PF-JPA




弁理士に対する
 「侵害訴訟代理権」を総括し、
    更なる改正を目指せ!

 
furuya.fumio
日本弁理士政治連盟
最高顧問 古 谷 史 旺
 


 平成14年4月11日、衆議院本会議において『弁理士法の一部改正案』を可決成立させたことは、弁護士至上主義の一角を崩し、侵害訴訟代理権の付与を弁理士に認めた歴史に残る快挙であり、関係各位に最大限の讃辞を送りたいところであるが、これが司法制度改革の一環若しくは先駆けと位置付けられるならば、『改革』ではなく『妥協の産物』であり、制度を利用する国民不在の改正と断ぜざるを得ない。

改正の要点と問題点について

第一点
 弁理士に対する侵害訴訟代理権は、『特定侵害訴訟に関して、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り、その訴訟代理人となることができる。』と規定され、弁理士が単独で受任することはできない。
 常に弁護士との共同受任でなければならず、制度を利用する国民は、弁護士と弁理士のそれぞれに手数料を支払わなければならない。いわば、二重払いを余儀なくされる。
 弁護士、弁理士のいずれに事件を依頼するかは、正に国民の自由な選択に委ねる制度を構築するのが本筋であろう。それが“自己責任と競争原理に基づく社会づくり”であったはず。
 もともと侵害訴訟代理権を有する弁護士の側からすれば、この規定は労せずして仕事が増え、万々歳であろうが、弁理士の側からすれば、“二人揃って一人前”を天下に公表する屈辱的規定と言わざるを得ない。
第二点
 弁理士に対する侵害訴訟代理権は、『弁理士が期日に出頭するときは、弁護士とともに出頭しなければならない。』と規定され、民事訴訟法第56条で『訴訟代理人が数人あるときは、各自当事者を代理する。』と規定する“個別代理”の原則の例外を規定している。これ程までに金縛りする必要が本当にあるのか。
 弁護士との共同受任である以上、自分が不得手な場面で、弁理士一人がノコノコ出頭して恥をかく馬鹿がいるであろうか。
 そこまで愚弄されて、“補佐人よりも一歩前進した”と心底から喜べるであろうか。
第三点
 弁理士に対する侵害訴訟代理権は、『特定侵害訴訟代理業務試験に合格し、かつ、その旨の付記を受けたとき』に初めて資格が与えられるが、試験の前に、研修を受けなければならない。最低45時間の研修が待っている。
 弁理士は、80年に及ぶ「補佐人」としての実績、60年に及ぶ「審決取消訴訟代理人」としての実績を有するが、これらが少しも評価されることなく、一律の研修と試験が行われる。
 国際的にも多発が予想される知的財産権の紛争処理に対応すべく、弁理士の活用を認めながら、肝心なところで“参入規制”の網が掛かる。
 所定の研修は必要と思うが、弁理士試験に合格した者に対し、屋上奥を重ねる試験は無用である。制度設計を間違えている。能力のない弁理士は、競争原理により自然淘汰されるだけである。
第四点
 弁理士に対する侵害訴訟代理権は、特許、実用新案、意匠、商標若しくは回路配置に関する権利の侵害又は特定不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟を「特定侵害訴訟」と称し、活動範囲に限定が付されているが、著作権と特許、実用新案、意匠、商標若しくは回路配置に関する権利とは、同じ土俵で争われる場合が殆どであり、この活動範囲の限定は、却って無用な混乱を起こすだけである。縄張り争いによる妥協の産物でしかない。

衆参両院の附帯決議について
 弁理士法の一部改正による『侵害訴訟代理権』は、初期の目的と大きくかけ離れた『妥協の産物』であり、近い将来“あるべき姿”に再改正されなければならないが、その為には、そのことを国会の審議の場で明らかにすると共に、附帯決議で明記しておく必要がある。
 附帯決議には、日本弁理士政治連盟の切なる願いが込められている(下線は、筆者が付けた。)。

