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弁理士法改正について



  

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日本弁理士政治連盟
副会長 水 野 勝 文

  弁理士法の改正の検討が進行中です。

平成24年度に調査・研究、平成25年度に審議会に掛け、平成26年に国会上程、といったスケジュールが想定されています。従って、我々弁理士の意見も現在進行形で発信していく必要がありますし、粘り強く、継続的に、各関係方面に働きかけていくことが重要でしょう。
 特に今時の改正では、「弁理士の社会的使命」について議論され、弁理士業務についての社会的理解が深まることが重要だと考えています。これには、弁理士業務が、海外における知財関係業務・知財関係紛争業務や秘密技術情報の取扱い・管理など、広汎に亘り、企業の(国際)競争力向上にも資する業務であることも当然含まれなくてはなりません。
 我々弁理士の活動、日本弁理士会の活動は、弁理士法によって規制されています。一方、弁理士の職業が知られてきており、日本弁理士会の活動が知られるにつれて、社会からの期待も高まっています。
 弁理士法の改正は、弁理士の実際の業務範囲の広さとその貢献を社会に表明し、知らしめることにも繋がると言えます。これにより、弁理士の実際の業務内容の広がりが世間で認知されれば、個々の会員の業務拡大にも資するはずです。弁理士としての活動範囲を広げるためにも、弁理士法改正が必要なのです。そして、これが更なる弁理士業務の社会的認知に繋がるはずです。
弁理士がどのような貢献ができるのかが知られれば、個々の弁理士が相談される機会も増えるのではないでしょうか。
 弁理士の業界を取り巻く環境は極めて厳しいものがあります。平成23年の日本特許庁への出願件数も芳しくありませんでした。我々日本弁理士会の活動は会員のボランティアによって支えられているため、個々の会員の経営状況が悪化すれば当然、会としての活動に支障を来たします。個々の会員が力を出せる状況にしなければなりません。
 その一手段が弁理士法の改正だと信じます。
 弁理士法改正の主要な課題は、次のような点になると考えています。

1.弁理士の使命条項について

(1) 現在の弁理士法には、弁理士の使命条項は置かれていません。しかし、近時の経済のグローバル化に伴う経済情勢の変化や、我が国の産業の置かれている厳しい状況の下、我々弁理士の広汎な貢献・国際的な活動に対する社会からの期待は大きいものがあります。単なる出願代理人としての貢献だけに止まりません。
 広く知的財産を扱い、事業の現場近くで、かつ、国際的に活動する弁理士が貢献できる余地は多分にあり、我々弁理士がこの社会の進歩・発展に寄与すべきは当然であります。
 このような社会情勢の下今般、弁理士の使命条項を定め、職責条項も併せ改正することは、我々弁理士が社会に対してその姿勢を表明することであり、かつ、その存在価値を認められることともなります。

(2) 使命条項の試案を検討しましたので、ご紹介します。
「弁理士は、国際的な視野に立脚し、知的財産の創造・保護・活用と、知的財産制度の健全な運用・発展に寄与することにより、社会の発展と国民生活の向上に貢献することを使命とする。」
 ご参考までに、弁理士法第3条(職責)についても、試案をご紹介します。
「弁理士は、常に、深い教養と高い品位を保持し、内外国の知的財産に関する法令及び手続に精通するよう努め、誠実かつ公正にその職務を行わなければならない。」

2.試験制度について

(1) 上記のような弁理士の使命を将来担うべき人材をどのように選抜するかが弁理士試験の役割でしょう。単に知識を試験するのではなく、経験を積んでいくことによって、時代の変化にも対応しながら、顧客・社会に貢献できるように成長していく、弁理士の使命を担うことのできる基礎的な素養を持った人材を選抜できなければなりません。弁理士制度の基盤と言えます。
 この観点からの外せない検討課題は、「試験科目の免除規定の見直し」と「論文試験科目に条約を復活させること」です。

