PF-JPA

地球温暖化対策に関する提言







  

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日本弁理士政治連盟
会長 古 谷 史 旺



1.はじめに
 人類の存続の基盤を揺るがす地球の温暖化を防ぐために温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の削減が必要なことは今更いうまでもない。民主党は、マニフェストにおいて、2020年までに、1990年における温室効果ガスの排出量に25%の割合を乗じて計算した量を超える量を削減することを公約した。だが、この数値目標の実現には、経済的にも技術的にも容易な目標ではなく、「産業界に厳しくするだけでは実効があがらない」との批判も根強い。
 とりわけ、エネルギー消費型産業、中小企業等にとっては厳しい目標であることに変わりはなく、昨年来からの景気後退を考えると、日本の経済活動、産業構造等に与える影響は無視できないどころか極めて大きい。これらの影響を少なくして、豊かな国民生活の実現を確保しつつ温室効果ガスの排出削減の目標を達成するためには、官民挙げての技術革新で解決する以外にはない。即ち、温室効果ガスの削減目標の達成と経済成長は、二律背反ではないのである。
 幸いなことに、現在の日本の省エネルギー、省資源技術は、世界的に見ても高い技術を保っている。更にこれに加えて、太陽光、風力、バイオマス等の新エネルギーの開発に集中的、計画的な投資を行うことにより、より一層技術革新を加速すれば、温室効果ガスの削減と経済成長の両方の目標を達成可能である。これが実現できた後には、日本は世界の模範となる世界最先端の省エネルギー、省資源社会を実現でき、しかも新たな産業の創出、雇用の拡大等の起爆剤となる。更に、これらの研究開発、実施で得られた知的財産は、日本国民を豊かにするだけではなく、世界中に普及すれば、地球環境の保全と共に人類の生存基盤を盤石にすることができる。

2.地球温暖化対策基本法の創設
 民主党が提案した地球温暖化対策基本法では、「地球温暖化対策基本法を制定し、2020年までに1990年比25%、長期的には2050年までのできるだけ早い時期に60%超の温室効果ガス排出量削減を実現します。」とされている。この草案は、総論としては、よく考えられている政策であるが、とりわけ予想される経済活動、産業構造等に与える負の影響については、財界を中心に否定的な意見もあるので、十分検討していく必要がある。
 民主党は、具体的な政策としては、
 「(1)中・長期目標の設定(2)国内排出量取引市場の創設(3)再生可能エネルギー導入の強力な推進(4)地球温暖化対策税の導入(5)省エネルギーの徹底(6)森林吸収源対策の推進(7)環境技術開発(8)環境外交の促進(9)脱フロンのさらなる推進(10)CO2の「見える化」の推進(11)都市過熱化防止――等の措置を講じます。これにより、地球環境・生態系の保全、新たな産業の創出、就業機会の拡大など環境と経済発展の両立を図ります。」
 としている。
 下記の理由から早急に民主党が提案した地球温暖化対策基本法の制定が望まれる。

3.新エネルギー(別紙参照)は地方が有利
 新エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス、太陽熱、水素等)は、古くから世界中で研究開発がなされており、その開発等の成果(知的財産)も膨大といって良い。商業的にはともかくほぼ技術的には、実用化できる段階といえる。今まで、その大半はコスト的に石油等の安い燃料の存在で、普及していないものである。これが普及するか否かは、政策の選択の問題であるとも言える。
 太陽電池等の分野では、世界的にメーカー間の開発競争が繰り広げられている産業分野もあるが、これらの新エネルギーは、一般に自然と関係が深く自然が豊かな地方と密接な関係があり、この開発に成功すれば疲弊している地方経済を活発化できる起爆剤となりうる。例えば、日本古来より整備されている里山(薪、木炭、堆肥等の生産)、稲作のインフラをそのまま使って、休耕田にアルコールを生産するための超多収穫米を植える、里山の木々を使ったエタノールの生産が可能である。
 既に日本の一部の地域では、間伐材等の木材資源から新燃料の生産も商業ベースで行われている。しかしながら、これらの個々の技術が完成し、又は個々の地域で普及しても、全国的には普及していない。この要因の一つは、日本が伝統的に弱いとされている、官庁の縦割り行政も絡んで、総合的なシステムの構築技術が弱いためと考えられる。例えば、間伐材等の木材資源から作られた新燃料は、山間部等のコスト的に好条件の地域のみしか普及していないが、治水対策、水資源の確保、木材資源の整備等の総合的な利用を前提に、その地域の特性に適合した利用方法、システムを構築すれば、全国的にかつ商業的にも充分に採算が取れるものである。超多収穫米からのエタノール生産も同様に、アルコールを製造した廃棄物である米粕、ワラも含めて畜産用のエサとして肉牛の生産等も含めて複合的に利用すれば、日本でもコスト的にも充分に成立するという試算もある。風力、地熱、水力、バイオマス等も同様である。
 これらの研究開発、及び生産の担い手は、新エネルギーの分布密度が薄い(単位面積)ことから、その地域に合致した地道で小規模の開発が必要であり、大手企業ではなく、地域に根ざしている地方の地場の中小企業、森林組合、米作生産組織等が最適であり、効率的である。国、地方自治体は、人材の育成、技術・経営上の助言、市場を提供するだけで良い。実際の技術の実用化、実施には、無数の中小企業者等の創意工夫が活かされて実現するものであり、これらの技術、システムを効果的に保護、育成する必要がある。
 しかしながら、担い手の規模が小さいこと等から政府、自治体等の調達には優先して採用する制度、また、改良的な小技術が多いことから、単に従来の特許制度のみでは充分に保護は難しいので、新しい保護制度の創設も視野に入れて検討しなければならない。

