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TPPと弁理士
  

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日本弁理士政治連盟
副会長 榎 本 英 俊



 野田佳彦首相が、2011年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)にて、TPP(環太平洋パートナーシップ)への実質的な参加表明をしたのはご承知の通りである。今は、APEC前に多く報道されたあの激しい論戦が一旦収まり、各所で今後開始する具体的な交渉内容の動向を注目しているように思える。
 TPPは、21の交渉分野があり、中には弁理士に関係のある分野もあるものの、内容が具体的でなく、現時点で、TPP参加による弁理士への影響は、はっきり言って良く分からない。交渉分野そのものの内容によって影響を受ける場合もあれば、交渉分野としては直接関係ないが、関税自由化による製造業の利益拡大等によって特許の出願件数増大に繋がるような間接的な要因も考えられる。TPPには、国益上、ネガティブと思われる分野とポジティブと思われる分野が混在しており、これからの具体的な交渉の進展を見ながら、弁理士が関係するネガティブ分野については、政治家に情報提供することが我々弁政連に求められるところである。
 そこで、弁理士に関連すると思われる分野に関し、今後、どのような具体案がTPPの交渉のテーブルに上るかにつき、可能性を探る上で、国家戦略室及びその他の機関等から公表されている現状の情報を幾つかご提供させて頂きたい。

1.TPP・FTA・EPA
 TPPは、2006年に、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールによって締結された経済連携協定がベースになっており、2010年にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナムが加わり交渉がスタートした。その後、マレーシアが参加し、先のAPECで、日本、カナダ、メキシコも合流し、現在12カ国間での参加表明となっている。
 FTA(自由貿易協定)は、関税撤廃その他、通商上の障壁を撤廃する自由貿易地域を設定する二国間以上の国際協定である。
 EPA(経済連携協定)は、FTAを柱とし、関税撤廃の他、投資や規制緩和などの幅広い分野を扱う協定である。

2.TPPでの知的財産分野
 TPPでは、知的財産での十分で効果的な保護、模倣品や海賊版に対する取締り等について交渉が行われる。現状としては、具体的な提案はなく、TRIPS協定の内容を上回る保護水準や保護範囲をどの程度にするかを中心に議論が行われているようである。ところが、参加国の一部間で、高いレベルの保護水準を有するFTAを既に締結している国がある一方で、高いレベルの保護水準を締結した経験のない国もあり、個別項目についての意見は収斂していない模様のようである。

3.アメリカの動向
 TPPの各参加国は、交渉の席上で、当然、他国の制度が自国の不利益となる障害を撤廃する要求をするが、その中でも大国たるアメリカの動向が注目される。そこで、アメリカの主張がどの程度ルール化されるかは、未知数であるが、アメリカのこれまでの他国とのFTAの経緯や、日本への貿易障壁の報告を確認しておく。
(1)米国通商代表の外国貿易障害報告書
 この報告書は、2011年3月に提出されているが、我が国に言及された知的財産関係、弁理士業務関係は次の通りである。
 ・ 外国弁護士法人の設立や支店の日本国内の開設。
 ・ 著作権の保護期間の延長
 ・ 著作権侵害の非親告罪化
(2)二国間FTA
 アメリカのFTAは、約10以上の国や地域との間で締結や交渉妥結がされており、アメリカ国内法の保護水準を相手国において担保することを目指している。アメリカのFTAの中で、我が国にない知的財産関係、弁理士業務関係は、次の通りである。
・ 音声、においを商標の保護対象に加える。
・ 地理的表示保護を商標によっても可能とする。
・ 著作権保護期間を70年に延長する。
・ 発明の公表から特許出願までの猶予期間を12ヶ月にする。
・ 医薬品について、新薬の製造販売許可のために特許保護期間が不当に短縮される場合、特許保護期間を調整する。
・ 医薬品販売承認申請での提出データの排他的な利用期間を規定する。
・ 著作物、レコード、実演に関する著作権・隣接権侵害及び不正商標の場合の法定損害賠償を定める。
・ 故意の商業的規模の著作権侵害に対して、関係当局が刑事上の手続を開始できる旨定める。
・ 専門家の免許や資格の基準等の承認について、関係団体等間等による相互受け入れ可能な基準の策定を奨励する。

4.アメリカ以外のTPP参加国間のFTA
(1)オーストラリア、チリ、ペルーのFTAでは、特許発明の公表から特許出願するまでの猶予期間(我が国の特許法30条に相当)を12ヶ月にしている。
(2)オーストラリア、ペルー、シンガポールのFTAでは、商標として、音等視覚によって認識できない標章を登録対象にしている。
(3)オーストラリア、チリ、ペルー、シンガポールのFTAでは、著作権の保護期間を少なくとも70年としている。
(4)オーストラリア、チリ、ペルー、シンガポールとのFTAでは、商標制度を用いた出願・登録型による地理的表示の保護を可能とする旨を定めている。
(5)オーストラリア、チリ、ペルー、シンガポールとのFTAでは、著作権侵害を非親告罪化する旨を定めている。

5.TPPでの越境サービス貿易
 TPPでは、国境を超えるサービスの提供(サービス貿易)に対する無差別待遇や数量規制等の貿易制限的なルールを定めるとともに、市場アクセスを改善する交渉も行われる。中でも、各国の資格免許を相互に認めるサービス貿易の自由化に関しては、個別の資格についての議論が現在なされていないようであるが、各国のリストに掲載した資格を適用対象外とするネガティブ・リスト方式が採用される模様で、完全自由化にはならない方向のようである。国家戦略室の公表資料には、「仮に個別の資格・免許の相互承認が求められる場合には、これを行うか否かについて、我が国の国家資格制度の趣旨を踏まえ、検討する必要がある」と記載されている。果たして、弁理士資格は? 動向を注目しなければならない。

6.最後に
 現時点では、TPPの参加により、弁理士にとってメリットがあるか否かについては不明であるが、上述した項目は交渉のテーブルに上がる可能性がある。このとき、どのような形で上がるのかを注視し、国益上もマイナスとなるようなものについては、積極的に反対すべく政治家に訴えて参りたい。
  

この記事は弁政連フォーラム第226号(平成23年12月25日)に掲載したのものです。
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