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試験・研修制度の見直しは、
夢のある弁理士制度を構築する、
最後のチャンス!

  

furuya.fumio
日本弁理士政治連盟
最高顧問 古 谷 史 旺


 
 易しい試験制度にすれば、優秀な人材は逃げる!
 ほんの2、3年前まで、弁理士試験の合格者は、受験者総数の3%にも満たなかった。
 それが、弁理士の量的拡大の大合唱により、弁理士試験の合格者を増やさざるを得なくなった。試験制度を改正せずに合格者を一気に倍増させれば、今までの試験は何だったのかとの批判を浴びる。
 穿った見方をすれば、そこで試験制度の大改正(平成13年)が行われた。一つには、論文試験が必須5科目、選択3科目の計8科目から、必須3科目、選択2科目の計5科目に減らされた。二つには、選択科目免除者の範囲が拡大され、他の資格を取得した者と博士又は修士の学位を取得した者とが免除された。一般の受験者が極端に不利な試験制度となってしまった。
 予想したとおり、合格率は一気に6%台に上昇し、500人を超える合格者が誕生した。また、一般の受験者の合格が極端に減り、選択科目免除者の合格の割合が極端に増えた。
 “5,000時間必要だった勉強時間が2,000時間で合格できる、”と受験界で囁かれる程、試験は易しくなった。門戸を広げれば、希少価値はなくなり、優秀な人材は逃げて行く。
 知的財産制度を動かすのは人であり、人材の中核を為すのは好むと好まざるとに拘わらず弁理士である。優秀な人材を遠ざける制度設計は、知財国家戦略に悖ると思わないか?

災い転じて福と成せ!
 「数」を増やせば、「質」が相対的に低下するのは、当然の帰結であり、そこに制度的な手当をすることなく、量的拡大のみを大合唱してきた学者、関係団体の責任は極めて重いと言わざるを得ない。
 しかし、責任を追求してみたところで何の解決にもならない。そこで、私としては柄にもなく、寧ろ“災い転じて福と成す”ことを力説したい。
 もし、弁理士の量的拡大の大合唱がなかったなら、“質の低下を防ぐ対策を講ぜずに数だけ増やして天下国家の為になるのか!”との、私どもの必死の訴えを、誰が耳を傾けてくれたであろうか。
 政府の知的財産戦略本部が2004年5月27日付で公表した『知的財産推進計画2004』の97頁と98頁には、「弁護士・弁理士の大幅な増員と資質の向上を図り、知的財産に強く国際競争力のある弁護士・弁理士を充実する。」と記述され、更には「弁理士の量的・質的拡大を図るため、2004年度から、弁理士試験のあり方や弁理士試験合格者の実務能力を担保するための方策等について、知的財産専門職大学院等の活用も含めて速やかに検討を行う。」旨が記述されている。
 委員各位の見識が働いたことも事実かも知れないが、殆どは、私どもの訴えが反映されての結果である。弁理士会の会員は、このことを正しく認識し、評価すべきである。
 “風向きは、時代が自然と変えるのでなく、常に我々自身の力で変えなければならないのだ。”ということを!

夢のある弁理士制度を構築する、最後のチャンス!
 『知的財産推進計画2004』によれば、弁理士試験・研修制度の見直しの主務官庁は経済産業省となっているから、実際には特許庁の主導で行われる。
 平成12年改正の弁理士法は、80年ぶりの改正であったにも拘わらず、政治的妥協により理想とする弁理士制度が中途半端な形で終わっており、今後の行方如何では、全く魅力のない資格制度に成り下がってしまう。
 今後の行方如何とは、試験・研修制度をどのように制度設計するかである。何よりも肝心なことは、我々が弁理士の将来像をシッカリと描き、中途半端な妥協を許さず、試験・研修制度の見直しに、迅速・的確に対応することである。

「技術と法律の専門家」を制度設計の基本に位置づけよ!
 弁理士は、知的財産という土俵の上で、技術と法律の専門家として、我が国の資格制度に他に例のない独自の文化を築いてきた。
 それが故、弁護士法第3条第2項で『弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。』と規定されながら、実際に弁理士業務を行える弁護士は、約19,000人中の僅か500人程度でしかない。
 しかし、誠に残念ながら、平成12年に改正された弁理士制度は、知的財産の創造、保護、活用といった“知的創造サイクル”に一貫して関与できる、「技術と法律の専門家」の体制にはなっていない。
 制度を利用する国民の利便性、経済性、権利者の保護強化といった観点からすれば、極めてロスの多い制度となっている。
 弁理士の将来像として、“知的創造サイクル”に一貫して関与できる、「技術と法律の専門家」を、制度設計の基本に位置づけるべきである。
 そして、それは、試験・研修制度による明確な裏打ちがなければ意味がない。

試験・研修制度の骨格について
1)試験と研修をリンクさせた制度設計にすべき。
 弁理士の仕事は、知識のみでは役に立たない。実務に精通していなければならない。
 試験に合格し登録しただけで開業できる制度は、全く運転ができないペーパードライバーを路上に放り出すようなものだ。実務のできない弁理士を、ただ数だけ倍増しても何の役にも立たない。
 いま、社会が求めているのは、実務に精通した弁理士の不足である。試験での不足は研修とのリンクで補う他ない。研修を受けた後に登録する制度設計にすべきである。それが知的財産制度の強化に繋がる。

2)技術系科目と民事訴訟法を論文試験の必須とし、民法概要を研修のカリキュラムに盛り込むべき。
 弁理士を「技術と法律の専門家」と位置づける以上、技術系科目と民事訴訟法を共に論文試験の必須にしなければ意味がない。それが受験生の負担になったとしても、晴れて夢のある弁理士資格を取得するために、耐えて貰うしかない。
 そうすれば、知的財産の創造、保護、活用といった“知的創造サイクル”に一貫関与できる基盤が整う。

3)改正前の試験制度の如く、条約を論文試験とすべき。
 弁理士の特色は「技術性」、「専門性」、「国際性」にある。外国からの出願、外国への出願は、日常業務の一環であって珍しくもない。時には、外国企業との間で技術提携の契約業務に携わったり、外国企業との裁判事件に関わることもある。
 知的財産制度に関する条約は多義に亘り、知識の有無は、国家間の紛争問題に発展させる程の重みがある。条約を論文試験とすべき理由は、ここにある。



以上  

この記事は弁政連フォーラム第141号(平成16年8月25日)に掲載したのものです。
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