4.省エネルギー、省資源(別紙参照)の推進
 産業分野、又は家庭によっては、新たに新エネルギーを導入せずとも、省エネルギー、省資源を遂行するだけで達成できる。即ち、小規模の事業所、一般住宅では、設備等を省エネルギー、省資源のシステムのための改造・改良、生活スタイルを変更するだけでも目標の達成は可能である。例えば、近年国民の住宅は、輸入木材、新建材、コンクリートが多く使われており、伝統的な木造家屋が減少している。国土の大半が山岳地帯で多く森林資源に恵まれた我が国としては、国土の有効利用という点からも好ましいことではない。木材資源の有効活用は、二酸化炭素を吸収しストックする、炭素フリーという意味からも必須の課題である。また、近年まで家庭の主なエネルギー源であった薪等の生産として使用された里山等の有効利用も図るべきである。
 また、産業分野によっては、全く新しいアプローチも模索すべきである。例えば、エネルギー多消費型と言われている高炉では、省エネルギーの努力は行われているが、高炉を使用しない新製鉄法等の研究開発も着手すべきである。また、輸送用機械の分野では、自動車のハイブリッド化、電気自動車の推進、鉄道の推進等も重要である。更には、各家庭の排出量も累積すると大きい。このようにあらゆる産業分野、又は家庭で、省エネルギー、省資源を進めるには、政策として、努力した企業、又は家庭が報われるインセンチィブを与える制度を導入することが好ましい。
 新エネルギーの開発と同様に、省エネルギー、省資源技術の実用化、実施には、大手企業は勿論であるが、無数の中小企業者等の創意工夫が活かされて実現するものであり、これらの技術、システムを効果的に知的財産として保護するだけではなく、特に優れた技術を開発し知的財産を構築した企業は勿論であるが各家庭に対して、税制、融資、助成金等により優遇する等の思い切った政策を行う必要がある。これにより、新たな産業の創出、就業機会の拡大等を加速することができる。

5.地球温暖化対策技術を外交戦略に活用
 前述した地球温暖化対策に関係する開発技術は、製品化されて普及して初めて技術革新に成功したことになるが、この普及にはディファクトスタンダードも含めて戦略的に世界の標準技術となるように取り組む必要がある。過去のハイビジョン、トロン、携帯電話等に代表されるように、世界初の革新的な技術であっても国家的な戦略がない限り日本国内にとどまり世界的に普及することはない。
 前述したように、日本で開発された技術は、知的財産権として世界中で権利化すると同時に、国家として戦略的に世界の技術標準(ディファクトスタンダードも含む)となるように、ISO等の国際機関を通して、又は競合する複数の日本企業を組織して、積極的に戦略を構築すべきである。このためには、国際的な視点で技術標準を担う人材の養成は最も重要である。国際標準となった日本の地球温暖化技術に係る技術、製品、システムは、途上国を含めて世界中に普及することになるであろう。ただし、開発された生産技術等のような技能、データ等のノウハウに関係する知的財産は、国家として厳重に管理し、国外に出ないような法整備を含めた施策をすべきである。
 以上のように、これらの開発技術は、地球温暖化対策に関係する開発技術は、日本経済を萎縮させるものではなく、チャンスであり、かつ日本国民を豊かにするだけでなく、途上国への技術供与を含めて、日本の外交戦略の平和的な手段として、充分に寄与できるものである。

6.地球温暖化対策税の創設
 地球温暖化対策に関連する特別会計として、エネルギー対策特別会計等があるが、この既存の特別会計を含めて総合的に見直して、民主党が提案されている「地球温暖化対策税の創設」を検討すべきである。この税の歳出は、前述した新エネルギー、省エネルギー、省資源のための研究開発、普及を中心に、地方を中心として中小企業を中心とした対策に限るべきである。この政策の実現により、結果として、この研究開発そのものが景気対策となり、かつ前述したように地域経済の活性、産業構造の活性を図ることができる。

