理士法改正
5.平成6年に科学技術基本法が成立し、日本のあるべき姿を"創造的科学技術立国"に求め、それを国定とした。一方、我が国の特許庁は荒井寿光長官が「これからは日本もプロパテントの時代」政策を強力に推進し、特許法等の改正、裁判との関わり改善等の諸施策を矢継ぎ早に行ってきた。弁理士会も、理事会と弁政連が協同して、多くの国会議員をはじめ、法務省、裁判所、経団連、日経連、その他の団体首脳に"日本の産業復興のためには知的財産権制度の強化と弁理士法の改正が不可欠"を訴えて歩いた。
 政府の規制改革委員会や経済戦略会議も、「知的財産権に関する制度面と人的面での改革・強化」を別項を設けて答申するに至っていた。
 その一方で、規制改革委員会の規制改革重点項目の中に、自由競争原理の導入と自己責任原則の確立の観点から、士業法にもメスが入れられ、合格者の大幅増員、事務所の法人化、複数事務所設置の自由化、料金表の撤廃等が盛り込まれていた。
 側聞ではあるが、頼みとするべき知的財産協会からも難題を投げ掛けられ、また、公正取引委員会との関係もあったり、更には弁護士会、法務省、最高裁といった法曹三者の厚い壁に阻まれ、はたまた、内閣法制局の頑なな考えにも翻弄され、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んだ末の弁理士法改正であった。
 それが故、侵害訴訟代理権の獲得をはじめ、外国出願業務の明文化、守秘特権規定の盛り込み、照会請求権の規定化等は、確約されていない第2次弁理士法改正に委ねることとなってしまった。

なり振り構わない行政書士会の反対運動
6.弁理士法改正は、政府提案であり、私の記憶によれば、法案成立の過程は次のとおりである。
 まず、政府与党の自由民主党の商工部会に諮られ、次いで、同党の政務調査会、同党の総務会を経て党議決定がなされる。法案は内閣に持ち込まれ、順調に推移すれば1〜2週間後の閣議決定となる。その後、衆議院の商工委員会、本会議での採決、参議院の経済産業委員会、本会議での採決を経て法律として成立する。
 行政書士会は、弁理士法改正案が自由民主党の商工部会に諮られることを察知して、大挙して自民党本部に押しかけ、正面玄関前ロビー、商工部会が開催される7階ロビーに鉢巻き姿で現れ、商工部会に集まる国会議員に対しビラを配って反対の動きをした。実に異様な雰囲気であったし、そこまでやるかの驚きであった。その結果、商工部会での決定は持ち越しとなり、弁理士法改正は風前の灯火となってしまった。
 行政書士会は、全国に5万人を超える会員を擁し、行政書士会の会長が政治連盟の会長を兼任している。
 行政書士会の議員連盟会長は元総理大臣の中曽根康弘議員、事務局長に先のKSD事件で逮捕された小山孝雄前議員、そのボスに参議院議員の議員会長で、KSD事件で同じく逮捕された村上正邦前議員であり、弁理士法改正案は参議院先議が決まっていたことから、大変な壁を乗り越えなければならなかった。
 そんな最中での夜半、これ以上延びれば、弁理士法改正は廃案となるギリギリの線で、関係議員の働きかけにより、弁理士会と行政書士会が決断する時を迎えた。ときの弁理士会執行部は苦渋の選択を余儀なくされた。
 弁理士法改正を見送るか、確認案を受諾するかの選択であった。

異様な雰囲気での確認式
7.翌朝、自民党本部で関係議員立ち会いのもとで確認の会議が催された。出席者は、関係国会議員、行政書士会の監督官庁である自治省首脳と特許庁首脳、弁理士会会長をはじめ一部の関係者、行政書士会執行部、弁政連の一部関係者、私も呼ばれた。
 確認の概要は、その時ペーパーが配られて読み愕然とした。私の予想を遙かに超えるものであった。しかしながら、ときの弁理士会理事会の選択は正しかったと思っている。というよりも、選択の余地はなかったと言った方が的を得ている。後々問題となるのは次の一項である。
『工業所有権、半導体チップ、著作権、ノウハウを含む契約代理を行政書士が業務として行える旨の行政書士法改正が行われる場合、特許庁は異議を唱えないこと。』

