PF-JPA

河村内閣官房長官に
「陳情の儀」を提出!





  

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日本弁理士政治連盟
会長 古 谷 史 旺



 
  政府所轄の「規制改革会議」は、経済社会の構造改革を進める上での必要な規制の在り方の改革(国及び地方公共団体の事務及び事業を民間に開放することによる規制の在り方の改革を含む。)に関する基本事項を総合的に調査審議することを司る機関であり、その積極的な活動に対し、日頃より深甚な敬意を表するものであります。
 国家資格制度は、高度な専門性の故に、国家が国民に安心して利用できるよう能力・資質を担保した制度であり、弁理士制度はその典型であります。
 従って、その制度改革が必要であれば、「公共性」の視座に立つべきであり、経済効率性のみを追求する市場原理主義の導入・展開は、国家資格制度とは全く矛盾して相容れない手法であります。
 にも拘わらず、「規制改革会議」は、政府の「知的財産立国」政策を野に在って支えている国家資格制度である弁理士制度にも、「市場原理主義」を導入・展開させ、需要を遙かに超えた増員、料金競争、能力・資質の全くない専門外の士業の業務解放等々、国家資格制度の存在意義と矛盾する現象が生じ、制度崩壊の危機にあると感じております。 
 去る7月3日、私どもは、河村内閣官房長官を首相官邸に訪ね、弁理士制度を当面の規制改革の対象から除外するよう、「陳情の儀」を提出しました。
 ここに、その全文を紹介します。


平成21年7月3日
内閣官房長官 河 村 建 夫 閣下
                       
日本弁理士政治連盟
会長 古 谷 史 旺


陳情の儀

 国家資格制度とりわけ弁理士制度は、高度な専門性の故に存在する必要かつ合理的な規制であるので、市場原理の導入・展開には本来親しまないものとして、当面の規制改革の対象から除外されますよう陳情致します。
 すなわち、規制改革会議のご方針は、国家資格制度、とりわけ弁理士制度に関する限り、大いなる矛盾を孕んでおり、これを実施に移せば、制度は崩壊ないし消滅の一途をたどります。
 そもそも国家資格制度は、高度な専門性の故に、国家が国民に安心して利用できるような能力・資質を担保した制度であり弁理士制度はその典型であります。
 従って、その制度改革が必要であれば、「公共性」の視座に立つべきであり、経済効率性のみを追求する市場原理主義の導入・展開は、国家資格制度とは全く矛盾して相容れない手法であります。
 しかし規制改革会議は、政府の「知的財産立国」政策を野に在って支えている国家資格制度である弁理士制度にも、「市場原理主義」を導入・展開させております。
 その結果、弁理士制度に関しては、試験制度のレベルダウン、需要を遥かに超えた増員、料金競争、能力・資質の全くない専門外の士業への業務開放の議論等々、国家資格制度の存在意義と矛盾する現象を生じ、制度崩壊の危機に瀕しております。
 弁理士制度は、「知的財産立国」政策と共に、世界一競争力のある制度であらねばなりません。

                               
理由の詳細

1.規制改革の方針
 理不尽で矛盾に満ちた方針が打ち出されている。
 「時代の要請に応じた専門的かつ総合的なサービスを国民に提供するため、特に、業務独占については、業務の独占、合格者数の事実上の制限、受験者資格要件などの規制が設けられることで新規参入が抑制され、資格制度そのものが各種業務サービスの需要供給の調整機能を果たす結果、市場における競争が制限される環境を生み、競争を通じて本来国民が享受できる良質で多様なサービスの供給が阻害されるおそれがある。
 このため、業務独占資格については、有資格者でないとできない業務範囲を可能な限り限定し、隣接職種の資格者にも取り扱わせることが合理的と認められる業務については、他の職種の参入を認めるなど、資格制度の垣根を低くすることにより各種業務分野における競争の活性化を図る必要がある。
 ・・、各資格制度の所管省庁は、自らが所管する資格制度が健全に発展するように常に資格者団体や資格者に支援を行う一方、単に現行制度の維持や資格者の既存権益の保護に腐心するような弊害を排除し、実際のサービスを利用する国民の視点にたち、利便性や提供されるサービスの向上が図られるよう資格制度の見直しを推進するべきである。」
 行政の頂点たる内閣府にあるこの会議体の論理矛盾に満ちた方針は、国家資格制度の否定に繋がる理不尽を包含している。

2.「規制改革推進室」の具体的方針
 規制改革会議の方針を受けて、平成21年度の最終答申に向け、平成13年に公正取引委員会が策定したガイドラインの「資格者(団体):@弁護士、A司法書士、B土地家屋調査士、C行政書士、D公認会計士、E税理士、F弁理士、G社会保険労務士」のあり方について、規制改革推進室の「法務・資格のタスクフォース」で、再検討を開始することにしたということである。
 多分この動きの直近のきっかけは、在日米国商工会議所等から規制改革推進室に、とりわけ、外国法事務弁護士の活用等、活動規制の緩和を含む要望があったことにあるのではないかと思われる。
 このような政府の動きを見るとき、国民としては「市場対国家」という観点を改めて想起し、この国の行く末に極めて危ういものを感じざるを得ない。

