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    国家戦略としての弁理士制度改革!





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Tetsuya Mori
日本弁理士政治連盟
会長 森 哲也
                
1.国際関係と市場原理が示すサービスと知的財産の重要性(資料ー1)

(1)経済的価値のパラダイムシフト
 国際社会は、1995年にWTO体制を成立させることで、21世紀への礎を築いた。
 このことは、市場のグローバル化を更に進展させることになるのだが、枠組みに納めたGATT(物品そのもの)に加えて、GATS(サービス)・TRIPPS(知的財産関連)の精神活動の成果物へと、経済的価値における拡大のパラダイムシフトを起こした。

(2)市場原理が要求する知的財産の保護
 規制改革が進行すると、市場は「完全市場モデル」に近づく。「完全市場モデル」とは、講学上想定された完全に自由な市場のことであり、それは、経済活動では何でも有りの世界である。
 したがって、人真似も自由であり、成功モデルの模倣によるキャチアップ型経済行動とそれによる価格競争の連鎖が起こる。その過程では経済は活性化するが、しかし、価格はアダム・スミスの「見えざる手」により然るべきところ、つまり、利益のでない状態まで下落する。現実には、デフレーションを意味するが、それは、同時に「市場の失敗」という拘束状態をも引き起こす。これは、ニュートン物理学にいう「系の予定調和」であり、「見えざる手」とはこのことを意味するものと思われる。
 規制改革の市場活性化作用を維持し、あるいは「市場の失敗」の拘束状態から脱却を図るためには、新規に起こした事業を模倣するキャチアップ型経済行動を抑制する必要がある。
 その機能を有するのは、知的財産権である。これによって、新規事業者は、安心して一定の期間、一定の範囲で新規創作物(知的財産)を独占して利益を確保でき、したがって、キャッチアップ型経済行動は抑止され、人々は、新規事業の開発にエネルギを注ぐことになる。かくして、陥ってしまった市場の拘束状態を破ることができる。
 知的財産の保護は、グローバル市場、自由市場が要求するルールとなった。

(3)弁政連の先見的なビジョン
 弁政連では、上記国際社会の動きや市場原理をいち早く察知し、爾来、「知財の保護は国際社会のルール」、「知財は国家戦略」、そして「知的創造立国」を標榜し続けてきた。
 その成果として、平成12年の小泉政権における「知的財産立国」「知的財産国家戦略」の宣明に結びつけることができ、いま、かなりのハイスピードで知的財産制度の改革が進められている。
 目には見えない精神活動の成果物の世界戦略構想を可視的に表現するために、弁政連では今より5年ほど前に、「知的財産権に関する改革構想チャート」を作成してこの運動のツールとした。
 これは、国際関係論に立脚して、知的財産制度を中心としたわが国の整備項目を、短期・中期・長期に連続させて示したものである。
 ちなみに、平成14年の参議院経済産業委員会での「知的財産基本法」の審議において、このチャートは、「知財曼陀羅」という名誉あるあだ名を頂戴した。

(4)「知的財産国家戦略」の一環として弁理士制度
  改革
 このチャートに見るように、弁理士制度を、「知的創造立国」つまり「知的財産国家戦略」の在野の中心的担い手として位置づけ、「知的財産国家戦略」の一環として改革の重要項目の一つとして掲げてある。

2.知的財産基本法は「国家百年の大計」
  (資料ー2)


(1)統一した知財政策
 知的財産基本法が平成14年12月に成立したが、弁政連は、この法案策定の段階において、弁政連案を知的財産基本法準備室に提示したり、政界への提言をしたり、相当深く関わってきた。
 そのとき使用したのが「知的財産戦略基本チャート」であるが、これには、国家の多くのセクターに分散していた知財マターを、知的財産国家戦略本部でとりまとめ、国家の統一した知財政策・戦略として打ち出すこと、つまり、「知的財産基本法」の構成と必要な改革立法の細部を示してある。まさに、知財改革は「国家百年の大計」であることが判る。