(2) 試験制度の見直し検討項目
  1. 短答式試験既合格者の2年間の同試験免除制度(弁理士法第11条第1項第1号)
     弁理士として必要な基礎となる知識・理解を持っていることを担保できているのか?疑問です。
  2. 選択科目の大学院修士以上者免除制度(弁理士法第11条第1項第6号)
     弁理士に求められているそれぞれの分野における広い意味での専門的知識・理解を身につけていることを担保できているのか?
  3. 論文試験の科目(弁理士法第10条第2項第1号)の見直し
     特に、「国際的な知財マネジメントのためには広く諸外国の知的財産制度にも精通する必要があるが、その基礎として条約の理解は必須である。しかしながら、現在の短答式試験での数問ではその確認が十分にできるとはいえないため、論文試験の科目に条約を復活させるべきである。」との意見は多く、弁理士の使命・職責からしても必須の事項と思えます。
     

    また論文試験であれば、受験生の理解力・論理的思考力・記述力・表現力なども考査することができます。弁理士の職責を果たしていくために重要なコミュニケーション能力を見るためにも、論文試験の内容・採点方法は重視され、見直されるべきものと考えます。

3.守秘特権について(とりわけ国際関係業務との関係において)

(1) 速やかに代理人としての守秘特権(秘匿特権)を確立すべきであります。顧客・業界の秘密情報を国際的に守るためにも重要です。

(2) 現在の弁理士法では守秘義務は規定されているものの(弁理士法第30条)、いわゆるattorney-client privilege(秘匿特権)が認められているのか必ずしも明確になっていません。弁理士が国際的に活躍していくためには、諸外国との資格相互承認の下で秘匿特権が認められることは弁理士にとって重要な問題であり、そのためにも弁理士法において秘匿特権について明確に規定しておくべきであります。これはクライアントである日本企業の秘密技術情報の開示を避け、秘密を守り、ひいては日本の産業の国際競争力を守っていくためにも必要です。米国のディスカバリー制度などが念頭にあります。
 少なくとも、弁護士法第23条のように「職務上知り得た秘密を保持する権利を有する」ことを明記すべきでありましょう。さらに実効性を担保するために、諸外国の裁判などの手続においても認められることを政府レベルで各国に確認しておく必要があります。

4.業務範囲について

 業務範囲の規定振りを再検討すべきです。また、少なくとも著作権関係業務、種苗法における品種登録手続の代理業務、知的財産の評価業務などについて、弁理士の標榜業務の範囲を見直すべきです。
 例えばソフトウェアの保護では特許権などと著作権の双方が関係し、キャラクターなどの場合、商標権と意匠権などと著作権の双方が関係するといったように、現場では切り離すことが不都合です。
 知的財産の専門家としての弁理士を国民が有効に便利に利用できるように、との視点から、弁理士が知的財産に関する業務全般を取り扱い、弁理士の使命の達成を目指せるように、業務範囲の規定振りを再検討すべきです。

5.利益相反(コンフリクト)について

 対象技術の理解を必要とする一方、必ずしも係争関係にあるとは限らない弁理士の業務の特殊性からして、コンフリクト問題を弁護士等と同様に規制すべきであるのか、疑問であります。むしろ、日本企業の顧客ニーズからすると、コンフリクトよりも、特定技術、特定業界に詳しい専門家に依頼したいとの希望も少なくないのです。広く産業政策の視点からの見直しが必要だと考えます。弁理士の専門性を国民が有効に活用するためにも、利益相反規定の見直しが必要ではないでしょうか。
 少なくとも当事者対立構造をとらない出願業務に関しては、出願人の業務拡大や業界再編などの環境変化により、他のクライアントが思わぬ影響を受けるといったことを避けるためにも、見直しておくべきだと考えます。

6.特許業務法人の一人法人制度について

 特許業務法人の一人法人制度を認めるべきです。
 所属弁理士が一人の特許事務所も少なくない中、一人法人制度が認められれば、弁理士の個人資産と特許事務所資産の区分けが進むことが期待でき、特許事務所の承継や再編がスムーズになることが期待できます。

 これらを含む弁理士法改正の課題について、早急に検討を進め、あるべき弁理士法の姿を目指して力を結集していく必要があるのです。

この記事は弁政連フォーラム第228号(平成24年2月25日)に掲載したのものです。
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