PF-JPA

参議院憲法調査会公述
(競争力国家をめざして憲法改正を)
平成17年2月21日

Tetsuya Mori
公述人 森哲也


(註;以下は、日本弁理士政治連盟・森哲也会長が参議院憲法調査会公聴会において公述人として陳述した内容と、これに係る参議員各委員との質疑応答の内容である。)

第162回国会 参議院憲法調査会公聴会、弁理士第1号!
 平成17年2月21日(月曜日)
   午前9時30分開会
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   委員の異動
  2月9日
    辞任         補欠選任
     尾立 源幸君     松岡  徹君
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 出席者は左のとおり。
    会 長   関谷 勝嗣君

    幹 事   愛知 治郎君
          荒井 正吾君
          舛添 要一君
          若林 正俊君 
          鈴木  寛君
          簗瀬  進君
          若林 秀樹君
          山下 栄一君

    委 員   秋元  司君
          浅野 勝人君
          岡田 直樹君
          河合 常則君
          国井 正幸君
          桜井  新君
          田村耕太郎君
          松村 龍二君
          森元 恒雄君
          山下 英利君
          山本 順三君
          江田 五月君
          郡司  彰君
          佐藤 道夫君
          田名部匡省君

    委 員   高嶋 良充君
          富岡由紀夫君
          那谷屋正義君
          直嶋 正行君
          前川 清成君
          松井 孝治君
          松下 新平君
          魚住裕一郎君
          山口那津男君
          仁比 聡平君
          吉川 春子君
          田  英夫君
 事務局側
     憲法調査会事務局長  桐山 正敏君
 公述人
     法政大学法学部教授  五十嵐敬喜君
       岡山県議会議員  小田 春人君
     日本民主法律家協会
     事務局長弁護士    澤藤統一郎君
   日本弁理士政治連盟会長  森  哲也君
 ふぇみん婦人民主クラブ職員  赤石千衣子君
      東京大学大学院生  高見 康裕君
     PHP総合研究所
     第二研究本部本部長  永久 寿夫君
      国立大学財務・
      経営センター教授  山本  清君


