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日本弁理士会民営化関係の論理

 
mori.tetsuya
  
日本弁理士政治連盟
副会長 森 哲也 
 
 

1.民間法人とは
 国が事業内容を定めた設置法の下で、@事業が独占でなく民間に開放されており、A国かこれに準じる者の出資がなく、B役員の選出が自主的に行なわれており、C事業運営のための経常的経費が政府支出でない法人をいい、国の関与を排除しているのが特徴である(日本経済新聞2001.10.1 朝刊の説明によるが、これは、臨調の昭和58年3月14日付「行政改革による第5次答申」を要約したものと思われる。) 。

2. 日本弁理士会
 弁理士法第五六条によって設立されている特別な法人であり、設立に認可を要しない。日本弁理士会は、もとより法人格を有するが、その登記に関する規定が不整備であったため登記がなされていなかった。この度、新弁理士法では、日本公認会計士協会のように、独立行政法人等登記令によって法人登記した(弁理士法施行令附則第四条※日弁連や単位弁護士会は弁護士会登記令による)。

3.民営化阻止の論理
 (1)日本弁理士会は、弁理士法五六条二項に規定されているとおり、「弁理士の使命及び職責にかんがみ、弁理士の業務の改善進歩を図るため」、会の業務(事業)が、「会員の指導、連絡及び監督に関する事務」と「弁理士の登録に関する事務」であるとされていることから、事業は民間団体に開放されているものではなく独占的であり、また、開放されるべき性質のものでもない。したがって、民間法人の要件の「@事業が独占でなく民間に開放されており」の要件を欠く。
 (2)日本弁理士会は、その役員は会員間の選挙で選ばれ、会費によって運営が賄われているので、国やこれに準じる者の出資もなく、もちろん、経常的経費についても政府支出は一切ない。したがって、日本弁理士会については、臨調等の基準に照らした民営化は既に実施されており、国の関与を排除する行政改革目的は実質的に達成されているといえるのであって、今更「民間法人」化の検討対象となる団体ではない。
 (3)日本弁理士会は、弁護士会のようにその公共的性格に注目されるべきであって、このような意味の「民間法人」化の方向での検討には親しまない。
 すなわち、任意加入の士業団体にしようというのなら、国家資格制度の趣旨と矛盾する。例えば、韓国の弁理士会は、数年前に任意加入制度に移ったが四割の弁理士が弁理士会から退会した。退会者の中には、国家資格者であるにもかかわらず、国の知的財産政策とは無関係にひたすら商業主義に走る者が増え、弁理士制度の政策レベルが高いだけに社会問題化していると報告されている。最近の情報では、この反省に立ち元の強制加入制度に戻す動きが出てきたとのことである。
 (4)特殊法人等改革推進本部事務局によれば、士業団体は、行管局で整理した認可法人のカテゴリーに入っているため、今回の見直しの対象になってしまったとのことであるが、少なくとも日本弁理士会は、弁理士法によって設立されている特別な法人であって国の認可を要するものではないから、行政管理局が認可法人のカテゴリーに入れたのは間違いである。
 (5)政府は科学技術創造立国政策をバックアップするために、知的財産国家戦略を立てた。その戦略の一環として、弁理士国家試験の基準を緩和することで弁理士の増員政策を実施している。そうすると、日本弁理士会の業務「会員の指導、連絡及び監督に関する事務」と「弁理士の登録に関する事務」は、益々強化されなければならず、また、専門家集団としての政策提言など政府との連携も一元化するべきである。
 (6)なお、自民党の中には、士業団体自体が業務独占であり、ギルド的であるから「民間法人」化は進めなければならないという声がある。
 しかしながら、少なくとも日本弁理士会の場合は、「会員の指導、連絡及び監督に関する事務」と「弁理士の登録に関する事務」が業務であって、これらの業務はもとより他に開放する性質のものではないから「士業団体自体が業務独占」という批判は的外れである。また、「ギルド的」とは排他的な徒弟制度のイメージでいうのであろうが、国家試験で能力の認定をされた者だけがその業務ができるとするのは、国家試験制度の機能であって団体の問題ではない。特に、日本弁理士会には研修所があり、登録前の国家試験合格者や登録後に自由に研修を受けることができるようになっていて、親方の下で下積みを永くやらなければならないという意味での「ギルド的」では全くない。

4.提言
 日本弁理士会についてこの際に行なうべきことは「民間法人」化ではなく、@会則が経済産業大臣の認可で発効するようになっている(第五七条)こと、A会員懲戒権を同大臣が有していること(弁理士法第三二条)、B総会決議の取消権や役員の解任権を同大臣が有していること(第七二条)を見直すことである。
 このことにより、日本弁理士会の自治をより一層強化し、その反射効果として行政の負担を軽減することができる。弁理士法第六八条で規定する日本弁理士会の経済産業大臣に対する「建議及び答申」機能は、これらの点の見直しによって、より民主的且つ健全な形で発揮できるようになろう(ただし、この道を選ぶのがよいのかは、国との連携の視座に立って慎重に検討する必要がある。)。
 なお、弁理士は、知的創造サイクルの中で、知的財産のインキュベーションとその権利化、そして権利の活用に最大の力を発揮して、政府の知的財産権国家戦略を野にあって支える立場にある。日本弁理士会の組織や機能を見直すのであれば、この国家目的レベルにある弁理士の立場が十分に発揮できるようある。例えば、日本弁理士会が、知財紛争での照会権(弁護士会にはある)を有するようにすることもその一つである。
 また、一般的に士業は、国の政策で専門性の要求される業務につきサービスのクオリティを国民に保障する国家試験制度を設け、それに合格した者にその専門性の高い部分につき業務を独占させるものである。しかし、わが国は、諸外国に比べて異常に士業の種類が多い。もし、その中に、業務の専門性が低いか、あるいは専門性がなくて、誰にでもできるような事務であるにもかかわらず業務独占を許している国家試験があるとすれば、そのことが問題なのでありその国家試験や士業は早々に廃止するべきものであろう。この際、士業団体に関する行政改革を断行するならば、先ずこの点に焦点を絞るべきであろう。現に、専門性が乏しいにもかかわらず自分達は何でもできると信じて、他士業法の成立の邪魔をしたり、挙げ句の果てに、会員が他の士業の業務として法律で明定されている業務を標榜したり、他の士業法に違反する行為を黙認したりで、その違法業務が国民に損害を与えつつあっても全く反省のない士業団体がある。


この記事は弁政連フォーラム第107号(平成13年10月25日)に掲載されたのものです。

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