PF-JPA



喫緊の課題である
弁理士の地域活動と
アクセスポイント


日本弁理士政治連盟
副会長  杉本 勝徳


第1.はじめに
1.弁理士ほど東京、大阪、名古屋の都会に集中している資格業は他にない。とりわけ東京への集中は、日本国家の東京への機能集中と相まって異常である。
  このことが、今日の日本弁理士会に極めて苦しい状況をつくり出した元凶であり、永年にわたってこの状態を放置してきた日本弁理士会執行部役員の罪は大きい。
2.20年前の1985年2月1日に日本弁理士会近畿支部を開設したときに、当時の趣意書には「一刻も早く全国支部化を」をスローガンに掲げて支部活動を始めたのである。全国に支部を作って弁理士活動の全国展開をやらない限り、必ずその歪みが来ると推測されたからである。
3.昨年から、弁理士の地方での過疎状態が弁理士業のあり方にまで影響を与えてきている。年間に600人以上の合格者を出し、30年前の10倍近い勢いで弁理士を増員しているが、地方の県には殆ど新規合格の弁理士が行かないばかりか、地方で起こるハイテク企業の発明に殆ど対応できていない状態は昔のままである。
4.弁理士に代わって行政書士に弁理士業務の一部を開放したらどうか、という議論が起こって久しいけれども、その都度、弁理士政治連盟が培ってきた人脈である国会議員の先生方のご尽力によってそれは阻止してきた。しかし地方の過疎状況は一向に解決されず、知財立国や中小企業の知財マインドの醸成が叫ばれながら、地方での弁理士の活動は全く低調であり、社会の要請に応えていない。そして弁理士に理解を示されてきた国会議員の先生方にも、地方に何百人もいる行政書士に開放するほうが国家のためだ、と仰る方が増え始めたのである。
  特に商標は既に行政書士に開放する方向で特許庁も動いているという情報もある。仮に商標が開放されれば、商標で生業を立てている過疎地域の弁理士には死活問題の筈である。
5.このように地方に於ける弁理士活動の活発化は喫緊の問題であり、一刻の猶予も許されない状況である。そこで日本弁理士会は全国にくまなく支部を作って、地方の弁理士活動を活発化し、知財を国是とする社会においての貢献を図り、弁理士の存在価値をアピールしなければならない。遅きに失した感は無きにしも非ずであるが、今やらないと更に弁理士の社会における存在が薄れるのである。
6.日本弁理士会会員6000名のうち、近畿支部および東海支部に所属していない会員は全会員6000名のうち略4500名に上り、全体の4分の3になるが、この会員は本会の会員ではあるが、支部の会員ではなく、従って支部規則に規定事項とは関係なく弁理士業務を遂行しなければならないという不平等を被っている。
  そこで、弁理士が地方で活動することの必要性、日本弁理士会の支部とは何か、なぜ支部の必要性がいわれるのか、支部が無かったら何故よくないのか、アクセスポイントとは何か、アクセスポイントは何故必要なのか等について説明したい。