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 本日の会議に付した案件
○日本国憲法に関する調査

  (今後の日本と憲法について)
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○会長(関谷勝嗣君) ただいまから憲法調査会公聴会を開会いたします。
 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 本日は、「今後の日本と憲法について」、お手元の名簿の八名の公述人の方々から御意見を伺います。
 午前は、法政大学法学部教授五十嵐敬喜君、岡山県議会議員小田春人君、日本民主法律家協会事務局長・弁護士澤藤統一郎君及び日本弁理士政治連盟会長森哲也君、以上四名の公述人の方々に御出席いただいております。
 この際、公述人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本調査会は、平成12年1月に設置され、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行ってきたところでございますが、本日は、「国民とともに議論する」という本調査会の基本方針を踏まえ、憲法のこれからの在り方を私たちはどのように考えるべきか、また憲法を生かすためには何が必要か、参議院の在り方なども含め公述人の方々から幅広く忌憚のない御意見をお述べいただき、本調査会の調査に役立ててまいりたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。
 議事の進め方でございますが、まず公述人の方々からお一人15分程度で順次御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えをいただきます。
 なお、公述人、委員ともに御発言は着席のままで結構でございます。
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 会長(関谷勝嗣君) 次に、森公述人、お願いいたします。
○公述人(森哲也君) 私は、化学をバックグラウンドとする弁理士でございますが、言論の府、良識の府であります当院憲法調査会で意見を述べる機会をいただき、大変名誉に存じ、御指名を有り難くお受けいたします。
 なお、私がこれから申し上げますことは、既に提出してありますところのレジュメと見出し等において表現の違いがあることをお許しください。
 さて、私は二つの観点から憲法を改正すべきであると考えております。
 一つは、一国民としての考えですが、平和主義の平和概念の認識を明確にし、それによって憲法第九条は全面改正されるべきこと、いま一つは、司馬遼太郎さんの文学的表現をおかりして申せば、この国の形として知的創造立国を憲法にうたうように改正があるべきことであります。これによって我が国は競争力国家として国際社会で雄飛できるものと確信いたします。
 まず、平和主義の平和概念の認識を明確にし、九条を論じてみます。
 すなわち、憲法前文は、我が国は恒久平和、絶対的意味の平和を理想とする宣言で、言わば政治的マニフェストないしは政治規範であると言えますので、その平和主義は、表現の当否は別といたしましてそのまま妥当するものと考えております。
 他方で、第九条は、戦争の全面放棄をうたい、前文の理想的な恒久平和あるいは絶対的意味の平和概念に依拠するもののごとくであります。
 そうなりますと、この第九条は、現実の社会に適用される裁判規範ではなく、前文と同様に政治的マニフェストないし政治規範と言わなければならないと思うのであります。なぜならば、現実の社会には恒久平和などというものはなく、戦争と戦争との間の平穏な状態というような、相対的、現実的意味の平和しか存在しないことは明らかでありますところ、厳然たる軍備、戦力である自衛隊の存在が第九条の裁判規範性にとどめを刺すからであります。
 第九条が政治的マニフェストないし政治規範だとすれば、法的意味の憲法違反の問題は生じることなく、厳然たる軍備、戦力である自衛隊の存在についても同様の結論となります。このように考えますと、我が国が実は戦争の全面放棄はしていないこと、厳然たる軍備、戦力の存在について、裁判規範としての憲法上の認知が必要になりましょう。
 私は、誠に素人考えではあるんですが、侵略戦争を抑止するだけの一国防衛の個別的自衛ないし集団的自衛の権利を認め国際の平和のために軍備を加盟国に義務付けている国連憲章と、これに対応する内容を持つ日米のいわゆる60年安保条約とを最高法規の章の第九十八条第二項、条約の誠実遵守義務経由で国内法化していること、つまりトランスフォーメーションの法理によるのが一番すっきりして納得がいく認知だと考えるのであります。このことは、ハンス・ケルゼンやハンス・モーゲンソーの言う国際法の有効性の担保である執行力を主権国家に分権していることだと思うのであります。
