PF-JPA

弁理士大幅増員を見直し、
質への転換を早急に図るべき!







  

furuya.fumio
日本弁理士政治連盟
副会長 井 内 龍 二



1. 真にユーザーフレンドリーな資格制度とは
 資格制度存在の本質は何であろうか。
 それはユーザーが安心して任せられるその道のプロとしての技量・品格を備えている者のみを選抜することにあるといえる。
 資格保有者であるなら、少なくとも技量としては誰に依頼しても間違いのないようにしておくのがユーザーフレンドリーな資格制度としての最低限のことであろう。

 藪医者を大量に輩出しておいて、「名医は自己責任において選べ」では、資格制度の本質から外れ、あまりにも無責任な資格制度といえないか。
 人数を需要に対して有り余るほどにして料金を競争させ、いくらでも料金を引き下げられるようにしようとすることは資格制度の本質からはかけ離れている。
 人数を増やせば、自由競争が生じ、良質の弁理士だけが生き残るとする理屈も現実の認識を誤っている。
 現実は、「悪貨は良貨を駆逐する」である。
 営業に長けたもののみが生き残る。
 良心的弁理士は通常、口下手であり、自分を必要以上に売り込むことは潔良しとはしない。

 大勢の弁理士がいれば、ユーザーがその中から優秀な弁理士を自由に選択できるというのも誤りである。ユーザーにはそのような情報も眼力も通常備わっていない。それは歴史が証明している。弁理士がいくら増えても、極めて質的に問題が多いとされ、弁理士大増員のきっかけを作った当の事務所の出願件数は一向に減らない。

 このことは医者の場合を考えるとより簡単に理解できる。
 人数を増やすことに力点を置いて医者の資格試験を簡単にするとどうなるであろうか。
 ほとんどが藪医者のレベルになってしまい、名医といわれる医者のレベルに達する者はほとんどいなくなってしまう。藪医者のレベルで十分試験に合格できるのであるから、それ以上の勉強は必要なく、必要がなくなればしないのが通常である。
 ユーザーはほとんどが藪医者しかいなくなった中から、自己責任で名医だけを選択して病気を治してもらうことが出来るであろうか。命をなくして天国へ行って始めて、「あの医者もやはり藪だったのか」と気付くのが落ちである。
 藪医者は、儲けるためなら何でもする。病気でない人を、癌だと偽って手術代を稼いだ後、家族には手遅れでしたと説明をする。こういったことは、医者の人数が不足している現在でさえも頻発している。藪医者が増えると、こういった事件が、意図的、あるいは意図的ではないにしろ急増することは間違いがない。
 この理屈は、あらゆる資格保有者に当てはまる。

 従って、資格制度の本質は、資格保有者であれば、ユーザーが安心して誰にでも仕事を依頼できる技量・品格を備えている者のみを選抜することにある。
 大幅増員の基本的理論は資格制度の本質からすれば明らかに間違っている。

2. 弁理士を大幅増員しなければならない理由は、現在、存在しない
 ユーザーの立場に立てば、極めて供給不足の状態にある場合を除き、資格試験は上記したようにレベルが高い難関であるほど基本的には好ましい。まして国際化時代に条約論文科目を削除するなど、必要性の極めて高い科目まで削除し、品質を極端に落としてまで受験者の負担を軽くする必要はさらさらない。

 需要と供給の関係からすると、既にかなりの供給過剰の状態にあり、ここ2、3年の合格者は、合格しても独立して仕事を獲得することはほとんど不可能な状況にある。ベテランの実力ある弁理士でさえ、仕事が激減し、廃業を余儀なくされている人達が少なからずいる。

 余程供給不足の場合には、ある程度、質を犠牲にしてまでも増員を図る必要性も認められるが、現在は全くそのような状況にはない。この業界は、出願件数と弁理士数との関係から、ある程度簡単に弁理士の必要人数を割り出すことができる。特許出願件数がこの10年間で10万件も減少してきていることを考慮すれば、質を犠牲にしてまでも大幅増員を図る必要性は全くない。

 現在は、資格制度の本質に立ち返り、規制改革会議の誤りを正し、質の向上に全力を尽くさなければならない時期にきている。このことは、決して弁理士のエゴからくるものではなく、ユーザーフレンドリーな資格制度を実現するために行わなければならないことなのである。