第2.支部の存在と支部活動
1.支部の会務
  支部規則第3条の(支部の目的)には「・・・もって本会の目的達成と事業の推進に資することを目的とする。」と規定され、本会の目的とは会則第2条に「弁理士の使命及び職責にかんがみ・・・」と規定されている。そして、支部規則第4条に(支部の事業)として9項目が規定されている。このうち、
(1)支部会員の指導、連絡、監督、(2)支部に委任された事項の実行、(3)本会からの通達内容の徹底、(4)支部会員の資質の向上、(6)支部会員の意見を本会に連絡、(7)本会に対し建議する、(8)支部の目的達成に必要な事業
 のそれぞれについては本会で実行出来ていない業務であるが、本会の目的達成には不可欠の事業である。
2.本会の会務にのみ従う会員と支部の会務も行う会員の会務比較
(1)本会にのみ所属する会員の指導、連絡、監督は直接誰が行っているのか。
 答.会長だとすると、会長が4500名の会員の指導、連絡、監督を行い得ていると言えるだろうか。行い得たとしても、きめの細かいことは出来ず会長の繁忙に輪をかけているだけではないのか。
(2)支部に委任されるような細かな事項を本会会員が実行しているか。
 答.支部各地域での特許制度の昂揚普及は支部が存在してはじめて実行可能であり、支部のない地域では誰が直接実行するのか。例えば近畿では近畿2府4県の事業をこまめに支援実行しているが、本会では関東地方の各県の事業に誰がこまめに対応しているのか。また関東以外でも支部の存在しない県では誰が対応しているのか。誰も対応できていない。
(3)本会からの通達内容の徹底
 答.支部は支部会員全員と直結する連絡網を有しており、支部地域の会員には速やかに重要事項を徹底的に重ねて連絡できる。支部が無い地域においては、このような地域ごとの徹底した連絡は出来ない。従って支部の無い地域の会員は地域ごとの連絡を受けられていない。
(4)支部会員の資質の向上
 答.支部独自の会員研修を行っているが、支部の存在しない地域においてはその様な研修は出来ない。また現在進行中の能力担保研修も、本来支部単位で行えるが、現在は支部の存在しない地域のことを考えて、本会の研修所が直接担当しないと実行出来ていない。これは本会の会務の多忙に輪を掛けることになっている上に、地域の事情を無視して実行することにもなる。
(5)支部会員の意見を本会に連絡したり、建議することについて
 答.弁理士の業務に関連した重要な事項について、本会に支部の意見を述べる事は多々あるが、支部に属していない会員は意見を述べる場がない。
   また、本会の運営に対して積極的な見解を建議したり、特許庁や地方自治体等の外部から意見や考えを求められたときに、速やかに支部の意思として統一した見解を本会を通じてまたは支部独自に発表できる。支部に所属していない多数の会員にはこのような意見を述べる場がない。非公式にクラブの意見を提出することはあっても、特許庁をはじめ地方自治体やその他の外部団体に直接クラブの意見を述べることはできない。
(6)支部の目的達成(本会の目的達成)のための事業
 答.支部地域の諸団体(近畿経済産業局、大阪地裁、大阪府、大阪市、京都府、京都市、兵庫県、神戸市等の地方自治体、大阪商工会議所を始めとした各商工会議所、地域に存在する各大学、2府4県の発明協会各支部、弁護士会や公認会計士協会等の自由業団体等)との活発な事業展開や交流を行っているが、支部の存在しない地域の会員は関東地方であっても行なわれていない。
   日本弁理士会は関東経済産業局や東京都を始めとした関東各県市等の地方自治体や商工会議所と組織的な交流は行われていない。
 3.本会が行い得ていない具体的な支部活動
(1)近畿経済産業局の支援による公認会計士協会近畿会と日本弁理士会近畿支部と の共同事業による「バイオ情報サイト・サポーターズ」の実行
  近経局宮城勉局長とも直接意見交換を数度に亙って行った。
(2)知的財産基本法第6条による大阪府、大阪市の知的財産行政への協力、太田房江大阪府知事とも意見交換。                      
(3)大阪商工会議所と連携して、近畿の中小企業の知的財産権制度の昂揚普及に努めている。
