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『信頼性の高い能力担保措置』は、
どのような制度設計にするべきか

 
furuya.fumio
日本弁理士政治連盟
最高顧問 古 谷 史 旺
 
 

1.政府の司法制度改革審議会が平成13年6月12日付で公表した『司法制度改革審議会意見書』では、弁理士に対し侵害訴訟代理権を付与すべきことを提言している。ただし、侵害訴訟の代理権の付与は、(1)弁護士が受任している事件に限ること、(2)信頼性の高い担保措置を講じた上であること、の条件が付されている。
2.いま、日本弁理士会では、上記の条件のうち、(2)信頼性の高い担保措置を講じた上であること、をどのように解釈し、具体的な制度設計を弁理士法に組み込むかで、意見が真っ二つに割れていることを、会員の多くは知らないのではないかとの危惧が持たれ、ここに敢えて問題を明らかにすることとする。
3.日本弁理士会の執行部の多数意見、というよりも殆ど固まった意見は、“信頼性の高い能力担保措置を講じた上で”とは、すべての弁理士に研修・試験を実施して侵害訴訟代理権を付与することは現実的でないから、侵害訴訟の代理権を希望する者に限って、日本弁理士会が行う60時間程度の研修を受講させ、そのあと、国(特許庁)が効果確認試験を行うという図式を描いている。
4.この考え方は、日本弁理士会の独自の発想ではなく、特許庁が平成13年6月18日付で公表した『これからの知的財産分野の研修のあり方を考える懇談会』の報告書で示された内容そのものであるが、そのような制度設計で本当に良いのかとの疑問を抱かずにはおれない。

疑問その1
 『これからの知的財産分野の研修のあり方を考える懇談会』の報告書14頁には、「求められている能力担保措置は、特許権等侵害訴訟における訴訟代理権の取得に意欲を有する弁理士を対象とし、研修及びその効果確認を主たる目的をする試験で構成すべきである。…(中略)…試験は、研修を終了した者に対し、国が実施するものとし、(以下、省略)」と記載されている。
 しかしながら、いま、社会から喫緊に求められているのは、絶対的な不足が指摘されている知的財産の紛争処理に対する人的インフラの整備であり、そのための隣接法律専門職種である弁理士の活用である。
 現実に訴訟活動(補佐人、審決取消訴訟代理人)及び訴訟の予備的活動(紛争に関する相談、交渉等)に関わっている弁理士を、如何に素早く侵害訴訟代理人として供給するかの制度設計である。
 残念ながら、司法制度改革審議会の意見書では、弁理士に対する単独による侵害訴訟代理権の付与は認めていない。弁護士が受任する事件に限って侵害訴訟代理人となることを認めているに過ぎない。
 これは、弁理士を単独で侵害訴訟代理人とさせるには心許ないから、弁護士との共同受任形態を描いてのことであろう。
 そうであるならば、現実に訴訟活動及び訴訟の予備的活動に関わっている弁理士に対し、60〜100時間もの研修をさせ、しかる後、効果確認のための試験を国が行うことが本当に必要なのであろうか。大いに疑問である。
 弁理士は、80年に及ぶ補佐人としての実績、60年に及ぶ審決取消訴訟の代理人としての実績がある。そのことを踏まえるなら、日本弁理士会がしっかりとした研修システムを構築し、会員に受講させることで十分であろう。研修に要する時間数は、せいぜい30時間が限度である。でなければ、現実に必要とされる弁理士の多くが、物理的事情(時間的制約)から受講できない制度を構築することになる。

疑問その2
 信頼性の高い能力担保措置は、“研修の骨格を国が定め、国が試験を行わなければ”本当に保てないのであろうか。
 新弁理士法第56条では、弁理士の職責に鑑み、日本弁理士会の正副会長会が会員の指導、連絡に加えて監督の義務が課せられた。
 したがって、新たに加わる侵害訴訟代理に関する業務が社会の要請に的確に応えられるよう、日本弁理士会が自らの意思で、そのための研修体制の確立を行うことが肝要である。
“信頼性の高い能力担保措置”とは、正にそのことを指している、と私は理解している。
 司法制度改革審議会の意見書では、特許庁が公表した『これからの知的財産分野の研修のあり方を考える懇談会』の報告書14頁に見られるような、「研修の骨格等は、国が定めるべきである。」と要求している訳ではないし、まして「…試験は、研修を終了した者に対し、国が実施するものとし、(以下、省略)」を要求していることでもない、と信じている。
 国が行わなければ信頼性の高い能力担保措置が構築できない、との考えは、行財政改革に於ける“規制を緩和し競争原理を働かせ自己責任の社会を構築する”政府の方針に逆行するだけでなく、新弁理士法第56条の規定を空文化させるものである。日本弁理士会の自立・自治といったものを全く認めないに等しい。
 行財政改革の目指す今後の国の在り方は、“国が全面に押し出るのではなく、その制度が定着するまでの間、後方から支える姿に変えて行く”ことではなかったのか。

疑問その3
いま、進められている侵害訴訟代理を行うための信頼性の高い能力担保措置についての制度設計は、弁理士の中に資格内資格を創設することであり、また、それを将来とも存続させることであり、到底容認できることではない。
 難関の弁理士試験に合格した後、侵害訴訟代理を行うための新たな研修と試験が待っているというのであれば、弁理士志望者に過度の負担を強いることになり、有能な若い人材が魅力を失い、受験しなくなる虞があるし、国民の目から見れば、同じ弁理士でありながら侵害訴訟代理を行える弁理士と行えない弁理士が存在することとなり、却って紛らわしい制度となる。
 繰り返しになるが、いま、社会から喫緊に求められているのは、絶対的な不足が指摘されている知的財産の紛争処理に対する人的インフラの整備であり、そのための隣接法律専門職種である弁理士の活用である。
 実際に訴訟活動(補佐人、審決取消訴訟代理人)及び訴訟の予備的活動(紛争に関する相談、交渉等)に関わっている弁理士を、如何に素早く侵害訴訟代理人として供給するかの制度設計である。
 この制度設計の段階になれば、省庁間及び士業間での激しい軋轢が再燃するのは目に見えている。その軋轢のために、妥協の産物としか思えない資格内資格を創設するような愚を犯して良いのであろうか。
 それよりも何よりも、侵害訴訟代理のための資格内資格の創設は、社会が求める隣接法律専門職種である弁理士の活用を、誤った方向へ導くものと思えてならない。

私 見
 弁理士に対する侵害訴訟の代理権は、希望すると希望しないとに拘わらず、すべての弁理士に付与されるものでなければならない。そのための研修体制の確立は、日本弁理士会が自らの信念と責任において行うべきである。
 信頼性の高い能力担保措置としての研修は、せいぜい30時間をもって限度とし、効果確認試験は不問とする制度設計に改めるべきである。

以 上


この記事は弁政連フォーラム第105号(平成13年8月25日)に掲載したのものです。

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