行政書士法の改正の動き
8.行政書士会は、最も頼みとする議員連盟の村上正邦前議員、小山孝雄前議員をKSD問題で失い、意気消沈していると思いきや、どっこい半端ではなかった。行政書士会の議員連盟の会長に、泣く子も黙る野中広務自民党前幹事長を担ぎ出してきた。
 政府提案の法案であれば、内閣法制局の厚い壁が立ちはだかり、法の不整合は一切拒絶されるが、行政書士法は、もともと議員立法であるから、多少の不条理・不整合があっても成立してしまうところに怖さがある。
 私共もその点を怖れていたが、行政書士会は代行業から代理業へ幅の広い改正を求めて運動した。ところが、弁護士会、法務省の壁に阻まれ、窮した挙げ句に上記の確認書を楯に、弁理士の業務への食い込みをかけてきた。
 行政書士法改正案は、途中経過のものまで含めると多種あるが、最も極めつけは、業務の明確化と称して、『特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは著作物に関する権利若しくは技術上の秘密の売買契約、通常実施権の許諾に関する契約その他の契約の締結の代理若しくは媒介を行い、又はこれらに関する相談に応ずることを業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りではない。』と、弁理士法第4条第3項の規定を丸飲みしてきたことである。

弁理士会と弁政連の猛烈な抵抗と紆余曲折
9.新弁理士法を成立させるに当たり、行政書士会の反対に遇い、土壇場で特許庁と自治省との間で確認書が交わされたことは事実であるが、知的財産権の根幹を為す特許、実用新案、意匠、商標の分野に、試験・研修など何ら裏付けのない行政書士が介入してくることは、単に我々弁理士との軋轢を引き起こすだけでなく、制度を利用する国民に無用な不安を与える。そればかりか、我が国の産業復興の鍵を握る"知的財産権制度の強化"といった国家戦略に悖ることとなる。
 弁理士会と弁政連は、衆・参の国会議員に対し、上記の行政書士法改正案を修正するよう強く求め、一時はその運動が功を奏しかけたが、野中広務自民党前幹事長の鶴の一声で情勢が一変してしまった。我々が頼みとする議員に圧力をかけたに相違ない。万事休すかと思われたが、その後日に開催された自民党商工部会の会合で、尾身幸次自民党幹事長代理を始めとする、心ある国会議員が相次いで異議を唱え、行政書士法改正案を練り直すこととなった。

行政書士法改正案の最終案
10.保岡興治自民党司法制度調査会会長が取り纏め役となり、最終的に固まったのが以下の改正案である。
[改正案]
第1条の3  
一.行政書士が作成することができる書類を官公署に提出する手続きについて代理すること。  
二.行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。  
三.行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
(弁理士との関係箇所のみ抜粋、アンダーラインは筆者が便宜のため引いた。)  

今後注視すべき点
11.上記の行政書士法改正案は、特許、実用新案、云々の文言は消えたが、法案が成立した後の運用に問題が残っている。
 つまり、行政書士会が会員に対し、どのような指導をするかである。今回の行政書士法の改正で、行政書士は「代行業」から「代理業」へ飛躍できたが、そのことを除けば、今回の改正案は、行政書士が行ってきた業務の確認と位置づけられており、業務範囲が拡大されたのではない。
 従って、弁理士業務の一部が取り込めたかの如き宣伝をするとなれば、それは大きな誤解であり、問題である。新弁理士法では、我々弁理士の専権であった登録料の納付、登録申請といった簡易手続きの一部を解放した。それは、誰でもが行い得る手続きとしたのであり、今回の行政書士法の改正によって行政書士に取り込まれた業務ではない。
 しかるに、一部の行政書士会幹部は、弁理士業務の一部を取り込めたと解釈している節がある。困ったものである。
 弁理士会執行部は、行政書士会が発行するニュースその他をウォッチングし、出過ぎた宣伝には断固とした態度で臨むべきである。
 それにつけても、今回の騒動で感じたことは、一つには政治力の更なる強化である。二つには弁理士会が侵害訴訟代理権等の獲得のため、第2次弁理士法改正を目指すのであれば、否、目指すべきであるが、今回の弁理士法改正で弁理士の新たな業務に加えられた不正競争防止法の関連業務、著作権法の関連業務を、すべての弁理士が自分のものとして確実に消化し、社会の期待に応えることである。正論で臨み世論を味方にすれば、必ず勝利することを確信した。

以 上


この記事は弁政連フォーラム第101号(平成13年4月25日)に掲載したのものです。

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