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特許庁主導の
『能力担保措置ワーキンググループ』                 について

 
furuya.fumio   
日本弁理士政治連盟
最高顧問 古 谷 史 旺
 
 

1.特許庁長官の私的懇談会である「これからの知的財産分野の研修のあり方を考える懇談会」が平成13年6月18日付で取りまとめた報告書を受けて、総務部長のもとに「能力担保措置ワーキンググループ」がつくられた。委員は判事、最高裁行政局第1課長、元判事、学者、弁護士、知財協理事、弁理士会会長の12名で構成され、第1回が8月31日、第2回が9月12日、第3回が9月19日、9月28日の第4回で最終の取りまとめを行う予定と聞かされている。既に第1回と第2回が開催されており、このフォーラムがお手元に届く頃には、第4回の最終取りまとめも終わっていることであろう。

2.急ぐ理由は、来年の通常国会に、弁理士に対する侵害訴訟の代理権を付与するための弁理士法改正案を上程するためである。
 それはそれで歓迎すべきことではあるが、第1回と第2回の会合の内容を側聞すると、急ぐの余り、「ロースクール構想の実現を待たずに、いま、弁理士に侵害訴訟代理権を付与すべき」との提言が出された根本的な理由が忘れられ、枝葉末節的な議論に集約されそうな、由々しき事態となっているように思えてならない。

3.弁理士に対し侵害訴訟の代理権を付与すべき、との公式な意見表明は、政府所轄の行政改革推進本部の規制改革委員会が、平成11年12月14日付で公表した「規制改革についての第2次見解」の中で、業務独占範囲の見直し、相互乗り入れの観点から、「高度な専門的知識を必要とする知的財産権紛争(特許裁判)の迅速かつ適正な解決を図る観点から、知的財産権の専門家であり、かつ出願時点から一貫して関与してきた弁理士に侵害訴訟の代理権を認めるべきであると考える。」(177ページ目)が初めであろう。
 そして、この見解を受けて、政府は、平成13年3月30日付で「規制改革推進3か年計画」を閣議決定し、「資格制度に係る個別措置事項」の中で、「弁理士の訴訟代理等については、規制改革委員会の第2次見解及び司法制度改革審議会の審議結果を踏まえ、司法サービスへのアクセス向上等の観点から検討し、結論を得て所要の措置を講ずる。」と言明している。

4.一方、政府所轄の司法制度改革審議会は、「21世紀の日本を支える司法制度」という副題のもとに、平成13年6月12日付で意見書を公表し、その19ページ目以降で独立項を起こして「知的財産関係事件への総合的な対応強化」に触れ、「技術的知見を有する弁理士の専門性をも活用するため、弁理士の特許権等の侵害訴訟代理権(弁護士が訴訟代理人となっている事件に限る。)については、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、これを付与するべきである。」(21ページ)と言明されると共に、86ページ目以降の「隣接法律専門職種の活用等」の項でも、同様の提言を行っている。

5.上記の規制改革委員会及び司法制度改革審議会の提言が、具体的な制度設計、つまり法案作成の段階で、法務省、最高裁等の頑強な抵抗に遇うであろうことは、誰もが予想することであり、筆者も前回の弁政連フォーラムで指摘したとおりである。
 冒頭に触れた特許庁の総務部長のもとにつくられた「能力担保措置ワーキンググループ」で行われている議論は、正に頑強な抵抗と言うに相応しいものとなっている。
 筆者は議論の現場にいた訳ではないから、正確な発言内容は分からないが、それでも、さもありなんと思わせることばかりである。