(4)産学官連携協力を実践するため、大阪大学を始め近畿の各大学と連携して、ベンチャー企業の支援や、リエゾンオフィス設立の協力、ロースクールの講師の紹介 等を行っている。
(5)近畿エリアの発明協会各県支部との緊密な協力関係を維持している。
(6)裁判所とも定期的な会合を持つべくその方法について話し合っている。
(7)支部会員1000名全員の緊急連絡網を構築し、緊急時以外でも繰り返し連絡や通達、そして必要な支部会員の招集にもしばしば連絡網を活用している。
(8)支部会員の顔写真入名簿を発行し、支部会員相互間の連絡に重宝されている。
(9)支部委員会主催の会員の研修や、外部一般への無料講習会を頻繁に行っている。
(10)行政書士会のように弁理士業務と紛らわしいキャンペーンを張る業界に対して
  抗議するとともに、釈明を求めたりしている。  
(11)弁護士会を始め、地域の自由業団体と密接な関係を構築し、業務に必要な相互協力を行っている。日弁連法務財団関西支部では公認会計士会、税理士会、司法 書士会の協力を得て知的財産の価値評価基準作りに取り組んでいる。
 4.本会の業務で支部に移管できる事項
(1)本会が支部地域における会務において直接関与しているもの
  @現在行われて能力担保研修は企画を研修所、運営はすべて各地区研修所と支部   において行うべきであって、本会の副会長が時間と金を掛けて支部に来て挨拶したり関与する必要はない。
 A地方発明表彰もすべて支援センターと支部で行うべきであって、本会の副会長   が時間と金を掛けて賞状の授与に支部へ行く必要はない。
 B会長副会長の全員が大きな交通費と宿泊費と時間を掛けて支部へ出向き、支部   会員と語る会は必要ない。必要な事項があれば総て支部を通じて本会に建議
  または意見を述べることができる。
(4)その他支部に於ける重要事項にいちいち会長副会長が時間をかけて支部に行くことはない。何故なら、支部長、副支部長、幹事、監査役が支部の会務を確り掌握しているからである。
5.現在、本会で行っている会務の支部への移管事項
(1)本会で行わず支部に移管すべき委員会
 @福利厚生共済委員会 A意匠委員会 B業務対策委員会 C広報委員会 D商標委員会 E情報企画委員会 F新規業務検討委員会 Gソフトウエア委員会 H特許委員会 Iバイオ委員会 J防災検討委員会 K弁理士制度普及委員会 L民間業者による知的財産権登録等対策委員会 M令規委員会 N令規改正特別委員会 O綱紀委員会 P工業所有権仲裁センター支援委員会 Q事務所名称等委員会 R司法制度対策委員会 S特許制度運用協議委員会  特許業務法人検討委員会
  上記委員会については、必要に応じて本会に統括的な委員会を設けることを考えればよい。
(2)弁理士会研修所および弁理士会知的財産支援センターについては各地区に企画
・実行を任せて全体の業務権限を大きくして中央は統括のみとする。
(3)防災会議はすべて支部に移管する。
(4)その他本会が直接関与する必要のない会務は総て支部に移管する。
6.全国支部組織と全国支部組織としてのメリット
  上記諸会務を支部に移管するためには全国に支部をつくり、全会員が支部会員と なって、今まで関与出来なかった多くの会員が、多くの会務に直接関与することができる。
(1)このように支部に多くの本部会務を移管することにより、本部会務の負担が激   減し、会長・副会長は現在弁政連が行っている渉外活動にも遙かに大きな時間と智慧を投入できる。
(2)現在2つの支部が行っている会務は、本会が行っていない重要な会務が含まれ   ているが、そのような重要な会務を全国支部が全国規模で展開できる。
(3)全国に支部を設けることによって、今まで会務に直接関与出来なかった会員は   すべて直接関与することが出来るようになる。
(4)本会は日本弁理士会の方向を誤らないよう大所高所から日本弁理士会および弁理士を指導できる。
(5)10年後に1万人になる会員が充分会務に関与し、本会が大所高所から指導するには全国支部組織の方法が弁理士会の組織としてはベストと考える。