 このような国際法上の義務を果たすために、第九条でうたわれている戦争の放棄は、我が国が相対的、現実的意味の平和を具体的に追求できるよう、また明確に侵略戦争だけの放棄の形となるよう、さらに、軍備は安全保障上、侵略には用いない抑止力として保持できるものとなればよいと考えます。それには、第九条は現実に合わせ全面的に改正し、文民優位の原則、軍の統帥、編成、非常事態の宣言、軍法会議、国会との関係を正面から規定して、国家の超法規的軍事行動や旧軍の過ちの繰り返しが防止できるようにすべきであります。
 次に、知的財産の仕事をしている弁理士として、憲法に知的創造立国をうたうべきことを提言いたします。
 この知的創造立国の歴史は意外に古いのであります。1331年、英国はエドワード三世王が競争政策としてフランダースの織物職人ケンプに特許状を与えました。これによって、英国は羊毛の輸出国から付加価値のある織物の輸出国に変身していくのであります。
 1883年、明治16年に締結された産業財産の保護に関するパリ同盟条約は、発明、意匠、商標、原産地表示などの知的財産の保護を目的として成立し、2002年では126か国の加盟となっております。我が国は、一連の不平等条約解消の外交交渉の中でこの条約の加盟が要求され、明治32年に加盟したのであります。自来、特許制度の整備、改革が続き、偉大なる発明が生まれ、科学技術立国の礎が築かれました。
 1886年、明治19年にスイスのベルヌで締結された文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約は、知的財産の一つである著作物の保護を目的として成立し、1998年で130か国の加盟となっております。我が国は、やはり一連の不平等条約解消の外交交渉の中でこの条約の加盟が要求され、明治32年に加盟したのであります。自来、我が国は著作物の保護のための法整備が続けられ、今日の著作権大国となることができました。
 次に、知的財産権と市場との関係を多少原理主義者的に御説明を申し上げます。
 今、国際社会では情報が高速化し、規制、障壁要因が改革、解消されたグローバル市場に向かっております。そこではアナロガスに完全市場モデルが想定され、それは競争には何でもありの世界であります。
 我が国の失われた10年を振り返ってみますと、規制改革を進めながら、デフレーションと経済の不活性とに悩まされた10年間ではありました。それは物理的に必然性があったのであります。固体の最適化と系の予定調和で、これがアダム・スミスの見えざる手だと考えます。規制緩和でより自由となった市場は、特に創意工夫をした新規創業者が出て、一時的に活性化いたします。
 しかし、市場への先行参入者がいれば、これをキャッチアップする者が出てまいります。キャッチアップする者は創意工夫に投資した先行参入者よりコストが低く、より低価格で商品やサービスを提供することができます。
 ここに価格競争の連鎖が起こり、ついには利益の出ないところまで価格は下落するのであります。そこで、先行参入のメリットがないことが分かって、市場の失敗という膠着状態が起こります。これは、活性を失った市場から脱却できなくなる現象であります。
 そこで、一定の範囲で一定の期間、創意工夫の独占を許す知的財産権が作用いたしますと、創意工夫をした先行参入者の利益は確保され、膠着状態は解消して市場は再び活性化するのであります。
 そして、以後、キャッチアップする、キャッチアップ型の行動者は知的財産権によって抑止され、かかる経済行動による価格競争の連鎖は断たれることになります。
 1995年に成立したWTOは、TRIPsにより、そのような創意工夫を知的財産として保護することをグローバル市場のルールといたしました。幸いにも、我が国が他国に比し、すぐれてこのルールに合致していることを、国民の知的創造力、伝統文化、科学技術のレベルの高さが示しております。
 そこで、我が国は、平成12年にこのWTOルールの国際戦略化とし、制度の改革、強化をしつつあります。けだし、時宜を得た政策でありました。
 とりわけ、特許制度の運用は、産業政策という性格と条約上の義務があることから政府が行政として自ら行うべきものであり、それを所管する特許庁はアジアを視野に入れて戦略的に強化拡充され、これを野にあって支える知的財産専門家制度の弁理士制度も強化拡充されるべきであります。
 しかし、この知的財産の保護は時の政権の政策に終わってはなりません。なぜならば、今申し上げた市場原理、国際社会の動き、資源の少ない我が国の事情、そして何よりも、知的創造力に優れた国民性にかんがみれば、それは国家百年の大計であるべきです。
