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弁理士法改正項目について



  

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日本弁理士政治連盟
会長 古 谷 史 旺

 平成17年12月21日開催の日本弁理士会 平成17年度 第2回臨時総会において、弁理士法改正の方向性についての確認が行われ、弁理士とは「技術と法律の素養を備えた国際性のある知財専門家」と定義された。
 このことを念頭に置き、改正項目の代表的なものを下記に列挙したので、宜しくお取り計らい頂きたい。

1.弁理士使命条項の制定と弁理士法第3条(職責条項)の改正
○使命条項の制定(条文案)
弁理士は、国際的な視野に立脚し、知的財産の創造・保護・活用と、知的財産制度の健全な運用・発展に寄与することにより、社会の発展と国民生活の向上に貢献することを使命とする。
○弁理士法第3条(職責)の改正(改正条文案)
弁理士は、常に、深い教養と高い品位を保持し、内外国の知的財産に関する法令及び手続に精通するよう努め、誠実かつ公正にその職務を行わなければならない。
(理由)
 現在の弁理士法には、弁理士の使命条項は置かれていない。しかし、近時の経済のグローバル化に伴う経済情勢の変化や、我が国の産業の置かれている厳しい状況の下、我々弁理士の広汎な貢献に対する社会の期待は大きい。単なる出願代理人としての貢献だけに止まらない。
 広く知的財産を扱い、事業の現場近くで、かつ、国際的に活動する弁理士が貢献できる余地は多分にあり、我々弁理士がこの社会の進歩・発展に寄与すべきは当然。とりわけ、東日本大震災からの復興は経済復興なくしては成り立たず、経済復興に対する我々弁理士の貢献は、喫緊かつ長期的な重要課題。
 このような社会情勢の下、今般、弁理士の使命条項を定め、職責条項も併せ改正することは、我々弁理士が社会に対してその姿勢を表明することであり、かつ、その存在価値を認められることともなる。今こそ、この改正が必要である。

2.弁理士法第4条(業務)3項の改正
○「…に関する事務を行うことを業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項についてはその限りではない。」を『…に関する法律事務を含む事務を行うことを業とすることができる。』に改正する。
(理由)
 「事務行為」の範囲が明確でなく、大阪弁護士会や一部弁護士は、特許、実用新案、意匠、商標に関する実施許諾を求める文書の送付やこれらの権利を侵害している虞がある旨の通告が、弁護士法第72条に違反していると主張し、現に警告を受けた弁理士がいる。このような弁護士の既得権益拡大解釈が後を絶たず、弁理士の業務遂行に支障を来している。
 また、「他の法律〜」は不要である。弁護士法でもこのような規定はなく、 規定する意味はない。

3.「種苗法における品種登録の手続代理」の弁理士標榜業務化
(理由)
・バイオ特許等を通じて農業分野にも精通した弁理士がいる。
・農学部出身の弁理士も増えてきている。
・品種登録については現に弁理士が代理しているケースが少なからずある。
・外国企業からは、特許出願の代理等をとおして交流のある弁理士に対し、種苗法の品種登録の代理についても依頼がある。
・地域ブランドの普及活動を通して農水関係(農協、漁協等)との交流が増えてきている。
・農林水産省と日本弁理士会との交流が始まり、互いに協力関係を構築しつつある。
・一つの植物に関して、品種登録の面からの保護を考えるか、遺伝子特許等(遺伝子組み換え、細胞融合、交配等による品種改良作物など)や栽培方法特許等の特許面からの保護を考えるかなど、選択的あるいは双方保護の要請が十分に予想され、そのような場合に的確な判断をなせるのは弁理士をおいて他にない。また、品種登録に際しては品種名称の適切性が要求され、一方で、その植物や収穫物を市場に置く場合には地域ブランドを含めた商標の選定なども要求されるが、品種名称の役割と商標の役割を十分に理解して適切なネーミングのアドバイスを行えるのは、弁理士をおいて他にない。
※上記理由からすると、本来は専権業務化が相応しい。

4.「著作権登録の手続代理」の弁理士標榜業務化
(理由)
 ソフトウエア関連発明は著作権を有することも多く、意匠権についても著作権とは関連が深く、商標権についても著作権が関係してくることがよくある。弁理士も特許法による保護と著作権による保護とを対比させながら講演する機会も増えてきており、著作権についてもよく研究している弁理士が増えてきている。
 弁理士はもっと積極的に著作権登録に取り組むべきであり、文化庁も弁理士の関与を望む傾向がある。
 而も、著作権は弁理士試験課目(短答式試験&論文試験選択科目)ともなっているため、弁理士の業務とすることに違和感は全くない。

5.弁理士の単独訴訟代理の実現
○特定侵害訴訟代理制度における単独受任及び出廷のあり方等、知的財産権侵害事件における弁理士の積極的活用を検討する。
(理由)
 能力担保研修は充実し、実務的にも特定侵害訴訟代理を弁護士と共同で行う弁理士も増加していることから、弁理士の単独訴訟代理を実現すべき時期に来ていると思われる。
 また、特許等の侵害事件に対する当初の相談は、まずは弁理士にあることを考えると、クライアントからの要望としても弁護士・弁理士の共同の必要性は少なくなったと言える。
 訴訟の手数料も弁護士・弁理士へ二重の負担となっており、ユーザーフレンドリーな制度の実現の観点からも単独訴訟代理可能としておくことが望ましい。