〔参議院での附帯決議〕(平成14年4月4日)
 政府は、本法施行に当たり、次の点について適切な措置を講ずべきである。
1.我が国産業の国際競争力の強化及び経済活性化の観点から、知的財産の重要性が高まっていることにかんがみ、広汎かつ多様な分野にまたがる知的財産権にかかわる弁護士、弁理士等の各種専門サービス業においては、利用者の利便性に配意して、柔軟かつ円滑に対応できるような制度を検討すること。
2.弁理士の侵害訴訟代理権付与の条件となる研修・試験については、訴訟実務に即した信頼性の高い能力担保措置となり得るようにするとともに、地域の弁理士が受講しやすくするための環境整備に努めること。
3.特許権等の侵害訴訟の迅速かつ効率的な処理を図るという本法改正の趣旨に沿って、弁理士と弁護士とが専門的知見を相互に活用し、連携して訴訟に対応できるよう、制度の運用に十分配慮すること。
4.今後の弁理士制度の在り方については、多様化、複雑化及び総合化する知的財産権をめぐる内外の動向及び利用者からの要請等を踏まえて、訴訟受任の在り方や訴訟代理業務の範囲などについて引き続き検討すること。
  また、知的財産権紛争が近時急速に国際化している動向を踏まえ、弁理士の訴訟代理権が国際的な整合性を確保できるよう、更に検討を深めること。

右決議する。

〔衆議院での附帯決議〕(平成14年4月10日)
 政府は、本法施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずべきである。
1.弁理士に対する訴訟代理権付与に伴う研修及び試験のあり方については、研修の修了基準や試験の細目等について、その実施状況にかんがみ不断に見直しを行うとともに、その実施について、弁理士の更なる地域偏在を助長することのないよう配慮すること。
2.弁理士の先端技術分野に係るバックグラウンドを充実し、国際的な業務展開能力を涵養するため、弁理士の業務研修のあり方等、弁理士の専門性向上に係る必要な施策について検討を進め、弁理士の資質の向上を図ること。
3.弁理士の知的財産関連訴訟への関与のあり方については、特定侵害訴訟における弁理士の単独出廷について、弁護士との共同出廷の原則を踏まえつつ、その柔軟な運用に配意がなされることを期待するとともに、利用者の二ーズを十分に踏まえ、将来的に弁理士の専門的知見の訴訟審理へのより的確な反映がなされるよう、弁理士の単独受任と弁護士法との関係等を含めて、広範な論議を進めること。
4.近年、知的財産権紛争が急速に国際化している状況にかんがみ、弁理士の訴訟代理権が国際的な整合性を確保できるよう更に検討を進めるとともに、国際的に通用する知的財産専門の人材の育成に努めること。

右決議する。

弁理士法の更なる改正を目指せ
 弁理士を取り巻く環境は、国内的にも国際的にも目まぐるしく変化しており、平成13年に施行された弁理士法も5年後の見直しが明記されている。
 総括してみれば不満の尽きない弁理士法の一部改正ではあったが、それでも関係機関、関係議員、関係各位の尽力により、弁理士に対する「侵害訴訟代理権」の付与は、曲がりなりにも日の目を見た。
 参議院の「経済産業委員会」での審議内容、衆議院の「経済産業委員会」での審議内容は、インターネットを通じて入手可能であり、是非一読していただきたいが、その審議でも、また、上記の附帯決議でも明らかなとおり、弁理士法の更なる改正は、“制度の定着と実績”にかかっている。不本意ではあるが、決まった以上は従うしかない。
 限りなく多くの弁理士が45時間の研修と試験を受け、「侵害訴訟代理権」を獲得し、確たる実績を残し、弁理士制度の更なる改正を目指そうではないか。
 弁理士制度は、弁理士の為だけの制度ではなく、制度を利用する国民の為の制度でもあることを肝に銘じれば、“火もまた涼し”と耐えることが出来ようというものである。


この記事は弁政連フォーラム第114号(平成14年5月25日)に掲載したのものです。

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