6.たとえば、「単独出廷可能とするのであれば、弁護士と同等の研修と試験が必要」だとか、「もし、訴訟進行に不手際があれば、その事件だけでなく訴訟代理人の資格を剥奪する旨を法律に盛り込むべき」だとか、「単独出廷のできる範囲を法律で特定すべき」だとか、「研修・試験の合格者は、せいぜい100〜200人止まり」だとかである。
 単独出廷可能としても、弁護士が受任している事件に特定された侵害訴訟代理人であるから、基本的には弁護士との共同出廷であるし、仮に単独出廷の場合があったとしても、弁理士が専門的知識を活用する場面でない場合は考えられないし、専門的知識を活用する場面であったとしても、事前に依頼人及び弁護士と弁理士との間で綿密な打ち合わせを行うのが、常識であろう。
 したがって、訴訟の進行に不手際が起こるケースは考えられないし、単独出廷に自信のない弁理士は、単独出廷を断るだけのことである。
 「もし、訴訟進行に不手際があれば、その事件だけでなく訴訟代理人の資格を剥奪すべき」の議論は、全くナンセンスであるし、しからば訴訟進行に不手際のある弁護士の場合はどうなるのかと逆に質したい。
 また、弁理士の永年にわたる訴訟補佐人としての実績、審決訴訟代理人としての実績を勘案することなく、而も弁護士が受任している事件に特定されていることを考慮もせずに、ただ、単独出廷可能とは「単独による侵害訴訟代理人」と同じことだから、弁護士と同等の研修と試験が必要だとの議論は、弁理士に侵害訴訟代理人としての資格を付与したくない、単なる嫌がらせに思えてならない。
 100時間を超える研修と試験を課したのでは、現実に必要とする弁理士の多くが物理的(時間的)制約から、研修に応じられない事態となる。
 規制改革委員会及び司法制度改革審議会が期待する隣接法律専門職種の活用は、単に制度(法律)を作っただけの絵に描いた餅となってしまう。
 しかも、研修・試験の合格者を、「せいぜい100〜200人止まり」の制度設計をして、特許弁護士が18,000人という圧倒的な数に勝る米国との国際競争に勝てると思うのであろうか。
 必要以上の合格者の絞り込みは、新たな規制の始まりであり、規制緩和委員会が目指す方向とも逆行する。

7.今回の規制改革委員会の基本理念は、行き過ぎた規制を緩和し、競争原理を働かせて経済に活力を与え、一方で自己責任原則に則った社会づくりを目指している。
 また、司法制度改革審議会の基本理念は、「国民の期待に応える司法制度」とするため、司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとすること、及び「司法制度を支える法曹の在り方」を改革し、質量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保すること等である。

8.そして、司法制度改革審議会意見書では、「知的財産権関係事件への総合的な対応強化」と、わざわざ独立項を設けて、「とりわけ、知的財産権関係訴訟事件の充実・迅速化については、各国とも知的財産をめぐる国際的戦略の一部として位置付け、これを推進するための各種方策を講じているところであり、我が国としても、こうした動向を踏まえ、政府全体として取り組むべき最重要課題の一つとしてこの問題を位置付ける必要がある。」(19ページ目)として制度面と人的面でのインフラ整備を具体的に指摘し、人的面では、「技術的知見を有する弁理士の専門性をも活用するため、弁理士の特許権等の侵害訴訟代理権(弁護士が訴訟代理人となっている事件に限る。)については、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、これを付与するべきである。」(21ページ)と提言している。

9.いま、社会から喫緊に求められているのは、絶対的な不足が指摘されている知的財産権の紛争処理に対する人的面でのインフラ整備であり、そのための隣接法律専門職種である弁理士の活用であり、必要以上の規制の撤廃である。
 ところが、特許庁主導の「能力担保措置ワーキンググループ」で行われている議論は、法務省、最高裁等の頑強な抵抗に翻弄され、本来行われるべき基本理念に則った制度づくりの議論が為されていない、と嘆かざるを得ない。

10.まもなく、「能力担保措置ワーキンググループ」の最終取りまとめに則った弁理士法の一部改正案が示されることになろうが、関係者にお願いしたいことは、規制改革委員会及び司法制度改革審議会が、いま、なぜ、弁理士に侵害訴訟代理権を付与すべき、との提言を行ったのかの良識ある意味の確認である。
 その上での法案づくりであって欲しいと願わないではいられない。

以 上


この記事は弁政連フォーラム第106号(平成13年09月25日)に掲載されたのものです。

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