PF-JPA




審査請求料の値上げ日記
 

Ryosuke Oohashi
日本弁理士政治連盟
会員 大 橋 良 輔


 

8月30日 特許の審査料、2ー3倍に引き上げ
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20020830AT1FI00P929082002.html

によると、

「特許庁は来年秋にも、新規技術などの特許審査料を一件あたり約10万円から20万ー30万円に引き上げる方針だ。大量出願で知的財産を確保しようとしている大企業に絞り込みを促し、欧米より時間がかかっている特許成立までの審査期間を短くするのが狙い。中小・ベンチャー企業や個人の審査料には減免措置を導入し、出願が減らないようにする。
 9月から産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)特許制度小委員会で検討したうえで、特許庁は来年の通常国会に特許法改正案を提出する。審査料を引き上げるのは、日本の審査料が欧米より安いため、特許と認められないことを承知のうえで書類だけを提出するような出願・審査請求が後を絶たないため。審査料に出願料を加えた特許取得の手数料は日本が約12万円に対し、米国が約39万円、欧州が約45万円となっている。」

そうです。大変なことになりそうです。この案が通れば、企業の知的財産部が使える予算が据え置きまたは微減であると仮定すれば、審査請求件数は半分に減らされると思います。

となると、意見書提出等の中間手続きの件数も半減することが予想されます。

「大量出願で知的財産を確保しようとしている大企業に絞り込みを促し、欧米より時間がかかっている特許成立までの審査期間を短くするのが狙い。中小・ベンチャー企業や個人の審査料には減免措置を導入し、出願が減らないようにする」

とあるように、大企業の出願や審査請求件数を絞り込む、という政策ですので、クライアントが大企業に偏っている特許事務所は、リストラを余儀なくされそうです。
 「中小・ベンチャー企業や個人の審査料には減免措置を導入」とありますが、米国のSmall Entity制度のように、簡単な手続きで審査請求料を半額にしてもらえる運用となるように、弁理士会は特許庁に働き掛けていくべきだと思います。
 それにしても、寒気を覚える記事です。

11月20日
笹島会長から全会員宛のファックス

 昨夜、弁理士会会員全員あてに、「審査請求料値上げを含む特許料金体系見直しについて」と題するファックスが送信されました。
 その中で、笹島会長は、
「日本弁理士会は、会員の皆様が審査請求料の値上げに反対していることを特許庁に伝えると共に、知的財産戦略大綱に沿って審査促進政策を総合的に見直すべきである旨を提案してきました。」

とコメントされています。特許庁の政策に反対していることをリアルタイムに公表したのは、弁理士会史上、初めてだと思います。画期的なことです。笹島会長の英断に敬意を表します。

 特許庁案のように2ー2.5倍に一律に値上げするのではなく、弁理士会は、
(1)米国の出願料金体系に倣って、独立請求項が3項を超えた分、全請求項が20項を超えた分に対して、現行の2000円を乗じるような審査請求料金体系ではなく、30000円程度を乗じる値上げをする、
(2)早期審査の事情説明書の提出に当たり、現在無料なのを、30万円程度に有料化する、
(3)仮に審査請求料を一律に2ー2.5倍に値上げするのであれば、米国のSmall Entity Discount制度と同じように簡便な手続きで、中小企業に対して半額割引の制度を創設する、

といった3項目の提案をしたらどうかと思います。
 現在、参議院で審議中の知的財産基本法案 (平成14年11月27日成立済)の19条2項には、

「中小企業が我が国経済の活力の維持及び強化に果たすべき重要な使命を有するものであることにかんがみ、個人による創業及び事業意欲のある中小企業者による新事業の開拓に対する特別の配慮がなされなければならない。」