第3.アクセスポイント
1.アクセスポイントの開設
  昨年12月22日および本年3月23日の臨時総会でそれぞれ全国に支部およびアクセスポイントを設けることが承認されたので、遅まきながら全国的に日本弁理士会の活動が急展開で行われることになるであろうと思われる。
  支部については縷々述べたが、次にアクセスポイントの必要性とその意義および開設時期と場所ならびに費用について述べる。
2.アクセスポイントの必要性
  大阪、名古屋には支部があるが、それ以外の地域では支部ではなく、単なる部会であり、これは日本弁理士会の組織ではない。東京にも支部がなく、従って東京においても支部活動が行われていないにも係わらず、4000名を越える会員に違和感がないのは本部が東京にあるからである。
  東京はさておき、全国の必要な地域にアクセスポイントを設ける理由は、そこが日本弁理士会の地域活動の拠点になるからである。現在、地方においては日本弁理士会の拠点がなく、従って公式連絡は総て東京の本会宛になり、地域において地域団体又は地域の企業と日本弁理士会が接触する場所が存在しない。そのために地域の事情も分からなければ、地域での活動も行い得ていないのでアクセスポイントを設置して地域の拠点とする必要性が出てくる。
3.アクセスポイントの設置場所
   原則として8地区の経済産業局のある都市に設置する予定であるが、地域の会員の協力の取れる所であれば、それにこだわらず設置しても構わないのではないか。既に4月1日には札幌と仙台がオープンしたが、今年度中には金沢、高松、広島、岡山にオープンする可能性がある。金沢と岡山は経済産業局の存在する都市ではないが、地域会員の協力で開設される可能性が高い。
4.アクセスポイントの機能
(1)求められる役目
@.地域における知的財産の総合相談所
A.地域における弁理士の業務推進の連絡所となる
B.地域の弁理士相互の情報交換を図る場所として利用する。
C.地域の弁理士の研修、親睦および行事計画を図る場所として利用する。
D.各地域の部会会合場所として活用する。
E.地域の経済産業局の知的財産本部および特許室との連携を図る拠点とする。
F.地域の知的財産関連の団体および公共団体との連携を図る拠点とする。
G.地域の大学との連携を図る拠点とする。
H.クライアントと会員の業務における打合せ場所として活用する。
I.日本弁理士会本会および各地の支部・部会との会合および連絡事務所とする。
J.日本弁理士会本会の地域における情報の受皿とする。
K.知的財産に関係する講演会や講習会等の情報の集積と会員への配信
(2)直ちに実行できる役目
@地域における知的財産の総合相談所としての機能
  日本弁理士会105年の歴史において、北海道および東北には日本弁理士会の拠点がなく、従って、同地域の知財関連団体およびユーザーは、日本弁理士会に相談しなければ成らない事柄において、東京の本部に直接連絡しなければならなかった。アクセポイントの設置によって、地域の関係者は先ずアクセスポイントに連絡を取ることによって、必要な措置を求められることになる。
A地域における弁理士の業務推進の連絡所
  アクセスポイントで受けた情報は直ちに地区に所属する弁理士に伝えられ、相応の措置がとられることになるが、必要に応じて本部にも対処方法を求めることができる。
B地域の経済産業局の知的財産本部特許室および地域の知的財産関連の団体および公共団体との連携を図る拠点
  地域における公的団体と日本弁理士会との連絡場所として利用され、必要に応じて日本弁理士会は当該団体と連携して求められる知財活動を行う。
C地域の弁理士ユーザーとの連携を図る拠点
  地域における弁理士ユーザーと弁理士および日本弁理士会との連絡場所として利用され、必要に応じて地域の弁理士および日本弁理士会は当該ユーザーに求められる措置をとることができる。
D地域の弁理士相互の連絡場所
  地域の弁理士が集う場所を持たなかった日本弁理士会は、アクセスポイントを利用することにより、会員相互のコミュニケーションを図ることができる。
E地域および地域で活動可能な弁理士リスト作成と公表
  地域に在住する弁理士および地域に出向いて活動できる弁理士の住所、連絡先、専門分野等を明記したリストを作成し、ユーザーの要望に応じて開示する。
F知的財産関連の催物の情報収集
  知的財産に関する講習、研修、催事等を関係団体から情報収集して、クライアントやユーザーの問い合わせに応えるとともに、地域の弁理士に当該情報を配信する。
 5.今後4ヵ所設置費用としての試算
 【イニシアルコスト】
  ○事務所賃貸敷金
   100m2×3万円(敷金)×4ヵ所=1200万円
  ○事務所改装費
   200万円×4=800万円
  ○什器備品費
   100万円×4=400万円
  合計費用2400万円・・・初年度費用
 【ランニングコスト】
  ○アクセスポイント用貸室維持費用
   100m2×4000円×12ヵ月×4=1920万円
  ○事務職員一人の費用
   7時間×1000円×20日×12×4=672万円
  ○電話、ファックス、パソコン等事務所維持経費
   10万円×12×4=480万円
  合計費用3072万円
  (1ヵ所768万円)・・・年間維持費

  

この記事は弁政連フォーラム第149号(平成17年4月25日)に掲載したのものです。
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