3.競争政策の歴史を顧みて
 米国では、建国以来、市場の活性を米国のシカゴ学派が推進している「市場原理主義」に委ねることで、役務を含めた全ての市場に競争関係を導入し、価格を、消費者保護の観点から低下させようとする。
 同じく、米国のハーバード学派は、ドイツ歴史経済学派の影響を色濃く受けて「市場のルール・必要かつ合理的規制の必要性」を主張し、シカゴ学派と真っ向から対立しているが、この学派により「資本主義の良心」が主張されているようにも思える。
 しかし、米国競争政策の歴史の中では、そのときの国情・国益によって、シカゴ学派の「市場原理主義」とハーバード学派の「資本主義の良心」はペンデュラム運動をして来たのである。
 わが国のいわゆる「規制緩和」の流れは、「市場原理主義」の真っ只中にある米国への、いわゆる「対米追従外交」の姿勢のよって興されていることは明らかである。
 他方で、国家資格制度は、本来国家が国民に対して提供すべき専門的役務民間の活力を利用すべく制度化されたものであり、「専門性」の枠組みによって精緻に構成された「在野国家制度」であり、「国家主権」・「国益」・「国家行政」・「公共性」が深く関わっている。
 そこで、国家資格制度に身を置く我々は、この際、この動きの中で推進される在野国家制度のなし崩しを、国家の危機と捉え、正しい理論をもって防止しなければならないと考える。

4.「専門的かつ総合的なサービス」の自己矛盾
 国家資格制度は、それぞれの分野の「専門性」の故に成り立っているので、その専門サービスに他から非専門家を参入させて「総合的なサービス」をさせることを期待することは、それ自体自己矛盾の方向性である。

5.各国家資格制度の成り立ちはそれぞれの専門性にあり、その専門性は時代の推移とともに
  変遷あるいは消失する!

 規制改革会議が真っ先に取り組むべきことは、時代の推移とともに専門性が希薄化ないし消失した国家資格制度の業務の見直しないし資格制度の廃止である。
 なお、弁理士制度は今年で110周年を迎えるが、わが国が、明治32年にパリ条約に加盟して特許法等の産業財産制度を確立・強化して来た中で、弁理士制度は、対庁業務を中心に専門性を高めると同時に、司法分野での業務と国際的な業務において益々専門性を高めて今日に至っている。
 その中で、平成12年には、単なる料金納付等の何ら専門的な判断を要しないと見られる業務については、専権を外して、国民の誰もができる業務として開放した。
 この開放業務の中には、権利移転の登録業務のような、権利内容の十分な理解が前提となるにもかかわらず、「書類の提出」という面だけを捉えて開放してしまったものもあり、大いに問題ではある。
 このように専門性が時代の推移と共に希薄化ないし消失した業務は、誰でも行える業務であり、これに国家資格制度を存続させることは、それこそ不合理な参入規制をかけることになる。これを放置しあるいはこのような専門性のない国家資格制度を残すことは、それこそ単なる「既存権益の保護」に腐心していることの典型である。
 時代の推移と共に専門性が希薄化されている典型的な士業は行政書士であろうと思われるが、これに目を向けず、益々専門性が高まりつつある弁理士業務に業務開放の手を入れようとする見識はいかがなものであろうか?

6.業務独占等は必要且つ合理的規制
 国家資格制度で、業務の独占、合格者数の事実上の制限、受験者資格要件などの規制が設けられることで新規参入が抑制されるのは、その専門分野の資質・能力に欠けるにもかかわらず、その分野の他人の生活に介入して不当な利益をあげ、あるいは損害を与える者、すなわち三百代言の跳梁跋扈を抑止するためである。
 規制改革会議が、国家資格制度の業務独占を標的にしているのは、「必要かつ合理的な規制」とは何かを検討せず、国家資格制度が市場に承認されているルールであることを看過していることによる。
 弁理士制度に弁理士の業務独占が設けられ、試験の合格者数の事実上の制限や受験資格要件が設けられているのは、高度に専門的な資質・能力を要する知財分野の業務における「知財三百代言」を抑止するためであり、必要且つ合理的な参入規制である。
 ちなみに、行政書士が、弁理士法違反、弁護士法違反、司法書士法違反、税理士法違反等々あらゆる士業法違反を繰り返しているのは何故だろうか。
 多分その制度本来の「専門性」が希薄化ないし消失した結果、制度として社会的需要が喪失し、業務として成り立たないことによるものであろう。政治はこの不正義と不合理を直視するべきである。

7.国家資格制度内の競争はサ−ビスの質を落とす!
 国家資格制度は、それぞれの専門分野において、「本来国民が享受できる良質で多様なサービス」を提供するために、必要かつ合理的な規制である。
 国家資格者は、国家試験により、資質・能力を担保されているが、そこに競争原理が導入されると、直ぐには質のレベルが判明しない業務、例えば、弁理士の対庁業務は、料金競争と件数主義に陥ることで、サービスの質は低下する。
 これでは、人々はその国家資格に夢を抱くことができず、難関の国家試験に合格してその専門分野のエキスパートとして生きようとする情熱を持つことが出来ない。
 専門サービス分野では、「競争を通じて本来国民が享受できる良質で多様なサービス」を確保することはできない。
 単なる価格競争の世界に入るために国家試験を受けるインセンティブは惹起されず、その専門人材の育成という観点から、国家資格制度の意義が損なわれることになる。

