PF-JPA




意 見 書


 内閣府規制改革推進室の標題の規制改革要望に対して、日本弁理士政治連盟は次の「意見書」を日本弁理士会に提出しました。




2007年7月23日
日本弁理士会
会長 中島 淳 殿
日本弁理士政治連盟
会長 牛 木  護


規制改革要望5027001「各種法律系免許制度の一本化」の件

以下の     は規制改革要望の「具体的事業の実施内容・提案理由」、◆は意見です。

 規制が細分化、専門化されると、様々な意味で国民負担になり、また、利用者に対するサービスの向上にも支障を来たしかねない。

◆ 規制の細分化といい、専門化といい、これは必要があって国がしてきたことである。規制をし、専門化してきたために、国民の手続負担が増えたことは事実かも知れないが、そのために、専門の代理人制度(国家資格制度)が生まれてきたのである。専門分野における資格制度は、専門化された分野には、必要不可欠なことである。専門資格制度は、国民を護るための制度であり、公共の利益のための制度である。その意味で、専門性のない分野は、既に一部開放されているように規制緩和してよいであろうし、国民が自らの責任で行えばよいことである。

◆ 国が規制改革の名の下で、今までの社会生活に関わるあらゆる制度を変え、面倒な法律制度も撤廃し、社会生活に関わる面倒な規制を一切やめ、何でも簡素化するということは、公共の福祉、国民生活の安全など国家が守るべき国民に対する責務を放棄することになり、そのようなことができるとは思えない。そのような考えは無責任な混乱を招来する無政府主義思想につながる。
当会に関係する知的財産権制度改革ついていえば、グローバル化のなかで、WTOなど国際知的財産制度改革の中で、高い知財専門職のレベルが要請される中、日本だけが現行法律系の士業の免許制度を一つの免許制度でまとめた場合、国際的に確立された知財専門家としての特許弁護士、弁理士、特許・商標代理人制度と逆行することになる。
また、産業財産権法は産業の発展に寄与することを目的とした私権の保護法であるけれども、商標法のように私益保護だけでなく、需要者保護という公益性の維持を目的としている。また、知的財産権法のうち著作権は著作者の人格権保護の視点から文化の向上を図ることを目的としており、これも公益性の高いものである。これにかかわる専門家は、公益保護の視点からその専門性が問われることを考慮すれば、やはり、その分野に関わる専門家は一定の資質を具備した者のみに付与される国家資格制度を維持していかねばならないのは当然である。

 さらに、サービスの利用の仕方などによっては、責任の所在が不明確になる危険性があると考える。したがって、国民の生活の向上という観点にも差し障る危険性があると考える。

◆提案者の要望の具体的背景には、例えば、商業・法人等登記業務の行政書士への開放(要望事項管理番号5006002)について、従来から商業、法人登記については、司法書士(弁護士)の独占業務となっているところ、行政書士が受託した業務に密接に関連する場合に限り、行政書士が行う登記業務を認めることがあるようなので、これを例に述べる。この提案理由としては、法務省の調査によれば行政書士の66%が登記業務(本人申請のための書類作成)の経験があること、依頼した申請者本人の77%は行政書士の仕事内容等について満足していることから国民が一定程度満足していることをあげている。この場合、行政書士は会社等の定款や株主総会・取締役会の議事録の作成業務に関与しながら、登記業務ができず、登記業務のみを司法書士に依頼することになれば、その商業登記に関してトラブルが発生した場合、責任の所在がどちらになるか不明確になる危険性があることなどを示唆している。この場合、行政書士に商業・法人等の書類の作成業務と登記業務を一貫して行えるようにすれば、コスト面やワンポイント・サービスが可能になる点から国民(需要者)の生活の向上(利便性の向上)なるという趣旨であろう。しかし、登記業務の専門性を考慮した場合、代理人として登記申請できる司法書士と単に定款等を一定の書式で作成するに過ぎない行政書士とはその専門性、同列とはいえない。
 したがって、現行の法律系の士業の免許制度を束ねても利用者に対するサービスの向上とはならない。利用者は、専門分野を異にしながらも一つの免許制度で一つの資格に統一されている資格者の中から事案に応じた専門家を捜さねばならず、余計な負担が掛かる。
また、事案に応じた資格者を探し出せないケース、誤って他分野の資格者を選択してしまうケース等、むしろ利用者、統一資格者の双方が混乱をきたし、責任の所在が不明確になる。
さらに、専門を異にしながらも、免許制度を束ね統一化するための国家試験制度、専門を異にする統一資格集団の組織運営等は、現実的に不可能である。
一方、現行の複数の法律系士業からなる総合事務所や単一資格の事務所から選択できる現行のシステムこそ利用者にとって最も使いやすく、サービスの向上につながっている。これに対し、法律系資格を束ねることは、これに逆行することになり、無用の混乱を招くのみで国民のサービス向上にはならない。
なお、弁理士は、技術系専門職および国際系専門職の部分も大きいため法律系専門職の概念には必ずしもはいらないので、規制改革要望5027001の各種法律系免許制度の対象から外れるのではないか。