(2)人材育成は知的財産基本法の目的の一つ
 知的財産基本法では、広く知財の人材を育成することが謳われている。長い歴史のある弁理士制度は、知財の中心的人材であるが、知財国家戦略本部事務局がまとめた「推進計画2004」でも、弁理士制度の更なる改革が、知財国家戦略の一環として位置づけられた。
                              
3.弁理士制度改革の決断は客観的総意で(資料ー3)

(1)客観的総意とは
 先ずは、歴史に裏付けられた社会のニーズ、次に、歴史に裏付けられた弁理士の総意が挙げられる。これらを、「弁理士制度(業務)改革の流れ」のチャートに表した。
 とりわけ、「弁理士の総意」については、現在の弁理士の目から見た主観的なものよりは、歴史に積み上げられた総意を汲み取ることが肝要である。何故ならば、我々知財の専門家は実務家でもあるから、とかく目先のテクニカルな側面に気を取られ、弁理士制度を取り囲む環境の変化に気付かず太極を見失う傾向にある。
そのために、会員は本会正副会長会の方々を選挙で選び、クリティカルな判断・決断を付託しているのだ。正副会長会のやることは決まっている。このチャートの指向する先の決断をすることである。

(2)このチャートによると、本来の業務も司法分野の業務も、社会のニーズに対応した弁理士の熱心な要望により徐々に拡大してきたことが判るが、特筆すべきは、弁理士の司法分野への参入期が大正10年と、本来の業務拡充の第一段階の昭和13年にかなり先んじていたことである。

4.知的財産基本法の国策を完全に支える弁理士制度へ
  ( 資料ー4)


(1)先ず弁理士法の目的と弁理士業務を知的財産基本法に整合(国策整合)
 知的財産基本法は、その第2条で「知的財産」や「知的財産権」の定義をしている。これらの定義は、いわゆる「知的財産」を創造された「情報」として捉えて略網羅的といえる構えになっている。
 しかしながら、弁理士法で規定する弁理士法の目的(第1条)や、弁理士業務は、伝統的な表現(例えば「工業所有権」)の中に止まり、また、特許庁関係の業務が中心となり、他の知的財産は寄せ木細工的に規定されて歪(いびつ)なものに止まっている。

(2)次に司法分野での機能を完全化(ユーザーフレンドリーな制度に)
 付記弁理士制度が平成14年からスタートして、試験に合格した弁理士には、「弁護士が受任する事件」に限り、しかも「特定侵害訴訟」の範囲で訴訟代理権が付与されたが、これは、実質的に従来の訴訟補佐と異なるところがない。いってみれば責任のみが代理人と同じという、弁護士制度の従属制度として実現した。そもそも、このような弁護士制度の軛(くびき)下にある制度は、社会も我々の先輩達も想定していなかった。
 また、司法分野におけるそのかたちの歪さは、本来の業務と対比すると更に増幅しているのである。
 それでも、我々弁理士達の多くは、謙虚に受け止めて日々の業務の中に勉強しながら付記弁理士の受験にエネルギを傾注している。まことに大変なことであるが、それは、近い将来、知的財産に関して弁理士が完全な訴訟代理ができて、弁理士制度が、司法分野においてもユーザーフレンドリーな制度となることを夢に描いているからである。
 弁護士との共同は、訴訟の規模や内容によりユーザーの選択に依らしめるのが、本来の代理人制度のあるべきすがたであろう。
5.「法律と技術の専門家」の枠組み構築(資料ー5・資料ー6)