 したがって、知的創造立国を憲法にうたい、我が国が国民の頭脳を競争力の資源とすることで国益を守り、国を発展させ、世界に富をもたらす国であることを内外に示すべきでありましょう。
 三浦朱門博士会長の民間憲法臨調は、知的創造に関する新しい権利を憲法にと提言しておられますし、私が会長をしております日本弁理士政治連盟も、今月の8日に結成30周年記念祝賀会を行った際に、知的財産の創造、保護、活用を憲法にと提言させていただきました。
 それでは、具体的にどのようにすればよいのかと申せば、前文に知的創造立国を、財産権の規定に知的財産権を、教育を受ける権利の規定に知的創造教育を、内閣の職務の規定に知的創造施策を、司法においては専門裁判所の位置付けをそれぞれ明確にうたうのであります。
 なお、世界には知的財産関係の規定を有する憲法は、米国を始め少なくとも48か国ございます。
 以上で私の公述を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
○会長(関谷勝嗣君) 以上で公述人の方々の御意見の陳述は終わりました。
 この際、十分程度休憩をいたします。
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   午前10時40分開会
○会長(関谷勝嗣君) ただいまから憲法調査会公聴会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 これより公述人に対する質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
 なお、質疑の際は、最初にどなたに対する質問かお述べください。また、時間が限られておりますので、質疑、答弁とも簡潔にお願いをいたします。
 若林正俊君。
○若林正俊君 自由民主党の若林正俊でございます。
 公述人の方々には、お忙しい中をわざわざお時間をいただいてありがとうございました。
 先ほどそれぞれのお立場から憲法についての認識、そしてまた改正についての考え方、お話を伺いました。そこで逐次御質問を申し上げたいと思います。
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(若林正俊委員) 森公述人には、本当に申し訳ございません。お時間がなくなりました。ただ、平和主義、安全保障、そしてこの抑止力についての基本的な認識は全く同感でございまして、共有いたしております。おっしゃっておられることについても理解をさせていただきました。
 権利としての知的財産権については、何か憲法にどこまで書くかという問題があるんですけれども、宣言的な意味合いで何らかの知的財産権を尊重していくというか推進していくということについて触れていってはどうかというのは、党内にもそういう意見がございます。参考にさしていただきたいと思いますが、ただ、この新しい権利の関係は、書けば書くほど、その書いてないものはどうするんだといったような問題に深くかかわってくるものですから、新しい権利として、知的財産権、決して新しい権利じゃないものですから、この触れ方は非常に難しいなというふうに感じました。
 感想だけ申し上げさしていただいて、終わりたいと思います。
 どうもありがとうございました。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、若林秀樹君。
○若林秀樹君 民主党の若林秀樹と申します。
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○若林秀樹君 ありがとうございました。
 お待たせしました。森公述人にお伺いをしたいと思います。
 私も知的創造立国を目指す日本として知財というものをきちっと憲法の中に位置付けるべきではないかということは基本的に賛成でありまして、民主党としても知財基本法的なものは過去からずっと提案してきたところであります。
 やっぱりこの知財というのは著作権、特許、世界各国とのある部分ハーモナイゼーション等もありますし、IT化が進みながらある部分のその弊害というんでしょうか、様々なビジネスモデルの特許ができてしまったりとか、特許があることによって途上国の発展にやっぱりそれが使いにくい、例えばエイズの薬等の関係からあると思うんですが、やっぱりこの知財というものもこれから次の4、50年を見たときのその概念というんでしょうか、変わってくるんではないかと。そのときのやっぱり考え方として何かお考えなりあればというふうに思いますし、むしろ、その知財も世界の平和と発展のために逆に使っていくんだみたいなところも含めて入れていくことはどうなのかなと思いますが、何かそこら辺についてお考えがあればお伺いしたいと思います。