と規定されています。弁理士会は、この条文を根拠に、特許庁に審査請求の値上げを再考してもらうように提案していったらどうかと思います。

11月23日
IP電話≒「日米特許庁の審査結果の相互利用」説

 今日の日経新聞の「企業1」面に「IP電話普及前夜」というコラムがあります。 見出しは「苦悩の大手通信各社」です。その一部を以下に抜粋します。
 「通信のIP化のうねりは、NTTなど大手通信各社の経営を大きく揺さぶる。百年にわたって、安定的な収益基盤となっていた音声収入という「命綱」が切って落とされかねないからだ。」
「NTT東西とNTTコムの音声収入は三年後に合計一兆円減少する」(宮津純一郎NTT前社長)
「二〇〇五年には音声トラフィック(通信料)の四−五割がIP電話に移る」(小野寺正KDDI社長)
 これを弁理士業界に焼き直してみます。
●「日米特許庁間の(肯定的)審査結果の相互利用化のうねりは、大手特許事務所の経営を大きく揺さぶる。百年にわたって、安定的な収益基盤となっていた外内収入という「命綱」が切って落とされかねないからだ。」
●「大手特許事務所の外内収入は三年後に合計一億円減少する」
●「二〇〇五年には外内出願数の四−五割が(肯定的)審査結果付きの出願に移る」
 数年前は、ADSLが普及していなかったのでIP電話なんて夢のまた夢でした。それが、孫正義さんがヤフーBBフォンというIP電話を一年前に始めたら、あっという間に広まってしまいました。
 米国特許庁が審査請求制度を導入し、日本国特許庁の(肯定的)審査結果を利用するような法案が来年、共和党主導の議会に提出されたら、あっという間に日本国特許庁も米国特許庁の(肯定的)審査結果を利用するような法案を国会に提出するかもしれません。
 そういえば、法科大学院についても、そんなものは出来はしないよ、とおっしゃっていた方がたくさんいましたが、あっという間に法案ができ、国会で審議され、成立してしまいました 。

12月3日
財務相、たばこ・発泡酒増税の来年度実施に意欲
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20021203AT1BI003303122002.html

によると、

「塩川正十郎財務相は3日午前、閣議後の記者会見で、可能な先行減税の規模について、増減税差し引き最大1兆5000億円とする従来の見解を繰り返した。
また増減税中立のバランスを取るための増収措置については、2004年度からの実施になるとの見通しを改めて示すととともに、たばこ・発泡酒の増税については2003年度の実施に意欲を見せた。」

そうです。審査請求料の値上げも、たばこ・発泡酒の増税と同じような感覚なのかもしれません。
 嗜好品的な商品やサービスに対して増税し、取りやすいところから取る、という徴税原理が働いているように思えます。
 しかし、中小企業にとっては、特許出願して審査請求することは、いまや中小企業のオーナーの趣味や嗜好品的なものではなく、市場で生き残るための命綱であると思います。そこを増税するのは、おかしなことです。
 出願料を5000円ディスカウントしてもらっても、中小企業こそ弁理士の行き届いたサポートを必要としているので、弁理士による明細書作成費用30万円からすれば、微々たるものです。
 4年目以降の特許料を値下げしてくれても、インターネットが普及し新製品情報が瞬時に広まってしまう今日では、商品のライフサイクルはますます短くなり、4年目の年金を払う頃、すなわち出願から6年経過した頃は、その発明技術は陳腐化し、4年目以降の年金を納付しないものが大半となるでしょう。
 中小企業にとっては、4年目以降の年金をディスカウントしてもらうメリットは少ないはずです。むしろ審査請求料の大幅な値上げは、市場への参入障壁になりかねません。

12月16日
 日本弁理士会は、米国のAIPLAが10月24日に発表した「Joint Association Letter on USPTO Strategic Plan and Fee Legislation」
http://www.aipla.org
に倣って、他の団体と連携して共同文書をタイムリーに発表していくことが求められていると思います。


  

この記事は弁政連フォーラム第121号(平成14年12月25日)に掲載したのものです。
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