PF-JPA

新年のご挨拶

Iuchi Ryuji
日本弁理士政治連盟
副会長 井内 龍二


 新年明けましておめでとうございます。
本年は参議院選挙もあり、慌しい年になりそうですね。年頭の挨拶にかえまして知的財産立国に関しまして気になっている事柄を少し述べさせて頂きます。

1.知的財産高等裁判所の創設
(1)無用論の根拠は現状肯定説
 知的財産高裁の創設がなかなか本決まりとならないようであるが、この点について少し述べたい。知的財産高裁無用論の主な根拠は現状でも十分いけているとする現状肯定説にあるように思われる。
 しかしながらこのように現状認識があまりにも甘いと改革は成し得ず、知的財産立国は夢のまた夢とならざるを得ない。世界から尊敬される知的財産立国のための知的財産高裁を考える場合、もう少し本質的なところから議論をしなくてはならない。

(2)知的財産高等裁判所を創設しなければならない
   理由
 一般の裁判官にとって知的財産に関する特に最先端の技術が絡む裁判の場合、超えなければならない大きな障壁が3つ立ちはだかる。
@知的財産関連法案習得の困難性
 まず、知的財産法関連事項の知識の習得(法律、施行規則のみならず審査基準や審決等も考慮するとこれだけでも膨大なものとなる)がある。
 現状では地方の裁判所に商標に関する裁判が提起された場合、裁判官が商標法の勉強をするのに1年程かかり、それからようやく審理に入れたといった嘘のような話も耳にする。しかしこれは現在の司法制度からすれば無理からぬところとも言えるのである。現状では何ら知的財産関連法案を勉強しなくても判事、弁護士、検事になれるのであり、地裁レベルの判事で知的財産関連法案を専門に勉強習得できている人はほとんどいないからである。関係する法律を全く知らないで審理することはあまりにも無謀であり、ある程度は勉強をしてから審理に入るのは良心的とも言える。
A高度最先端技術習得の困難性
 さらに高度技術の習得がある。最近の技術の進歩は目を見張るものがあり、エレクトロニクス分野、情報・通信分野、バイオ分野、医療分野、オプトニクス分野、ロボット工学分野等どの分野一つをとってみても最新技術を習得してゆくことは専門のプロであっても難しい。日々たゆまぬ努力が要求される。これを知的財産を専門としない一般の裁判官に普段に要求することは酷であり、現実的には無理がある。
 しかし知的財産に関する裁判官は普段から最先端技術を勉強していなければならない。
 知的財産関連法案の習得と高度最先端技術の習得は、一般の裁判官にとっては遺伝子治療に例えると、細胞膜の突破と核膜の突破に匹敵する大きな壁となる。これらの壁を乗り越えずに出される判決は恐ろしいものとなる。
 仮に私が裁判官の立場になって考えれば、これらの障壁は技術が自分の専門分野でない場合越えられない程の大きな障壁であることは容易に予想がつく。特に技術が複雑になればそうである。メカ的な目に見える事柄についてはある程度は素人でも議論し得る。しかしながら目に見えないものを扱うエレクトロニクスとか、遺伝子工学になるといくら勉強しても理解できない人は理解できないことも多い。従って、当事者に裁判官は素人でわからないだろうから誤った理論でも主張すればごまかせるかもしれないと言った考えを起こさせないためには、裁判官はその分野のプロとしての知識を技術に関しても持っているべきなのである。
B国際性及び国際的変化の速さへの対応の困難性
 さらに知的財産関係はパリ条約を始めとする国際条約が基本となっているものがほとんどである。従って国際性の確保が重要となる。通常、国内法が条約に抵触する場合には条約が優先される。
 知的財産に関して裁判する場合は国内法のみならず、多くの条約も勉強していなければならない。これも知的財産に関する裁判の特徴であり、常に判決は世界から注目されていると考えておかなくてはならない。1つの特許が世界中で審査され、裁判となることもよくあることだからである。知的財産に関する裁判官は世界各国における判例もよく研究しておかなければならない。また、この分野の法律は世界中でよく改正され、そのスピードについてゆくことも大変である。

(3)結論
 上記@ABのいずれか一つの困難性を打破することでさえ一般の裁判官には困難であることはよくお解り頂けたと思う。知的財産に関する裁判において、審理の迅速化をはかり、妥当な判決を導き出すためには専門の裁判官による以外、もはや手はないと思われる。
 審決取消訴訟は東京高裁の専属管轄になっているが、審決自体は特許庁における審査官の上位に位置する審判官、それも細かい専門分野に分けられた専門の審判官により審理されながら、よりプロにより審理されるべき東京高裁において、その分野の素人により審理されるのでは高裁の値打ちもあったものではない。
 いやしくも世界に冠たる知的財産立国を目指すのであれば、知的財産高裁、それも実質的に知的財産のプロといわれる裁判官達により構成される知的財産高裁を早急に創設しなければならない。




この記事は弁政連フォーラム第134号(平成16年1月25日)に掲載したのものです。
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