PF-JPA

衆議院経済産業委員会の
『附帯決議』について



  

furuya.fumio
日本弁理士政治連盟
常任顧問  古 谷 史 旺



 
1)今般の「弁理士法の一部を改正する法律案」は、参議院先議で始まり、平成19年6月8日に衆議院の経済産業委員会に付託され、6月12日の本会議において可決成立した。
  この法律案は、平成12年に改正された弁理士法に5年後見直しが織り込まれており、これを受けての改正ということになる。
  このように書けば、淡々と改正が行われたように思われるが、実は大変な紆余曲折があってのことだった。

2)経済産業省の諮問機関である産業構造審議会の知的財産政策部会弁理士制度小委員会の議事録を見れば一目瞭然であるが、当初は改正の必要を唱えるのは弁理士会選出の委員のみで、殆どの委員からは改正すべしとの積極的意見は聞かれなかった。
  平成12年の弁理士法改正が、行・財政改革に於ける規制緩和の大波をモロに受けてのことであったから、理不尽な妥協を迫られた箇所も多々あった。

3)我々は、自民党の「弁理士制度推進議員連盟」をはじめ、公明党、民主党に働き掛けを強め、弁理士試験合格者の30%近くが、実務経験ゼロという実態を踏まえ、質の底上げを訴えて登録前の実務修習を制度化すべきこと、外国出願を業務に明記すべきこと、水際での知的財産権侵害物品の輸出入差し止め手続等に於ける輸出入者側の代理を可能とすべきこと、特定不正競争行為という枠の限定を解除すべきこと、条約を論文試験に単独復活させるべきこと等を求めた。

4)ある意味、知的財産立国を国是とし、ハード面での制度インフラが推し進められ、制度を動かす知的人材の育成・強化に目が向けられていたこともあり、我々の主張が単なるエゴとは映らず追い風になったのかも知れないが、何と言っても弁理士会執行部と弁政連とが一丸となって、繰り返し訴えた“熱意”に国会議員が動かされ、やがて世論が味方となって改正に向かわせたのであろう。
  それでも、様々な抵抗にあって実現が見送られたものもある。 

5)『附帯決議』とは、法案には盛り込めなかったが、法案を審議した国会議員が国会の意思として申し送るもので、成立した法律に準ずる響き・重さがあると受け止められている。
  「弁理士法の一部を改正する法律案」の審議では、参議院でも衆議院でも『附帯決議』が付けられたが、今回は衆議院経済産業委員会の『附帯決議』について補足を加えることとする。

弁理士法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府は、本法施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講じるべきである。

一、弁理士に期待される社会的役割が増大する中で、弁理士を含めた知的財産人材の育成に努めるため、公的支援も考慮しつつ、必要な措置を講じること。また、登録前実務修習については、弁理士に必要な能力を担保できるものとするよう十分措置するとともに、日本弁理士会が行う定期的義務研修については、弁理士の不断の自己研鑽を促し、弁理士の資質の維持・強化に資するよう、適切な制度設計を行うこと。


〔補足説明〕
 弁理士試験に合格し登録前実務修習を受けて初めて弁理士としての登録ができる制度設計であるから、国家試験の一環であることは間違いない。登録前実務修習制度を運用するための費用は、国が負担するのは至極当然のことと思われるが、法案が国会に上程される前の段階では、必ずしもその道理が罷り通ってはいなかった。
 今回の附帯決議にある“知的財産人材の育成に公的支援も考慮しつつ”の文言は、正にそのことを踏まえ、登録前実務修習の制度運用の公的支援も視野に入れつつ、さらに広い範囲での知的財産人材育成支援を見据えて決議したと解される。
 ※弁理士会執行部は、登録前実務修習制度の運用のための公的支援を求めて、関係省庁との折衝を直ちに開始すべきである。

二、弁理士試験の一部免除について、受験者の負担軽減が弁理士の資質の低下を招くことのないよう十分配慮すること。また、海外での知的財産権の戦略的な取得及び活用が重要となっている現状にかんがみ、弁理士の国際的資質を確保するよう、工業所有権に関する条約が論文試験の出題範囲に含まれることを明確にするための措置を検討すること。

〔補足説明〕
 “受験者層の拡大を通じて多様な人材を確保するため”と称して、試験科目の一部免除を拡大してきたが、知的財産に関する大学院の修了者及び弁理士試験の一部科目の既合格者に対して、弁理士試験の試験科目の一部免除制度が導入され、さらに免除が拡大される。
 資格試験は必要とされる規制そのものである。必要とされる規制の免除を拡大し合格者を増やした先に残るのは制度の荒廃だけだ。附帯決議はそのことへの警鐘と受け止めるべきであろう。
 加えて、一部の士業の不適切な免除や免除対象とはならない受験者との不公平感は、免除対象者の合格が圧倒的に多い合格者比率を見れば歴然であり、このことは別途問題にされるべきである。
 また、弁理士法に外国出願業務が初めて明記されたが、それを裏付けるべき条約類の論文試験単独復活は見送られ、課題が残ってしまった。

三、弁理士への信頼性を確保するため、弁理士の名義貸し禁止規定の趣旨が徹底されるよう、弁理士の補助員の業務に関するガイドラインを整備するなどの措置を講じること。併せて、弁理士に対する経済産業大臣による懲戒や日本弁理士会による処分についても、それぞれの措置の運用基準を整備すること。

〔補足説明〕
 この書き振りでは、補助員の業務が問題であるかの如く誤解を与え兼ねないが、補助員は弁理士の監督・指導下に置かれており、弁理士の分身であり、弁理士の業務そのものである。問題があるとすれば、補助員の適正人数のことであろうか。しかし、何をもって適正人数とするか、その合理的根拠を示すのは至難であろう。

四、特定侵害訴訟制度における弁理士の受任等の在り方を含めた弁理士の積極的活用については、訴訟代理の状況や利用者のニーズを踏まえつつ、引き続き検討を進めること。

〔補足説明〕
 「弁理士の受任等の在り方を含めた弁理士の積極的活用」とは、特定侵害訴訟制度に於ける“単独受任・単独出廷”を指している。知的財産推進計画2007においても残された文章であり、弁理士の悲願とも言うべき御旗である。
 弁護士会からすれば目障りな行であり、削除させたいところであろう。しかし、これは国会議員が審議する司法制度改革の流れの中で出てきたもので、制度を利用する国民の利便性を考えての政治意思の表明である。
 弁理士会の一部に、弁護士会の反発を慮って消極的な意見も出ているようであるが、断じて旗を降ろしてはならない。振り続けることが我々の「使命」と心得るべきである。 

五、地域において知的財産制度の積極的な活用を促進するよう、弁理士に関する情報の提供を含め、地域ブランドや地域資源の活用による地域・中小企業の活性化などの各種の取り組みに、弁理士が積極的に関与しうるための施策の実現を図ること。

〔補足説明〕
 特に補足する点はない。
以 上

この記事は弁政連フォーラム第173号(平成19年6月25日)に掲載したのものです。
Copyright &;copy 2000 Political Federation of JPA, All rights reserved.
日本弁理士政治連盟 〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-4-2,弁理士会館内
E-mail: info@benseiren.gr.jp
Tel: 03-3581-1917 Fax: 03-3581-1890
更新日: