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司法制度改革審議会の
中間報告は失望の一語に尽きる!
 <平成12年12月20日>
 
furuya.fumio
日本弁理士政治連盟
最高顧問 古 谷 史 旺
 
 

 政府所轄の司法制度改革審議会は、錚々たるメンバーを揃えて精力的な審議を重ねて来られた。その努力には心から敬意を表したいと思うが、平成12年11月20日付で公表された『中間報告』を読む限り、ことに我が国の産業経済の復興を願い、国家戦略としての“知的財産権制度の強化”に深い関心と期待を寄せる、弁理士の立場から言わせれば、失望の一語に尽きる。

1)司法制度改革審議会は、司法制度の利用者である国民の視点に立って、「21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的政策について調査審議する(司法制度改革審議会設置法第2条第1項)」ことを目的に平成11年7月に設置された。

2)今般の司法制度改革の基本的理念と方向に関し、司法制度改革審議会は“自由で公正な社会と個性の実現”を掲げ、(1)「公共性の空間」の再構築と司法の役割、(2)「国民の社会生活上の医師」としての役割、とを司法に期待される役割とし、「国民が支える司法」の実現を目指すことを謳っている。そして、(1)人的基盤の拡充、(2)制度的基盤の整備、(3)国民的基盤の確立、を改革の三つの柱と位置付けている。

3)私は、そのこと自体に異論を挟む気持ちは更々ないが、「中間報告」の前に公表された「論点整理」の中で、「法の担い手として、法曹だけでなく、隣接法律専門職種等も視野に入れつつ、総合的に人的基盤の強化について検討する必要がある」旨の指摘を行い、ヒヤリングまで行っておきながら、結局のところ、審議会での結論を先延ばしされたことに虚しさを禁じ得ない。
 司法制度改革審議会では、法曹人口を大幅に拡大する狙いから「法科大学院」構想に殊の外熱心であるが、最終的には法学部のみに基礎をおくことになろう「法科大学院」から、幅広い人材吸収が可能か甚だ疑問であるばかりでなく、10年先20年先に実を結ぶかも知れない大構想よりも、我が国産業界が抱える直近の知的財産権関係事件の対応強化を真剣に考え、“弁理士に対する侵害訴訟代理権の付与”について言及することの方がより大切と考えるが如何か。期待が大きい司法制度改革審議会であるだけに、失望感はさらに強い。

4)中間報告では、第48頁14行目から29行目において「ウ 専門的知見を要する事件への対応強化」の項目を設け、“科学技術の革新、社会・経済関係の高度化、国際化に伴って、民事紛争のうちにも、その解決のために専門的知見を要する事件(知的財産権関係事件、医療過誤事件、建築瑕疵事件、労働関係事件)が、増加の一途をたどっている。これらの紛争に関わる民事訴訟においては、専門家の適切な協力を得られなければ適正な判断を下すことができないばかりか、往々にして手続の遅滞を生じ、そのことが一般事件の迅速・適正な解決を妨げることにもなる。また、裁判外紛争解決手続においても、専門家の適切な関与が不可欠である。様々な形態における専門家の紛争解決手続への関与を確保し、充実した審理と迅速な手続をもって、これらの事件に対処することは、現代の民事司法の重要かつ喫緊の課題である。
 とりわけ、知的財産権関係事件に対する訴訟の充実・迅速化は、各国とも知的財産をめぐる国際的戦略の一部であり、訴訟手続に関する制度的整備と併せて、裁判所の執務体制の整備・強化、専門化した裁判官、弁護士等の人材の育成・強化など、知的財産権関係訴訟に関わる人的基盤の強化等をもって対応すべき課題である。”と述べて、正確な現状分析をされているにも拘わらず、“弁理士に対する侵害訴訟代理権の付与”についての踏み込んだ言及がない。
 この司法制度改革審議会で結論を出さずに、誰がどこで結論を出すのかと質したい。司法制度改革審議会は、21世紀の司法制度の在り方について、国民の利用しやすさと国際的な国家戦略の見地から、大胆な提言をするところではないのか。

5)我が国の産業経済の復興を願い、国家戦略としての“知的財産権制度の強化”に深い関心と期待を寄せる弁理士の立場から言わせれば、司法制度改革審議会の踏み込み不足は随所に見受けられる。
(1)同報告書第32頁10行目乃至13行目において『国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性等にかんがみ、当面の法的需要をいかに充足するかという利用者の視点からの検討が急がれる。』としながら、結局のところ、次行以下では、『……前向きに検討すべきである。』(18行目)、『前記の隣接法律専門職種の活用を検討する見地も含め、今後の在り方を検討すべきである。』(26〜27行目)〔アンダーラインは筆者〕と、検討を先送りしている。
(2)同報告書第48頁25行目乃至29行目において『とりわけ、知的財産権関係事件に対する訴訟の充実・迅速化は、各国とも知的財産をめぐる国際戦略の一部であり、訴訟手続に関する制度的整備と併せて、裁判所の執務体制の整備、強化、専門化した裁判官、弁護士等の人材の育成・強化など、知的財産権関係訴訟に関わる人的基盤の強化等をもって対応すべき課題である。』(アンダーラインは筆者)との問題提起に止まり、具体的解決策が示されていない。

6)司法制度改革審議会は、喫緊の課題として“知的財産権関係事件に対する訴訟の充実・迅速化”がとりわけ重要と認識されているにも拘わらず、また、改革の一つの柱でもある「人的基盤の拡充」を謳いながら、“弁理士に対し侵害訴訟代理権を与えよ、”との踏み込みができていない。問題解決の先送りをしている。
 繰り返し言うが、この司法制度改革審議会が結論を出さずに何処が検討するのかと質したい。
 司法制度改革審議会は、平成13年7月に最終報告を出す予定と聞かされている。問題解決の先送りをせずに、はっきりと結論を示していただきたい。 以上


この記事は弁政連フォーラム第97号に掲載予定のものです。

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