PF-JPA




商標実務からみた
弁理士専権と商標法改正
 

Katsumi Asano
日本弁理士政治連盟
副会長 浅 野 勝 美


 
 今般めでたく副会長を卒業する。折しも郵政問題で大騒ぎの国会では商標法が改正される。今次の改正により地域団体商標制度が創設され、これにより地域ブランドが認められ地方の活性化を図ることが期待されている。「村おこし」「町おこし」である。そこでこの際、サービス産業、とくにサービスマークを得意とする者として、商標実務のむつかしさについて述べ、副会長退任のご挨拶としたい。
2.商標というと特許に比べ易しい仕事と思われがちである。しかし、現実は特許と遜色がないどころか、神経のすり減らし方は特許以上である。以下思いつくままに列挙する。
(1)よく商標はデータ勝負であると言われる。確かにその通りであるが、そのデータを収集するのはクライアントではなく弁理士である。特許ではデータの不足を指摘することはあってもデータ自体を収集することはしない。発明行為となってしまうからである。しかもデータの収集つまり調査はそれ自体判断を伴う高度の専門行為だ。そして、収集されたデータをどう扱うか、判断するかが次に待っている高度の専門行為である。単に与えられた材料(商標)を特許庁に出願する訳ではない。
(2)商標は出願即使用あるいは使用中の商標を出願ということが多い。特に最近ではその傾向が強い。この場合商標権取得に至らないと、とくに先行する類似商標があるときは商標権侵害のトラブル誘発になりかねない。よって事前の調査及びそれに伴う判断は特許に増して重要であり、殆ど必須である。商標代理が単なる出願事務の代行業でない所以である。
(3)商標実務は随所に判断の局面が多い。商標願書は僅か数枚の頁からなり、ときには1枚の願書すらある。そして記載事項も省令表示つまり官製の文句から指定商品役務をピックアップするのが原則である。よって事務員でもできるのではないかと。しかし、これは大いなる誤解である。クライアントに引き渡す出来上がり書面は僅か数枚であっても、その裏には膨大な量のデータに裏付けされた判断があり、また使用される具体的な指定商品役務が省令表示に該当するか否かの高度の判断がある。
(4)判断ミスは即命取りになる。判断のallowanceがない。特許のように設計変更をしてクレーム範囲からの脱出を図ることができない。マーク変更即別商標となり、その商標に化体している信用は跡形もなく消失してしまうからである。意思表示と特定のために使える頁は1枚乃至数枚であり、この数枚における判断ミスは即経営戦略に影響を及ぼす。商標を取り扱う弁理士には常に研ぎ澄まされた感性と冷静な判断が求められているのである。
(5)弁理士は調査の結果によりネーミング変更を提案しトラブル回避に努めている。これはもはや単なる代行、代理を超えたコンサルタントの分野であるが、商標を取り扱う弁理士に求められている責務である。
(5)商標法は不正競争防止法とリンクしており、また他の表示規制法体系の中に位置している。商品売買、サービス提供が安心して行なわれ、目的の品質を手にして初めて安全快適な市民生活を営むことができる。弁理士法が商標を特許と同様弁理士専権とし、商標条例が特許条例よりも早く我が国で制定されたのは、商標の本質を理解していた先達たちの洞察の賜である。
(6)今次の商標法改正は地域団体商標という極めて難度の高い実務を要求する。商標の本質に加えて地域産業の活性化という産業政策が絡むからである。弁理士個々がしっかりと勉強しなければ到底取り扱うことができない厄介な案件が多いと予想される。
 いま、今次の商標法改正を機に商標の実務の実体を深く理解しないまま、出願の表面的な体裁のみをみて、規制緩和の波に便乗しようとする論がある。しかし、それがいかに危険なことであるか、この拙文からも垣間見ることができるであろう。
3.最後に、
 弁政連で森会長をはじめ他の幹部の方々のお力にどこまでなったか、また会員の皆様のお役にどこまでなったか考えると赤面するばかりである。只この3年間色々教えられることが多かった。法律案作成に当たっての利害調整の現場、テレビでは見られない議員の動き、その議員にアタックする弁政連幹部の動きにはただ頭が下がるばかりだった。この間個人的には第1期の付記登録をし、黄綬褒章を代表として受章した。
 弁政連の役職者はお願いされて引受けた人ばかりだ。高名心など何もなく、ただ弁理士業務の安定と職域擁護をめざし、もって特許行政に協力し世のため人のために立つという極めて志が高い人ばかりだ。弁政連活動の成果は結局個々の会員が享受していることを是非ご認識し、弁政連に関心を持って下されば幸せである。ありがとうございました。

  

この記事は弁政連フォーラム第150号(平成17年5月25日)に掲載したのものです。
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