PF-JPA




商標無審査化に反対する
 

Katsumi Asano
日本弁理士政治連盟
副会長 浅 野 勝 美


 
1.特許庁の産業構造審議会において、審査迅速化の一環として、商標無審査化が議論になっている。今のところ、産業界では反対の意向であると伝え聞くが、弁理士会は態度を鮮明にしていないようである。

2.商標無審査化とは
 商標無審査化というのは、拒絶理由を絶対的拒絶理由(3条等)と相対的拒絶理由(4条1項10号、11号、15号等)に分け、「同一」「類似」「混同のおそれ」といった相対的拒絶理由については出願時の審査では判断せず、異議の申立てをまって審査をするというものである(異議待ち審査制度)。換言すれば、出願時には識別力等の絶対的拒絶理由のみ審査するのである。

3.反対の理由
(1)商標無審査化は商標制度の根本に反する。
 審査迅速化を図るため商標無審査化にするという議論は商標制度軽視も甚しい。商標は登録主義、先願主義の下、先行登録の間に隙間があれば適当にそこに埋め込めば事足りるという考え方が議論の底にあるならば明らかに誤りである。商標は使用されて始めて保護価値を生ずるのであり、これによる保護は単に商標使用者、商標権者のみならず、需要者、取引者、消費者をも保護するのである(商標法1条)。商標は誰のために保護するのかという根本の議論をすべきである。 審査の停滞を懸念するのであれば、使用主義への転換を検討するのが、正しい途ではないか。

(2)商標無審査化は商標権の権利の安定性に反する。
 審査主義は商標権の権利の安定性に有利であるという理由で採用されているのだから、登録後取消が頻発するようでは商標権者は不安で権利行使することができず、市場が混乱する。

(3)商標無審査化はユーザー負担が増大する。
 この不況下、本業を遂行するだけでも大変なのに、この上さらに類似商標の監視のために費用負担を強いるのは規制緩和に却って逆行する。

(4)識別力の判断こそ市場に任せるべきである。
 相対的拒絶理由を異議待ち審査にするというのは、一面では一種の黙示的同意の効果(コンセントの推認効果)が期待できるが、商標無審査化の名の下に現在でも疑義が多い識別力審査を続行するというのはどういうことなのであろうか。識別力は究極的には取引市場が決めるものである。有力な他の国・地域が行なっているから、それに合わせるという程度の理由で商標無審査化にするということならば、知財立国を目指す我国としてはあまりにも情けない。また地理的表示に関する証明商標の保護を検討している商標法改正方向と整合がとれない。

(5)商標無審査化は行政書士会を喜ばすだけである。
 商標無審査は、知的財産の専門家でもない行政書士が、士業間の秩序と士業本来の専門性を無視して、自己の業務拡大のために高度に専門的な知的財産の分野に入ろうとしているのを手助けするだけであり、結果として永年築き上げられた立派な日本商標制度に重大な結果を齎すことになる。

4.付言
 この議論は、商標の審査迅速化がひいては国益につながるという熱い思いからなされているものと筆者は信じている。筆者も審査迅速化、不使用商標の整理を望む1人である。そこで付言すれば次のようなことを模索してみてはどうか。商標の審査請求制度である。とりあえず先願権を得て様子を見る程度の出願については、所定期間内に審査請求がなければみなし取下とすることで十分対応できる。そして審査するときまでに使用を義務付けておき、このときまでに使用していないときは調査義務を課しておき、使用計画書とともに調査結果を提出させる。出願料は、もちろん低廉にし(例えば6千円程度)、審査請求するときに残額(15千円)を納付するようにする。なお、防衛出願は権利解釈を柔軟にすることにより解決すべき問題である。如何なものであろうか。

  

この記事は弁政連フォーラム第132号(平成15年11月25日)に掲載したのものです。
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