PF-JPA

特区構想による弁理士派遣は
制度を崩壊させる!


Tetsuya Mori
日本弁理士政治連盟
最高顧問 森 哲也


1.プロローグ
 小泉政権は、規制改革と知的財産立国(知的創造立国)の政策を組合せて推進してきた。
  その結果、わが国は、見事に自律して市場機能が活性化しつつある。新規の事業(ベンチャー)が立ち上がり、株価も上がってきたのはその証左である。
  ところで、いま、内閣官房の構造改革特区推進室「有識者会議」で、弁護士や弁理士を含めた国家資格者を派遣業の対象として開放する議論がなされている。
  それは、端的にいえば、派遣会社が雇用している、例えば知財専門家の弁理士を、顧客(派遣先)の要請で派遣することができるシステムを構築しようとするものである。
  このシステムは、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士その他の国家資格制度全般に及ぶものとして議論されており、日弁連と日司連と法務省はそれなりの立場で強く反対の意を表明しているが、日本公認会計士協会と日本税理士連合会は派遣を認める方向にあると聞く。
  日本弁理士会はどうか。最近というより漸く反対の意見表明をしたのであるが、いつものことながらこの時機に遅れた意見表明はその効果を大いにネガティヴなものにしている。
  加えて、弁理士会は、例によって役所に任せっぱなしにして自ら何らの意見表明をしないでいた中で、特許庁が非専権の部分なら開放も止むを得ないという行政判断を特区推進室に表明したこともあり、その辺が「落し処」となりそうなのは、まことに遺憾なことと言わざるを得ない。
  その結果、特に日弁連や法務省では、「ああ、やっぱり弁理士会は単なる技術屋さんの集まりなので、こういうことに無頓着な団体なんだ。従って、訴訟代理権の将来は論外だね。」という見方が広がっているようである。
  これは、知的創造立国を支えるための弁理士制度の改革にとって重大なことなのである。

2.何故弁理士が特区構想に巻き込まれたか?
  発端は、ある大手の派遣会社も併有する受験機関が政界に工作したことにある。しかし、その前に、最近の弁理士試験の意図的な運用で大量の合格者を出していることで、職に就けない、あるいは職に就けるだけの能力を有しない弁理士の輩出を指摘しなければならない。
  そのような職に就けない弁理士を集めて、実質的に就職を斡旋する機関が派遣会社なのであり、また、「弁理士の就職先が増えるからよい」というような正当化の理由付けがなされるのである。

3.それで弁理士制度はどうなるか?
  弁理士は、クライアントと継続的な信頼関係において、継続的にノウハウ等の秘密情報・企業戦術そのものを扱うことを本来業務の中心としており、それ故に顧客企業の競争力を左右し、また、その業務は紛争性を帯びてくる必然性がある。
  従って、弁理士をプールして雇用し、引き合いのあったところ(派遣先)に転々と人材を派遣することを旨とする派遣業の対象に弁理士を入れることは、前記のような弁理士の本来業務の成り立ちを根幹から覆すことになる。つまり制度崩壊をもたらす蟻の一穴である。
  弁理士の実務は、弁理士の頭脳に蓄積されたクライアントからの「情報」で成り立つものであることを明確に認識されなければならない。

4.「落し処」の非現実性
  特区推進室の方からは、弁理士業務には、専権の業務と非専権の標榜業務があり、非専権の標榜業務を中心としたコンサルタント業務なら派遣の対象とできるという理論(理屈)を投げかけられて、特許庁は直ちに反論できずに行政として合意してしまった。
  しかしながら、前述したように、弁理士の場合は情報そのものを扱うことを中心業務としているので、頭脳の中で無体の状態で蓄積された情報を非専権業務と区別して実務をすることは不可能に近い。
  他方で、非専権の業務を派遣業に開放するというのであれば、もとより非弁理士でもできるのであるから、弁理士制度の成り立ちを犠牲にしてこれを、派遣業に開放する必要性は全くないはずである。
  このように、特区推進室の「専権」、「非専権」を基にした理論は、弁理士実務の実態から乖離した形式論であり、全く「為にする理論」にしか過ぎない。

5.エピローグ
  弁政連は、明確な結論と理由で、本会や諸方面に働きかけを行なってきた。
  ともあれ、こういうときの「判断と行動の運動神経」は非常に大切であるが我々の公式の団体である弁理士会の動きは「時、既に遅し」であった。今月末には最後の「有識者会議」が行なわれるとのことであるが、これまで本会は傍聴することも怠ってきたようである。
  特区推進室の事務局は、弁理士会はこの件に興味がないのだろうかと思われているとのことなので、せめて、最後の「有識者会議」の傍聴ぐらいはするべきであろう。弁理士会が、弁理士制度に責任を持つ立場なのであるから。
  ともあれ、弁理士の派遣業への開放は、絶対に阻止しなければならない。いかなる「落し処」とも妥協してはならない。弁理士会は、特許庁に便々と従う姿勢を止めよ!
  初めから「落し処」を考えることを止めよ!





この記事は弁政連フォーラム第154号(平成17年9月25日)に掲載したのものです。
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