3.地方問題はすでに解決済みである
 この業界では、仕事は企業、それも大企業でないとほとんど出てこない。しかも本社機能があるところに集中する。
 現在、企業本社機能の東京一極集中化、大都市集中化が進んでおり、特許出願をする企業の99%は東京及び大都市圏に集中している。

 5年に1件出願する程度の企業が回りに10社くらい存在したとしても、その地域に特許事務所を開業するのは不可能である。
 5年に1度来院する患者が回りに10人いたとしても、その地域に診療所を開所できないのと同じである。

 地方に弁理士が少ないのは、大企業の本社機能が東京に一極集中していることが一番の原因であり、仕事がないところでは弁理士も生活できないのである。たとえ弁理士の人数を現在の10倍にしたところで、企業本社の地方分散が進まない限り、弁理士は地方では開業できないのであり、また、する必要性も極めて少ないのである。

 商工会議所レベルでは日本弁理士会の知的財産支援センター及び各支部が中心となってネットワークを形成して支援活動を既に行っている。また、全国の半数に及ぶ都道府県と弁理士会との間では知財支援協定が結ばれており、極めて多数の弁理士がボランティアで活動を行っており、案件があればすぐに対応できるようになっている。これら支援活動は全国くまなく浸透している。

4. 弁理士登録前研修、OJTは大幅増員を図った国の責任・経費で為されるべきである
 20年くらい前までの試験合格者は、極めて試験が難関(西日本地域では1%前後の合格率)であったため、合格までに多くの年数を要し、また、少人数(西日本地域では、例年10名前後の合格者)であったため、事務所あるいは企業内で十分OJTを済ますことができていた。逆にOJTを済ませたようなレベルの人達でないと合格することは不可能であった。

 ところが、最近のように合格者が激増すると、逆にOJTを済ませたレベルの合格者はほとんどいなくなってきており、資格制度の信頼性の観点からは弁理士登録前研修、登録前OJTが極めて重要な課題となってきている。

 しかしながら、弁理士会もこれだけの大激増は予測していなかったため、OJTはおろか、弁理士登録前研修ですら責任を持って行うことは不可能になってきている。しかも、国は弁理士登録前研修ですらほとんど費用を負担していない。弁理士会未入会の弁理士登録前の人達を弁理士会が汗を流し、しかも費用負担してまで研修を担うのは理屈に合わない。

 以前は8科目であった論文試験科目が、現在は、選択科目免除者が増え、実質的には3科目にまで減らされている。また、免除されていない人達との間に、極めて大きな不平等を生じており、合格者はほとんどが免除者となっている。さらには、論文科目の持越しも認められ、面接不合格者の持越しも認められ、合格者を増やし易くするためだけの分けの解らない制度になってきている。

 これだけ安易に合格者の人数を増やせる制度にしてしまうと、登録前研修のみならずOJTも登録前に行う必要が生じてきている。にもかかわらず、国は大幅増員のみを安易に行い、一人前の弁理士に育てるまでには多くの時間、労力、経費(給与)の負担を要するOJTについては全く責任を取っていない。OJTの負担は、すべて雇用した事務所、あるいは企業に負わせている。しかしながら、これだけ厳しい経済状況下において、これだけ大幅増員させた弁理士を、事務所においても企業においても十分OJTできる余裕などあるはずもなく、信頼される弁理士制度の崩壊を既に来たしている。
 国は、厳しい経済状況下における大幅増員の弊害をもっと認識し、責任ある制度構築を考えるべきである。

 弁理士が、実務において必要とされる素養は、大きく分けて技術、法律、語学力と言われている。
 ところが現在の試験制度では、これら3要素の一つとして満たされた試験制度とはなっていない。
 弁理士数だけは、十分すぎるほど確保された現在、質の確保への転換を早急に図らなければならないのであって、国際的大競争化時代を迎え、低いレベルの議論をしている時ではなく、科学技術創造立国、知財立国を支える、もっと大きな観点での世界最高レベルの弁理士制度、ユーザーフレンドリーな弁理士制度を早急に構築しなければならない時に来ているのである。




この記事は弁政連フォーラム第202号(平成21年11月25日)に掲載したのものです。
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