6.弁理士研修制度の見直し
○弁理士の研修制度(実務修習制度・義務研修等)のあり方について、弁理士が知財専門家として業務を遂行するに当たり、必要な資質、とりわけ実務能力が十分に担保できるよう、研修制度の見直しを含めて引き続き検討すること。
 その際、実務修習制度の形骸化問題、義務研修の未受講者に対する罰則等が他の違反事件に較べて厳格に過ぎるとの指摘がある。また、登録年数、年齢等に関係なく一律に科している義務研修の5年70時間のあり方も含め検討すべきとの指摘がある。
 法改正関連科目は登録年数に関係なく必要性が高いが、実務関連科目は、登録年数が経ち、経験を積むほどその必要性は少なくなってきており、実務関連科目の義務化は登録後10年くらいを境に考慮し直すことが望ましい。
○弁護士会は、履修できていない者を業務停止にしていない。

7.弁理士試験制度の見直し
○国際化に対応できる弁理士を育てるためにも「工業所有権に関する条約」の論文式の試験を必須とする。
○弁理士試験の論文試験選択科目の免除対象士業を弁理士としての適格性の観点から抜本的に見直し、廃止する。他の士業では、択一式の試験しかないにもかかわらず、弁理士試験では論文科目の免除となっていることは、試験制度の趣旨を理解していないところから生じていると思われる。
○論文選択科目の免除制度及び短答式免除制度は廃止する。
(理由)
 非免除者との間で著しい不公平感がある。
○口述試験以外、持ち越し制度は廃止する。
(理由)
 本来、短答式と論文式は一気合格とすべき。その年、論文式のみを受ける人が圧倒的に有利になっており、不公平な制度となっている。
○論文必須科目に民訴法科目を加える。
(理由)
 単独訴訟代理権を得るためには必要な科目である。
○論文必須選択科目を技術系科目とする。
(理由)
 現在の制度では、「技術と法律の素養を兼ね備えた… … 」の技術が担保されていない。弁理士は特許を扱えるのであるから技術的バックボーンは必須。技術系受験者が主に法律科目に挑戦しているのであるから、法律系、文科系受験者も1科目ぐらいは技術系科目を受験させたとしても不公平な制度とはならない。
○最終全体合格率を3%台にすること。
(理由)
 弁理士が増え過ぎ、質の低下が指摘されている。加えて、節操のない過当競争が起きている。

8.弁理士法に弁理士手数料に関する規定を新設し、「特許事務標準額表」を導入
  すべき
(理由)
・独禁法に抵触せず、かつ独禁法の許容範囲内で、標準的な報酬レベルを定めることを弁理士法に明確化すべき。市場原理主義では、安かろう、悪かろうに堕す。弁理士の業務の発展には、経営基盤の安定性が重要。
・大手出願人の多くは、一方的に料金を決め、明らかに独禁法で禁ずる「優越的地位の濫用」を行っている。この関係を打開するには、弁理士法に弁理士手数料に関する規定を新設する以外にない。

9.特許業務法人における一人法人制度の導入
(理由)
・弁護士法では一人法人が認められている。
・会社法における会社設立の規制が緩和の傾向にある。
・一人法人を許容すれば、個人資産と法人資産とに分けて管理することができ、業務の引継がスムーズに行える。そのため、一人個人事務所に比べ、継続性の点からもメリットがある。

10.事務所を開業するには、実務経験5年以上の認定を条件とすること
(理由)
 余りにも容易な試験になってきており、独立開業してクライアントに迷惑を掛けないためには、一定の実務経験を事務所開業の認定要件とすべき。

11.弁理士依頼者の秘匿特権を明文化すべき
(理由)
 我が国弁理士の業務(国内、国際を問わず)に関連して依頼者に生ずる重大な不利益を除去するためのもの。
 現状は、弁理士との交信文書等が、米国訴訟で、証拠開示の対象とされ、我が国弁理士の顧客(多くは日本企業)が、一方的に不利な立場に立たされている。弁理士法改正により、これを明文化規定することにより、我が国企業の競争力が増す。
 日本特許庁はとかく、国内特許にしかその管轄が及ばないことから、秘匿特権の問題を軽視している。EPC2000の改正や英国特許法改正2010など欧州諸国では、国益を害う問題として対抗策を打っている。

12.不正競争防止法の取り扱い業務を、全ての業務に拡大すること
(理由)
 不正競争防止法第2条第1項各号に掲げる不正競争行為は全て弁理士が関与すべき内容であり、現在弁理士法で規定する「特定不正競争」は現実を把握した定義となっておらず、虫食い状態の適用は不適切である。

〔参 考〕
以下の項目は、賛否が分かれている。
○論文必須選択科目に外国語(5外国語程度)科目を加える。
(理由)
 国際的に活躍できる弁理士を輩出できる制度とするため。

この記事は弁政連フォーラム第221号(平成23年7月25日)に掲載したのものです。
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