これらの弊害を最小限度に抑える為にも、また、規制改革や構造改革に関する諸般の改革の流れから読み取れる日本の将来へと着実につなげていく為にも、各種「免許」制度については、束ねられる免許はなるたけ大くくりに束ねていくべきであると考えられる。

◆各種免許制度を束ねていった場合の国民的弊害は前述したとおりである。

この考えにしたがって、法律系の各種免許制度についても、束ねられる免許制度はなるたけ束ねていくべきである。弁護士、司法書士、行政書士、通関士、公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、土地家屋調査士および不動産鑑定士は、国民の依頼または委嘱による、法的書類の作成および手続き代行等法律に関する諸事務の代行、法律に関する相談業務(コンサルタント業務)、その他訴訟等に関する法律事務の代行という点で共通してもいる。

◆束ねた場合の弊害については前述したとおりである。なお、列挙された士業の業務は法律事務の代行として共通しているわけではない。

細分化、専門化するメリットよりも、これからの時代、束ねて大くくりにするメリットの方が大きいのではないかと考える。

◆国家資格制度は、歴史的に必要があって、あるいは必要に迫られて、細分化、専門化してきたのである。従って、国家資格者が扱う仕事の細分化、専門化を廃止・撤廃でもしない限り、その専門に関わる資格制度を廃止し大くくりな一つの制度とすることはできない。そのようにすると、国民が不利益を被るであろう。束ねて大くくりにし、より専門外の者にも様々な代理を認める制度にすると、不備が多々でかねない。
例えば、前述したように、会社定款等法人関係書類の作成を業とする行政書士に司法書士〔弁護士〕の専業である登記の代理人業務のを容認することは、試験制度、研修制度の実態から勘案して、不備が起きる可能性が大きく、被害を受けるのは国民である。
大くくりでは、専門分野が見えにくくなり、国民も選択に戸惑うであろう。専門を示せばよいと言うが、何でもできる資格制度であれば、できる限り多くを示すというのが常であろう。資格制度に対する信頼性という点では、デメリットの方が大きい。

したがって、弁護士、司法書士、行政書士、通関士、公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、土地家屋調査士および不動産鑑定士は、一つの免許制度に束ねる方向で検討すべきである。これら以外にも束ねられる免許制度はなるたけ束ねていくべきであると考える

◆「法律事務代行という点で共通」というが、中身は全く違う。ましてや、弁理士などは、技術も国際性も絡んでくる。これらの資格を一つにくくることはできない。一つにくくったのでは、資格制度の廃止に等しい。

また、一つの免許にする際、その人材の得意分野がサービスの利用者に明確に分かる様な工夫をしたらどうかと考える。

◆束ねていくべきだといいながら、得意分野を明確にすべき、としている。自己矛盾である。得意分野を明確にしたのが、資格制度であろう。
国の規制に係る制度、社会生活における制度(納税制度、司法制度、社会保険制度、知財制度など)を全て廃止でもしない限り、一つにくくっても同じことである。また、各々の資格制度が必要となるであろう。

以上


この記事は弁政連フォーラム第175号(平成19年8月25日)に掲載したのものです。
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