○公述人(森哲也君) 若林先生の今のお考え、正にそのとおりだと思います。
 知的財産というのは独占排他権でございますので、これは、形のあるものに対して独占排他という意味ではその形の範囲内で抑えられますから、弊害というか、そういったところは割とないのかなと。しかしながら、民法の中でも私権は公共の福祉に従うと、こういうふうなこともありますので、同じことが知的財産権についても言えると思います。
 そして、国際社会の中で知的財産を、あるいは知的創造立国を宣言して競争力国家を打ち立てていくということであるときに気を付けなきゃならぬことは、途上国に対する、何といいますか、思いやりということが必要なのかなと思います。
 そういう意味で、例えば国内的だけにちょっと言いますと、公共の利益のために特許庁長官が裁定によってある特許権に対して通常実施権を設定する手続が現にございます。そういったふうな公共の福祉というふうな観点のものを知的財産権の方にもっともっと強く運用をしていけば、弊害というところはなくなるものだと思います。
 それともう一つ、途上国に対する配慮。これは、生物多様性条約というのがございまして、この中の十六条でしたかね、十六条から二十条、ちょっと記憶は定かじゃないんですけれども、二十条の辺りに途上国と、例えばゲノム資源を利用するときに知的財産権をどういうふうに扱ったらいいのかというふうなことをルール化してございます。こういったルールに従って日本国はやっていけば世界から非難を招かないでやっていけるのかなと、このように思います。
○若林秀樹君 ありがとうございます。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、魚住裕一郎君。
○魚住裕一郎君 公明党の魚住裕一郎でございます。
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○魚住裕一郎君 次に、森公述人にお願いをいたします。
 先ほど自民党の若林先生からも質問ございましたけれども、やはりこの知財を憲法上の人権として、権利として書き加えるというその意味内容、今までずっと先生もお述べになっているように、条約という、実定規範で発達をしてきたということがございますし、この実定法律での対応で十分ではないのか、さらにまた憲法に書き加えても、条約でありますとか、場合によってはEU指令とかいろんな形で変容をしていくなということもあるわけでありまして、既に憲法二十九での財産権の中に含まれていると多分解釈されていると思いますので、この知的財産権を憲法で明示する意味について、もう少し御説明をいただきたいと思います。
○公述人(森哲也君) 実定法で十分でないのかという、要約すればそういう御質問かと思います。
 そういう側面もなくはございません。しかしながら、例えばトーマス・ジェファーソン、アメリカの独立宣言を起草した方ですが、この方がやはり同じように憲法の起草をやっております。その中に、つまり200年以上前のことでございますが、アメリカは、憲法の一条八節八項というところに知的財産権の、という言葉ではないんですが、著作者と発明者、発見者の権利を保護することを議会にその権限を与えると、こういう規定がなされております。この規定によって、アメリカは知的創造立国をして今の繁栄があるというふうに確信できます。
 と申しますのは、歴代の大統領の中に発明者が何人もおるんですね。そういう方々がこの憲法の精神、自由の国アメリカ、これは国民の知的創造力をもってこの国を建てていくほかないと、こういうふうな指導、理念の下に今のアメリカが築かれたものだと思います。
 そして、アメリカばかりではなくて、この知的財産という言葉は直接的には使っておりませんけれども、発明者、著作者を保護する国々がたくさんありまして、先ほどちょっと、古い資料でございましたけれども、48か国を数えることができます。そして、甚だしきは北朝鮮もこの発明、発見に関する規定を憲法条項に持っているわけです、これはちょっと余談でございますけれども。ほとんど社会主義の国もすべてそれを持っておりますので、国民の、特に日本の国民性、知的創造力に優れた国民性を憲法にうたうことは、時の政権の政策に終わらせないという意味で非常に重要なことではないのかなと私は思っております。
○魚住裕一郎君 私も、日本の国の在り方として非常にソフトよりもハードを重視するという社会的傾向性が強いんではないのかなと。弁護士稼業をやってもおりましたけれども、ボールペンと紙が材料でしょうというような、言われる方多いんですね。もう目に見える形にしておかないと、何かこの価値を認めないような日本の在り方があるというふうに私も感じておりましたので、今の先生のいろいろ御教示はしっかり受け止めたいというふうに思っております。
○公述人(森哲也君) よろしくお願いします。

