PF-JPA




「知的財産基本法附帯決議と
著作権問題」
 

Katsumi Asano
日本弁理士政治連盟
副会長 浅 野 勝 美


 
1.先日成立した知的財産基本法には衆参両議院経済産業委員会にて重要な附帯決議がなされている。著作権に関して言えば「四 海外における知的財産権の侵害によって我が国産業が甚大な損害を被っている現状にかんがみ、政府機関と民間企業等が一体となって、模倣品や海賊版製造国等に対する直接又は、国際機関等を通じた働きかけを行うなど、積極的な取り組みを推進すること。」(衆議院)「六 海外における知的財産権の侵害によって我が国産業が甚大な損害を被っている現状にかんがみ、知的財産制度の普及・拡充や模倣品・海賊版対策に我が国がアジア地域において中心的な役割を担うよう積極的に取り組むとともに、製造国等に対する直接または国際機関を通じた働きかけを行うこと。」(参議院)である。いずれも模倣品や海賊版対策が重要であることを示唆している。著作権は弁理士法4条3項により新たに業務範囲となったところである。そこで、以下に現在政府が進めている諸施策と著作権の現在の問題点を紹介する。資料は自由民主党政務調査会知的財産小委員会での説明資料である。

2.海賊版とは何か
 「海賊版」というのは、音楽、映画、放送番組、ゲームソフト等の著作物の違法複製物をいう。海賊版が流通すると、正規品が購入されれば得られたはずの著作権者等の利益が失われ、良質のコンテンツの創作、流通を阻害し、事業展開しようとするコンテンツ産業にとって脅威となる。また質の高い文化的創作活動、健全な国際文化交流の推進にも障害となる。さらに近年の情報技術の発展により、海賊版はパソコン1台あれば誰でも製作し、またインターネットを介して簡単に流通させることができる。
 例えば、中国ではレコード・CD等の音楽市場の約90%にあたる880億円が、台湾においては約50%にあたる220億円が海賊版による市場であり、これら侵害市場の約3割程度が日本の音楽の海賊版と推計されている(文化庁説明)。韓国、香港でも海賊版が多いのはご承知の通りである。
 よって海賊版防止の対策を講じる必要がある。

3.政府の海賊版対策
 海賊版対策として日本政府が行っている施策は次の3点である。
(1)法整備
  まずは、著作権に関し「・・・アジアの開発途上国に対し、知的財産法制度の運用に係る体制整備・・・を実施する」ことが挙げられる。具体的には、途上国対象の協力事業として、研修の実施、シンポジウムの開催、専門家の派遣等である。
 次に、国際機関を活用した監視である。具体的には、例えば中国、台湾等に対しTRIPS協定の遵守義務が履行されているか否か監視する法令レビューの積極活用等である。
(2)取締り
  これは、まず二国間交渉、多国間交渉を通じた働きかけの強化である。日中間においては既に海賊版取締りについて合意しており、日韓間においては詰めの作業中である。
  また権利者による適切な権利行使を支援することである。これは具体的には、「コンテンツ海外流通促進機構」を通して行なう。この機構は著作権関係団体、コンテンツ産業等が侵害実態の監視や訴訟等への対応を目的として設立されたもので、海賊版の流通についての調査、二国間交渉強化の要請のための官民合同ミッションの派遣、侵害地での訴訟提起の支援等を行なう。
(3)国民意識の向上
 最後に「・・・アジアの開発途上国に対し・・・知的財産権保護の重要性に関する啓蒙・・・のため、・・・専門家派遣、セミナーの開催、研修生受入れ等の人材育成協力、教材開発協力、情報化協力等を実施する。」

4.著作権の現在的問題点
 現在自民党の上記小委員会ワーキングチームでは著作権法改正に関するヒアリングの最中である。関係業界から種々の要望が出されている。例えば次の如し。
(1)レコード業界の問題点と要望
 海賊版として権利者が現在取り組んでいるのは、@技術的保護手段の導入(例えばCCCDによりパソコンへのCDコピーの防止、CD−Rコピーやインターネットへのアップロード阻止)、A啓発活動(過度なコピー、P2P(無断送信の違法性)に対する国民の理解と支持のキャンペーン)、Bネットワーク上の違法行為への対応である。
 今後の検討課題としては、@ネットワーク上の違法行為への対応、A私的録音補償金制度(録音実態にあわせ、私的録音補償金制度の対象機器、記録媒体を拡大する)、B技術的保護手段の回避(「回避ノウハウの提供」に関する規制)である。
 レコード業界が立法化に向け他団体と協議中の課題としては、@レコード放送権の「許諾権化」(「録音前提の放送」への対応。現行法は「報酬請求権」)、Aレコード輸入権の創設(海外で合法的に作られたレコードの輸入への対応)がある。
(2)放送業界の問題点
 インターネットによる侵害に対しては放送の送信可能化権により対応しているが、新たなインターネットによる侵害に対抗するため、暗号化された放送の保護、放送前信号の保護が必要である。
 また地上波テレビ放送のデジタル化に伴う問題として「無反応機器」の問題がある。「無反応機器」は技術的保護手段の回避をするわけではないので(もともと感知しないので)現行法の規制対象とならない。
(3)映画、映像ソフト産業の要望
 この業界からは次の要望が出されている。
@映画はリスクの多い産業であるので、保護期間を「公表後70年」とする。
A現行法ではビデオ・DVDソフトを用いて図書館等が行なう上映会から著作権者が 対価を回収できないので、無許諾利用を制限すべし。
B海外とくにアジア各国での日本映画(アニメを含む)の海賊版に対し有効な対策をとってほしい。
C実演家の権利について
 現行法は、録音された実演(歌手の権利)の二次利用については実演家に権利があるが、録画された実演(俳優の権利)の二次利用については実演家に権利がない。
 「実演家の経済的権利は、書面契約に反対の定めがない限り、映画製作者に自動的に移転したものと推定」し、映画製作者は制作時の契約に基づいて出演者に出演の対価を支払うこととし、映画製作の多目的利用と実演家の権利の調整をすべきである。
(4)実演家の団体(日本芸能実演家団体協議会)の要望
 (3)の反対の立場からは次のような要望がある。現行法における実演家(歌手、俳優、舞踊家)の権利は次の如しである。
@生の実演(ライブ)の利用、例えば、放送、有線放送等については、いずれの実演家にも許諾権がある。またこれら放送等からビデオ化等をするについてもいずれの実演家にも許諾権がある。放送目的の固定物の二次利用(再放送等)については、実演家には報酬請求権のみである。
A録音(CD・テープ等への音の固定)については、実演家(歌手)に許諾権がある。録音された実演の二次利用、例えばレンタル、インターネット配信等については実演家に許諾権及び報酬請求権があり、ラジオ放送については実演家に二次使用料を受ける権利がある。
B録画(映画の著作物への固定)については、いずれの実演家にも許諾権がある。しかし、録画された実演の二次利用、例えばテレビ放送等、インターネット配信、レンタルについては、実演家に許諾権がない。よって実演家に許諾権を与えるべきである。

5.おわりに
 このように著作権の世界は種々の立場から種々の議論がされているので、我々弁理士が業務をする場合この点を考慮すべきであろう。

  

この記事は弁政連フォーラム第121号(平成14年12月25日)に掲載したのものです。
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