PF-JPA

「特許法の一部を改正する法律」に関する
衆議院附帯決議の報告


Tetsuya Mori
日本弁理士政治連盟
会長 森 哲也


  「特許法の一部を改正する法律」が、平成15年4月24日に衆議院を通過しました。その際、次のような「附帯決議」がなされました。

政府は、知的財産創造の一層の推進とその適切な保護・活用を図ることにより、我が国の国際競争力を高めることが喫緊の課題であることにかんがみ、本法施行に当たり、次の諸点につき適切な措置を構ずべきである。
1.特許権等の的確かつ迅速な権利付与を実現するため、特許審査官の大幅な増員、外部人材の活用や先行技術調査におけるアウトソーシング機関の一層の活用など、更なる審査体制の整備強化に努めること。
2.我が国産業の基盤である中小企業者の特許出願を支援する観点から、海外の減免措置制度の状況なども勘案し、減免措置の抜本的見直し等を含めた中小企業者に対する支援体制の強化及び支援措置の周知徹底に努めること。
3.特許審査請求料を含めた特許関係料金体系は、我が国産業の国際競争力にかかわる問題であるので、附則の見直し期間にかかわらず、施行状況を見つつ、適宜見直し、検討を行うこと。
4.特許権者の実質的な経済的負担を軽減するとの観点から、特許料については、今後の特許権の保有の実態、欧米における料金の動向等を踏まえて、引き続き検討を行い、必要があれば柔軟に見直すこと。
5.出願人による先行技術調査の拡充を図るため、例えば、出願人が審査請求前に調査報告書を入手できる制度や、十分な先行技術調査を伴っている場合には審査請求料を減額する制度等も含めた所要の対策について、産業競争力の強化への効果、出願人の意見等を十分に勘案しつつ、検討すること。
6.審査請求期間の三年への短縮による審査請求件数の一時的急増に対処するため、審査待ち期間の長期化を防止するための対応を十分に検討すること。

この附帯決議は、所謂審査請求料金の大幅値上げの見直し等に関するもので、相応の評価に値するものと考えます。しかし、この附帯決議に至る過程において、私たちの主張が必ずしも全面的に認められたわけではありません。また、この附帯決議は部分的な曖昧さを有しており、その実効性に疑問を抱かせる内容にもなっております。そこで、本稿において、附帯決議成立に至る経過を報告する次第です。

T.弁理士側提案
私たちは特許法の一部を改正する法律案に関し、知的財産基本法の施策を実施する重要な法案と位置づけ、政府側の姿勢も評価することで、議案修正ではなく附帯決議を求めるべく次のような提案を行って参りました。

1.諸外国の料金体系も考慮しつつ、審査請求料、特許料を含めた料金体系及び審査の迅速化の達成度についての見直しを、附則で規定する5年にこだわることなく、できるだけ早期に行なうものとする。
1.中小企業、ベンチャーの育成のため、個人を含めた中小企業に対する特許料その他の料金の抜本的かつ包括的減免制度を早期に導入すること。
1.審査請求期間の3年への短縮による審査請求件数の一時的急増に対処するため、審査請求期間の延長を可能とする制度の導入を緊急に検討すること。
1.出願人が審査請求前に調査報告書を入手できて、それにより自発的に審査請求の要否を判断できる制度の検討をすること。
1.先行技術を伴わないままの審査請求に加重審査請求料を課し、逆に十分な先行技術調査を伴っている場合には審査請求料を減額する制度を検討すること。
1.審査能力の抜本的増強策について、早急に長期的計画を策定すること。その際、弁理士の活用等専門家の中途採用による審査官の給源と地位態様の多様化につき合わせて取り組むこと。
1.特許出願の審査における調査機関の複数化・民間化を含め、調査業務の透明化・効率化・機能強化について早急に取り組むこと。
1.以上の附帯決議事項は、内閣に設置された「知的財産戦略本部」で検討されるべきこと。

U.第1次附帯決議案
平成15年4月22日に提案された附帯決議第1次案は次のようなものでありました。

政府は、知的財産創造の一層の推進とその適切な保護・活用を図ることにより、我が国の国際競争力を高めることが喫緊の課題であることにかんがみ、両法施行に当たり、次の諸点につき適切な措置を構ずべきである。
1.特許権等の的確かつ迅速な権利付与を実現するため、特許審査官の大幅な増員、外部人材の活用や先行技術調査におけるアウトソーシングの拡充など、更なる審査体制の整備強化に努めること。
2.我が国産業の基盤である中小企業者の特許出願を支援する観点から、米国をはじめとする海外の減免措置制度の状況なども勘案し、中小企業政策とも連携して、減免措置の対象企業の大幅拡大等を含めた中小企業者に対する支援体制の強化及び支援措置の周知徹底に努めること。
3.特許権者の実質的な経済的負担を軽減するとの観点から、特許料については、今後の特許権の保有の実態、欧米における料金の動向等を踏まえて、引き続き検討を行い、必要があれば柔軟に見直すこと。
4.(不正競争行為に関連するものであるため掲載省略)
5.(同上)