 現在の弁理士試験制度は、法文系の素養しか担保されずに弁理士となる者と科学技術の素養しか担保されず弁理士になる者が輩出される仕組みとなっている。これでは、個々の弁理士を採った場合、「法律と技術の専門家」であるとはいえないし、したがって、知的財産の枠組みに対応しているとはいえない。同時に、弁護士や他士業に対する制度的なアイデンティも明確ではない。
如上のことを踏まえて弁理士制度を真の「法律と技術の専門家」の制度に改革するための要諦は、@弁理士試験の特に試験科目の改定、A研修の登録要件化、そしてBプロセス教育方式の導入にある。

(1)プロセス教育方式の導入の制度目的
  受験、研修者の負担を時間軸上で分散軽減し、多様な人材を弁理士制度に誘因することである。
「法律と技術の専門家」の枠組みで構築される「世界一の競争力で夢のある弁理士制度」は、とりわけ論文試験の試験科目に、法律と自然科学系科目が必須として入ることになる。したがって、試験のレベルが高くなり、受験者、研修者の負担は大きくなるが、夢が負担を上回れば参入者が減ることはない。
 また、試験、研修は負担が大きいことに意味があるのではないから、レベルを維持したまま受験者、研修者の負担を軽減できれば、それに越したことはない。その軽減手段がプロセス教育方式である。
 それは、例えば、受験前に法律科目と自然科学系科目の単位を大学や専門学校で取得するか、あるいはそのレベルの教育機関を卒業することを条件に受験科目の免除の制度を設けることである。

(2)試験の制度目的
 「法律と技術の専門家」の枠組みで規定された弁理士としての「素養」を担保することである。あくまでも、「素養」の担保であって、「即戦力」の担保ではない。
 試験は、短答式・論文式・口述式の三段階とし、特に、産業財産法、条約類、民事訴訟法、自然科学系科目を論文試験の必須とすることが肝要である。民事訴訟法と自然科学系科目を選択にしたのでは従来と異ならず、改革にはならない。

(3)研修の制度目的
 弁理士として最低必要な「即戦力」の担保である。したがって、これは、弁理士登録の要件化の改革を伴う。
 あくまで「即戦力」の担保が主たる目的であり、「素養」の担保は、補充的に想定することができる科目に限るべきである。とりわけ、自然科学系科目は研修になじまない。
 研修科目は、例えば、出願実務、類否・異同判断、民法、外国知財法などであり、自然科学系科目は短い研修期間ではその目的を達成できないはずであるから、想定するべきではない。
6.優先順位をつけるならば(結論)
 特に、資料ー6に、「世界一の競争力で夢のある弁理士制度」の全体像を、詳細に示してある。
 これは、知的財産の分野の全てに及ぶ完全な訴訟代理権を含む弁理士の業務範囲と、弁理士になるプロセスを示すフローチャートである。
 しかしながら、世の中の常として、一機に事を進めることは難しい。そこで、最終目的を達成するために、改革の優先順位を付けなければならない。
 それは、@論文試験科目を必須のみに統一し、
     A条約類を復帰させ、
     B民事訴訟法と自然科学系科目を加える、
ことで、「法律と技術の専門家」としての弁理士に必要な最低限度の「素養」を担保する単純明解な試験制度とし、
     D研修を登録要件化し、
     E研修では、例えば、出願実務、類否・異同判断、争訟実務、民法、外国知財法を履修するものとし、弁理士として最低限度必要な「即戦力」の担保と、「素養」の補充を行ない、
     Fプロセス教育方式の導入で、論文試験の民事訴訟法、自然科学系科目の受験免除、研修の適当とされる科目の履修免除を、できるだけ広く対象者に対して行なう、試験・研修制度の改革を先ず行なって、完全な訴訟代理権を含む業務範囲の改革の礎を築くこととする。

 いま、本会は、懸命に試験制度改革の内容を検討しておられる。多くの意見が錯綜して纏めるは困難であろうと思うが、ここで、客観的総意に基づき決断をする時機にきている。
 弁政連は政治的側面から環境整備に努力しているところである。
以上


この記事は弁政連フォーラム第142号(平成16年9月25日)に掲載したのものです。
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