PF-JPA




簡裁における弁理士の
訴訟代理について思う


Takenaga Kawakita
日本弁理士政治連盟
弁理士 川北 武長


1.電子フォーラムに、標題についての戸川会員の質問に対して、弁理士法改正特別委員会から「簡易裁判所における特定侵害訴訟において、弁護士ではなく認定司法書士が訴訟代理人である場合、弁理士は付記を受けていても訴訟代理人になることはできない考えます。」(平成16年3月15日)との回答が掲載された。
 ここで「認定司法書士」とは、2003年4月の司法書士法改正により、100時間の特別研修を修了して法務大臣の認定を受けた司法書士であって、従来の裁判所への書類作成権限のほかに、裁判の目的の価額が90万円(今年から140万円に増額)以内の事件について訴訟代理人としての権限を認められた司法書士のことである。つまり付記を受けた弁理士は、簡易裁判所において単独代理はおろか、認定司法書士との共同代理もできないということである。

2.これは規制緩和による司法隣接専門職種の改正が議論されて以降、司法書士は予想どおり簡裁の単独代理権のみならず、訴訟の目的額の増大をも獲得してその地位を確固としたのに比べて、弁理士は代理人としての道を押し進めるよりも、むしろ著作権を含む知的財産全般の知識サービス提供者として(法学者が言うとおり)の道を選択したのだから、当然の結果と言える。

3.2003の年の司法書士法の改正で、司法書士試験に関するものとしては、司法書士試験の科目に憲法が追加されたほか、司法試験合格者に対して、申請により次回の筆記試験が免除されることになった。つまり司法書士試験では、刑事事件も含む訴訟代理人として必要な科目(憲法)が強化されたが、規制緩和の影響はほとんど受けなかったことがわかる。これに対して弁理士試験の改正では、訴訟代理人として必要な民法、民事訴訟法よりも、知財全般の知識修得が重視され(著作権法、不正競争防止法が試験科目として加わり)、専門試験科目が簡素化されたために、合格者が激増し、代理人としてのレベルの低下が問題になっていることは周知の通りである。ちなみに司法書士試験の合格者(合格率)は過去3年間で623人から790人に増加しているが、合格率は2.7%〜2.8%を維持しており、司法隣接専門職種として高いレベルを保持し、意気盛んなように見える。

4.司法書士試験(筆記)は、憲法、民法、商法および刑法に関する知識について2時間(多肢択一式)、不動産登記および商業登記に関する知識(多肢択一式および記述式)、供託並びに民事訴訟、民事執行および民事保全に関する知識(多肢択一式)、並びにその他司法書士法に規定する業務を行うのに必要な同法に関する知識(多肢択一式)3時間、合計5時間で行われる。上述の認定司法書士になるためには、さらに100時間の特別研修が必要であるが、この研修のなかには刑事事件など、特定侵害訴訟に関与しないものが含まれるから、仮に弁理士が簡裁における特定侵害訴訟の代理人になるための条件としては、100時間未満、付記を受けるための弁理士の研修時間45時間以上は必要と言うことになろう。

5. 一般に弁護士が事件を引き受けて損益の見合う価額が300万円と言われているから、簡裁の事物管轄(140万円以内。なお、500万円に増額の動きもある。)に見合った「特定侵害訴訟の事物管轄」を規定して、この範囲内で附記弁理士に特定侵害訴訟の単独代理を認めることは、資力のないユーザーにとって(いわゆる泣き寝入りを防止する上で)、有益であろう。
 よい機会なので、かって特許庁筋から出され、弁理士会が躊躇している内にまぼろしと消えた弁理士試験改正案を敢えて提示する。この改正案が実施されていれば、現在の司法書士以上の地位が得られたのにと残念でならない。
 
 本試験
 多肢選択試験
 ・必須科目:「工業所有権法4法、条約」「民法、民事訴訟法」(50問)
 ・選択必須科目:1科目(物理、生物、化学、情報から1科目選択)
 論文試験
  必須科目3分野(権利取得、権利活用、紛争処理)
  出題範囲:工業所有権法4法、条約、民法、民事訴訟法

 当時はこれこそプロパテント(特許重視、技術保護重視)時代に相応しい改正案であると立法担当者の心意気を感じたものだが、改正弁理士法は、意に反してアンチパテント(特許軽視、知財知識重視)的なものとなった。学者がプロパテントを知財知識重視にすりかえてしまったのである。司法や法務省関係者からみれば、弁理士試験に技術系科目が必須になると、弁護士は当然に弁理士の業務を行うことは出来なくなるし、具合が悪かったのであろう。これこそ省益あって国益なし。世界の常識は日本の非常識。今こそ必要な時代に、技術系が分化した近代的弁理士(特許弁護士)制度が未だ生まれないのは、この国にとってまさに悲劇と言わざるを得ない。屋上屋を架す現在の司法教育が、弁理士試験を経由せずに、米国のような特許弁護士を生み出す確率は極めて低いと思うからである。

        
以上

この記事は弁政連フォーラム第138号(平成16年5月25日)に掲載したのものです。
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