V.第1次附帯決議案に対する意見
私たちは、上記第1次附帯決議案は迅速性、具体性に乏しく、実効性に問題があると考え、平成15年4月23日に次のような提案を行いました。なお、下線部分が具体的な提案/訂正部分です。

政府は、知的財産創造の一層の推進とその適切な保護・活用を図ることにより、我が国の国際競争力を高めることが喫緊の課題であることにかんがみ、本法施行に当たり、次の諸点につき適切な措置を構ずべきである。
1.特許権等の的確かつ迅速な権利付与を実現するため、特許審査官の大幅な増員、外部人材の活用や先行技術調査におけるアウトソーシング機関の複数化など、更なる審査体制の整備強化に努めること。
2.我が国産業の基盤である中小企業者の特許出願を支援する観点から、米国をはじめとする海外の減免措置制度の状況なども勘案し、減免措置条件の抜本的見直し等を含めた中小企業者に対する支援体制の強化及び支援措置の周知徹底に努めること。
3.特許審査請求料を含めた特許関係料金体系は、特許制度の根幹と制度の国際競争力にかかわる問題であるので、附則の見直し期間にかかわらず、可及的速やかに見直し検討を行なうこと。
4.特許権者の実質的な経済的負担を軽減するとの観点から、特許料については、今後の特許権の保有の実態、欧米における料金の動向等を踏まえて、引き続き検討を行い、必要があれば柔軟に見直すこと。
5.出願人が審査請求前に調査報告書を入手できて、それにより自発的に審査請求の要否を判断できる制度や、先行技術を伴わないままの審査請求には加重審査料を課し、逆に十分な先行技術調査を伴っている場合には審査請求料を減額する制度を検討すること。
6.審査請求期間の三年への短縮による審査請求件数の一時的急増に対処するため、審査請求期間の延長を可能とする制度の導入を緊急に検討すること。

W.議場案
平成15年4月23日の衆議院本会議においては、前項の意見を全面的に採り入れた内容にて審議がなされました。
しかし、最終的には本稿冒頭に記した内容のものに抽象化の変更がなされました。特許庁側の意図を強く感じます。
議場案と最終的な附帯決議とは、例えば、以下の点で相異しております。
@ 第1項(訂正)
  議場案 アウトソーシング機関の複数化
  最終稿 アウトソーシング機関の一層の活用(これでは、IPCCと競争関係にある組織登場の途が閉ざされてしまいます)
A 第3項(訂正)
  議場案 可及的速やかに見直し検討を行うこと
  最終稿 施行状況を見つつ、適宜見直し、検討を行うこと(見直しは速やかになされなければならないのですが、これでは先送りにされる可能性があります)
B 第5項(追加)
  最終稿 出願人による先行技術調査の充実を図るため〜(これに続く文章との関係で意図するところが不明瞭になったということができます)
  最終稿 産業競争力の強化への効果、出願人の意見等を十分に勘案しつつ、検討すること(これは半ば当然のことであり改革への具体策ということはできません)
C 第5項(削除)
  議場案 それにより自発的に審査請求の要否を判断できる制度や〜(先行技術調査を伴わないままの出願審査請求には加重審査料を課し、これによって外国制度でも採られている先行技術調査前置制度や審査に負担をかけるとされる先行技術調査を伴わない出願審査請求を抑制する合理的な制度が排除されてしまいました)
D 第6項(訂正)
  議場案 審査請求期間の延長を可能とする制度の導入を緊急に検討すること
  最終稿 審査待ち期間の長期化を防止するための対応を十分に検討すること(これに続く文章との関係で意図するところが不明瞭になったということができます)

X.今後
周知のように、法案は衆議院通過後、参議院で審議されます。私たちは、参議院においては、迅速性、具体性、実効性を有する附帯決議がなされるよう、本会と共に努力して参ります。また、改正法施行後は、衆参両院の附帯決議の趣旨の実現に向けて活動して参ります。
会員の皆様におかれましては、ご支援の程、どうぞ宜しくお願い申し上げます。




この記事は弁政連フォーラム第126号(平成15年5月25日)に掲載したのものです。
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