7.地球温暖化対策技術、技術標準及び知的財産
 民主党の地球温暖化対策基本法では、内閣総理大臣を本部長として、地球温暖化対策本部を設置されるが、この中に知的財産を日本国の平和的な外交戦略の武器として使用すべきである。近年、新幹線、OS(トロン)、ハイビジョン規格、携帯電話、公害防止関連技術等、日本の技術は最先端技術であっても、国家としての戦略不足で、ディファクトスタンダード、標準化等で国際的な駆け引きで負け、大きな市場を失う結果になっている。
 日本国民の膨大な努力で実用化され、開発される無数の地球温暖化対策技術は、国民の財産であり、我々の子供達への遺産でもある。これを平和的な外交の武器として、使わない選択枝はない。伝えられるところによると、日本が過去に世界に誇った液晶技術、プラズマ技術等は、その投資は回収されることなく、模倣され日本の産業の空洞化を招いている。また、ヨーロッパを中心とする世界標準戦略に後れを取り、ほとんどの標準化技術は欧米発であり、実質的に市場からも閉め出される事態も多い。
 米国には企業や研究機関の機密情報や研究試料の無断コピー、許可なく持ち出すことを禁じる所謂、「経済スパイ法」があるが、日本も地球温暖化対策で生じた重要な技術は、特許、ノウハウ等として保護し、この技術は直接、間接を問わず、ODA対策、中国等のように地球温暖化対策に慎重な国への平和的な外交の武器として使うべきである。これは、民主党が唱える環境外交の促進にも直結する。これには、国家的に重要な環境技術を保護し、戦略的に使うには、日本版の経済スパイ法も視野に入れた、保護策を検討すべきである。
 以上の理由から、地球温暖化対策本部には、国内の地方、中小企業対策のために国家戦略として知的財産部門を設置し、多数の専門家も配置すべきである。

8.まとめ
 以上説明した点を箇条書きすると以下のように要約できる。
 (1)温室効果ガスの削減目標の達成と経済成長は、二律背反ではなく、技術革新で克服できる。
 (2)民主党が提案していた地球温暖化対策基本法を制定すべきである。
 (3)新エネルギーの開発、普及は、日本に新たな産業、雇用創出のためのキーテクノロジーを生み、特にその性質上、地方にその波及効果が大きい。
 (4)新エネルギーの開発の担い手は、地方を中心として中小企業の役割が重要であり、これらの助成、優遇策と共に、新たな知的財産の保護も検討すべきである。
 (5)温室効果ガスの削減目標の達成は、省エネ、省資源技術が重要であり、日本は既存の省エネ、省資源技術のみで、産業分野によってはこれをシステム化するだけでも達成できる。
 (6)地球温暖化防止技術の開発には、相当の費用負担が予想されるので、その新たな財源措置も検討する必要がある。
 (7)開発された日本初の技術の国際的な普及には、国際標準化するための国家戦略が欠かせない。
 (8)開発された知的財産は、発展途上国等への技術供与を含めて今後の日本の外交戦略の手段として有効である。
 (9)日本開発された知的財産を有効に活用し、貴重な技術の流出を防ぐために新規立法を含めた新たな保護、育成のための政策が必要である。
 (10)内閣総理大臣を本部長とした地球温暖化対策本部を立ち上げ、上記戦略を含めた政策を推し進めるべきである。


【地球温暖化防止技術開発課題の例】

1.新エネルギーの開発
 (1)太陽光
 効率(15%)の良い太陽電池、低コストの太陽電池(例えば、屋根へ塗装するだけのもの)、ソーラーカー、野菜等のハウス栽培への適用、発電エネルギーの有効利用
 (2)風力
 小型高性能の風力発電、直接温水する風車、太陽電池等とのハイブリッド化、超大型風車、ハウス栽培への適用
 (3)地熱
 家庭用の地熱の利用した簡易空調システムの開発、火山地帯での小規模発電システム、マグマ発電システム、野菜等のハウス栽培への適用
 (4)水力
 小川・農業用水路等の小水力発電、植林等による緑のダムによる水力の回復
 (5)バイオマス
 間伐材等を利用した新燃料、里山の利用技術(薪、木炭、堆肥)、家畜の糞によるメタンガスの利用、休耕田での稲作によるエタノール生産、サトウキビ等バイオ原料からのエタノール生産、農産廃棄物の資源化、都市下水の有機物の利用、食品廃棄物の飼料等への再利用、超多収穫米の開発
 (6)その他のエネルギー
 水素の大量生産、潮力発電、海洋温度差発電、燃料電池

2.省資源、省エネルギー
 (1)輸送用機械
 自動車の軽量化のための新素材・複合材、鉄道輸送の推進、省エネ航空機、省エネ船舶、新交通システムの推進、電気自動車、ハイブリッドカー、水素自動車、舶用機関の高効率化
 (2)民生部門
 省エネルギーシステム(ソフト)、木材住宅の低コスト化、断熱材の開発、ビルの緑化、セメント製造の省エネルギー、バイオプラ等の自然素材の利用、家電の省エネ化、オフィス機器の省エネ化、ICの省エネ化
 (3)産業機器
 火力発電所の高効率化、高効率ガスタービン、高温流体による直接発電、土木機械のハイブリッド化
 (4)素材産業
 製鉄所の省エネ化、溶鉱炉を使わない製鉄

3.原子力発電等
 地震、テロ等からの安全性の確保、老朽化対策、廃棄物の安全な処理・保管、原子力発電の深夜電力利用(蓄電池への充電、水素の製造)、核融合、高速増殖炉、海水からのウラン等の生産



この記事は弁政連フォーラム第201号(平成21年10月25日)に掲載したのものです。
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