○会長(関谷勝嗣君) 次に、吉川春子君。
○吉川春子君 日本共産党の吉川春子です。4人の公述人の皆さん、本当にありがとうございます。
 まず、憲法九条の問題にお触れになりました森参考人と澤藤参考人にお伺いいたします。
 私は、この憲法九条あるいは前文は、日本の侵略戦争に対する反省、二度と再びこういうことをしないという国際公約の面が非常に強いと思います。
 先ほどNHK問題も触れられましたけれども、これも慰安婦制度を裁く国際戦犯女性法廷の番組をめぐってのことでして、政府は92年に政府の関与があったと、申し訳ないと、教科書で子供たちに教えるという官房長官談話も発表しているんですが、政治家がいろんな発言をされる、そういう場合に被害国とか被害者はなかなか納得していないわけですよね。これ決着付いていない問題なんです。これはほかの委員会で私取り上げる予定にしているんですが、今日は入りませんが、要するに、そういう侵略戦争に対する反省のための公約の九条を変えるということは、アジア諸国に対しては大変大きな、何というんですか、日本に対する信用の失墜というか、そういうことになるのではないかと。そういう面からいっても、その点について森参考人はいかがお考えでしょうか。また、澤藤参考人には、加えて、憲法九条を守る今日的意味という点についてどうお考えなのか、お伺いいたします。
○公述人(森哲也君) 憲法前文の機能といいますか性格といいますか、確かに、先生おっしゃるように、二度とこういう戦争の惨禍は国の行動で起こすことはないんだという公約だと思います。したがって、平和主義、先ほど私が申し上げましたような恒久平和を宣言したものと私は思っております。
 したがいまして、これは、前文というのは裁判規範性というのはないんだと、政治的マニフェストあるいは政治規範、政治規範というのは、これは丸山真男さんという政治思想史の先生でありますけれども、この方がおっしゃっているんですね。この方と全く私の考え方が一緒なわけではございませんけれども、政治規範というのはどういうことかというと、政治の場で、例えば現実に存在する自衛隊だとかそういったものを漸減していくんだと、縮小していくんだと、そういうふうな方向に政治が向かっていかなきゃならぬのですよというふうな意味の政治規範ということを丸山真男さんはおっしゃっている。
 でも、私はこういうことではなくて、もっと平和主義というものの平和の概念を現実的な意味の平和というところに立脚して第九条は規定されなきゃならぬのじゃないかと。現実的な意味です。それで、前文の精神を生かしつつ、一国を守るためにきちっとした軍備は必要ではないのかと。前文できちっとした恒久平和を、侵害戦争の放棄を宣言しておいて、現実の裁判規範性のある九条において、現実の平和の概念に立脚して国防のための軍備だけは保持しますよと、そういうふうに規定しておけば、近隣の諸国に対しても脅威を及ぼすことはないというふうに思っております。
○会長(関谷勝嗣君) 次に、田英夫君。
○田英夫君 社民党の田英夫です。
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○田英夫君 ありがとうございました。
 森さんに伺いたいんですが、ちょっと角度が違うんですけれども、面白い提案をしておられるんで。
 団塊の世代のことを触れておられる部分があったと思うんですが、ある意味で私も世代論を考えざるを得ない年齢になりまして、私は戦争へ行って実際に軍の中の一人として特攻隊にいたんですが、戦争ってどんなものか本当に身をもって感じた一人ですから、団塊の世代というのは、よく分からないんですけれども、今非常に元気がいい、よくなくちゃいけない世代ですね。日本の中で日本をどういう方向に進めていくかということを一番考えていただかなければいけないと思うんですけれども、どうもそれにしては、今日本がいい方向に行っていないんじゃないかという、例えば若い子供たちがとんでもないことをする、先生を殺すというようなことが起こっていますが、そういう意味を含めて、この今の日本の社会に対してどういうふうにお考えですか。
○公述人(森哲也君) 田先生の、何かすごく高度な視座からの御質問なので、どうも正確に答えられるかどうか分かりませんけれども。
 そうですね、まあ団塊の世代、私は昭和十五年の生まれでございまして、あのころは辛うじて戦前の教育を、教育を受けたといいますか、雰囲気を持って育てられました。敗戦になって、その敗戦の惨禍も親とともに経験してまいりました。そういうことを考えますと、やはり親によって私たちは育てられて、その親は大変な苦労をした。抽象的に言いますと、その親たちは戦争の責任があると、こういうことも言えるかもしれませんけれども、戦争が起こったということは確かにある側面、帝国主義の時代でございましたからしようがなかったのかなと。日本だけではないと思います、これは。しかしながら、そういった、戦争で負けた、負けて戦争の惨禍を受けた、それで親は大変苦労して子供を育てた。私たちは親に対するそういう尊敬の念というのは持っております。
 高度成長を経まして、今の時代はどうなっているかというと、かなり物質文明に毒された思想が蔓延していて、子供たちは何かこう、非常に目に見えるものだとかそういったものしか評価しないと、ちょっと訳の分からなくなると切れるという状況が起こるというふうなことがあったんではないのかなと。その原因は、やはり戦後、精神生活の涵養ということをないがしろにしてというか、こっちに置いておいて経済成長に邁進してきたと、ばく進してきたという、その結果なのではないのかなと私は思います。
 ここでやはり、憲法論に戻りますけれども、人間の精神活動というものをもっと大事にする国民の行動の様式というものを憲法に宣言する必要がある。その象徴的な存在が知的創造立国という、この知的創造立国に寄与するものは大事にしますよという姿勢を憲法にうたってもらいたいというふうなことで、先ほどから提言申し上げていることでございます。
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○田英夫君 ありがとうございました。
 終わります。
○会長(関谷勝嗣君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、一言ごあいさつを申し上げます。
 公述人の方々には長時間にわたり有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。調査会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。(拍手)

以上

この記事は弁政連フォーラム第148号(平成17年3月25日)に掲載したのものです。
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