8.「資格者の垣根を低くすること」は競争の前提を欠く暴論
 このような議論の方向性は、競争が、「質の同一」を前提として成り立つものであることを看過している。
 異なる専門分野の者は、その持てるサービスの「質」を異にするものである。
従って、例えば、知財分野の国家資格者である弁理士の業務に、その知識も資質・能力が国家試験で担保されていない他の国家資格者を参入させて弁理士と競争させることは、競争の前提を欠くものであり、弁理士制度を崩壊に導くだけである。
 規制改革会議では、「官公署に提出する書類の作成」や「その提出の代理」を業とするのみで、試験で知的財産分野の資質・能力につき何らの担保もない行政書士に、弁理士の専権業務である「商標業務」を開放させる方向の議論をしかけている。
ついでに指摘すれば、最近に至り、規制改革推進室では、地域団体商標制度につき、大企業の知財関連部門の集まりである「知的財産協会」にヒアリングを行うと聞くが、ユーザーでもない団体にヒアリングする意味があるのか?!

9.市場の需給バランスと乖離した資格者増政策はその資格制度の崩壊を招来する!
 平成13年にわが国は、知財立国を宣明し、この政策の一環として地方を知財で活性化しようとした。この基本的な考えは全く正しい。一億総知的創造力国家として。
 しかし、これを支える弁理士を地方展開するのに、国家試験のレベルを落としたり、試験制度を歪めたりして数を増やしても、彼らは地方には行かない。何故ならば、地方では、弁理士が職業としてやってゆけるほどの仕事はない。
産業財産権を中心とした知的財産を扱う弁理士は、産業の活性化した都市部に存在し易く、企業体の少ない地方には存在し難い。それは、需要供給のバランスという市場原理からして当然である。従って、数を増やして地方にも弁理士を配置しようという考えは市場原理に悖る。
 ダニエルヤーギンとジョセフスタニスローの「市場対国家」、ロバートクーパーの「国家の崩壊」で、グローバリズム(世界主義)の進展する中での国家主権の意義を、中川秀直代議士の「官僚国家の崩壊」で官僚的行動の特質を、それぞれ学ぶべきである。
 弁理士の地方展開は、強制加入制度を採っている日本弁理士会と地方公共団体の緊密な連携と会員弁理士のボランタリーな活動によって無理なく実現できている。
 国家試験を不合理な参入障壁と見做し、需給バランスも考えずに「規制改革」と称して制度の破壊に突き進むこの国は、何処に行くのだろうか?

10.WTO(GATS)により各国の国家資格間に競争関係
 競争の波の第一波は、米国の「外国法事務弁護士」の進出で、わが国の弁護士制度と弁理士制度における業務が、直接的・間接的に外国法事務弁護士に移転しつつあることである。
 それは、何れの時か、国際社会が「国家資格の相互承認制度」に到ることになる流れを意味する。
 従って、日本の弁理士は、知財の司法関係では米国に承認されないことになり、これにより、我が国は、「内外」「外内」の外国出願業務を外国法事務弁護士に取られ、日本の弁護士が米国の「外国法事務弁護士」として承認されるだけとなる。
 このことは、国家資格制度が国際的な競争場裡に置かれ、外国の国家資格に伍してあるいは優位に立って競争に打ち勝たなければ存続が危ぶまれることを意味する。
 その場合、その資格は、対等の内容あるいは優越した内容を持つものでなければ、劣位の資格は相手国に承認されず、相手国の資格を受け入れるだけとなる。
 弁理士資格は、米国の「特許弁護士」と比較すると、知的財産関係の司法機能において劣位にある。
 従って、国際的な競争関係の観点からして、これからわが国の弁理士制度で強化拡充しなければならないのは、知的財産の分野における弁理士の司法機能に他ならない。

11.試験制度の崩壊は防がなければならない!
 先ず、弁理士制度においては、早々に、先ず短答式試験合格の2年猶予は廃止し、次ぎに、論文式試験のない国家資格者を「科目免除制度」の対象から外す改革をしなければならない。
 国家試験を参入障壁と見做し、弁理士試験制度では、短答式試験合格の2年有効制度を採用したが、平成21年の短答式試験の合格者は、1400人、昨年の合格者を入れると論文式試験に進む受験者は3000人を超えた。
 論文式試験の充実のための足切りである短答式試験の制度趣旨は、完全に無視され、論文式試験の採点にあたる試験委員の負担は何倍にもなった。
 その結果誕生する弁理士の資質を想像すると、戦慄すべきものを感じる。高度な専門的資質・能力を要する知的財産分野に、国家資格制度は要らぬというメッセージを発しているのである。行き着く先は、弁理士国家試験制度の崩壊であろう。



この記事は弁政連フォーラム第198号(平成21年7月25日)に掲載したのものです。
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