PF-JPA

専門参審制導入についての意見

 
Katsunori.Sugimoto   
日本弁理士政治連盟
副会長 杉本 勝徳
 

 
 
【専門参審制を導入すべき理由】

1.国民の司法参加の観点から
(1)司法制度改革審議会の最終報告も迫っているが、その中で国民の司法への参加に触れた部分がある。日本の司法は法曹三者の閉鎖社会であり、それが国民感情・意識とずれた特異な世界を形作ってしまっているといえる。しかし最近になって法曹三者である裁判所、法務省(検察庁)そして弁護士会も前記審議会の意向を受けて前向きに検討していることが新聞報道で知られている。

(2)その方法として現在考えられているのが、陪審制度と参審制である。最高裁判所は参審制を導入しようとしているが、弁護士会は何故か参審制に反対で、陪審制度の導入に賛成のようである。
 参審制は普通参審制と専門参審制があるが、今取り上げようとしているのは後者の専門参審制である。参審員は裁判官と一緒に審理し評決権を持つことが特徴であるが、本稿では一般的考えを述べた後に弁理士が関与できる知的財産権訴訟の専門参審制について考えを述べたい。

(3)今日、裁判官の聖職を叫ぶ余り、裁判官の常識と一般世間の常識とのずれが大きくなっていると思われる。
 特に刑事事件では、社会の秩序維持が司法の意義であるとして、加害者(犯罪者)の更生に重きをおく判決例すなわち世間や被害者の感情からして軽すぎると思われる量刑の判決例が多く、犯罪被害者の不満は爆発寸前となっている。
 民事事件においても、社会の動きや金銭感覚のずれが大きく、やはり判決が社会常識または国民感情から外れている場合が多い。

(4)裁判官の判決は判例または同様事件の前例に従うため、市民感情から外れた判決が多くなる傾向がある。勿論、第一には法律が社会の常識・感情から離れた時代遅れのものが多いこと(特に刑事事件における量刑や罰金)であるが、第二はやはり裁判官の判決が判例または前例に従ったり、先輩裁判官から徒弟制度的に判決の出し方を学んだり、最高裁の顔色を見たりするため時代に合わない判決となり、ドラスチックな判決を出す環境ができていないケースが多い。

(5)裁判官は法律の解釈に厳格かつ真面目に取り組む余り、やや杓子定規に解釈して判決を出すことが多いと思われるが、そのことが社会や時代の常識・感情に反することになっている虞もある。
 即ち、法解釈において市民側に立ったフレキシブルな思考回路が閉鎖されている虞も感じられる。これは刑事事件、民事事件はもちろん、行政事件においても散見されるところである。特に昨年11月に和歌山地裁が出した産廃業者勝訴例和歌山県敗訴の判決、あるいは本年1月22日に鹿児島地裁で出された「奄美の黒うさぎ」を守るために自然環境を破壊するゴルフ場の造成中止を求めた裁判で、中止させることができなかった判決は、いずれも時代の流れと住民意識を考慮しなかったものといわざるを得ない。
 このような判決が出る更なる理由に、多忙な裁判官が事件の現場に殆ど行かないことが挙げられる。現場を見ずに書面だけで判決を出すことの限界があるように思われる。前記和歌山地裁や鹿児島地裁の判決に反面教師として学んで、現場主義を第一と考える民間人を登用できる専門参審制の必要性がここにある。

 2.知的財産権訴訟から見た専門参審制
(1)知的財産権訴訟における東京地裁・大阪地裁は、特許裁判所のような専門裁判所に近い、と新民訴法から最高裁の関係者は言うがそれは間違い。
 確かに東京地裁民事29部、46部、47部及び大阪地裁民事21部は知的財産権専門の法廷ではあるが、それはその法廷が専門法廷というだけで、そこで裁く裁判官は元は専門外の裁判官である。
 多くの裁判官は上記の各部に配属されて、やがては知的財産権専門の裁判官として勉強され専門家に育って行かれるが、当初は一般事件しかやっていないことから判断すると、専門部はあるが専門部専門の裁判官が居ないのである。

(2)そして更に悪いのは、折角専門家になるべくして勉強された裁判官が、数年すると知的財産権訴訟とは全く関係のない部署に移動して、また専門外の裁判官がやって来られて一から勉強を始められる。これでは専門部があっても、そこで裁く裁判官が専門家として定着しないのであれば、専門裁判所とは言えないのではないか。
 本来は特許裁判所が理想であるが、当面は専門参審制の導入によって、現行裁判の中でその欠点を補うことが相当程度可能であり、専門裁判所に近い実態が確保されると思われる。特に知的財産権訴訟の経験が少ない地方の裁判所においてはその効果は大きいと思われる。

 3.知的財産権訴訟の専門参審制導入の具体的検討
(1)専門参審制が導入されると、弁理士の新しい業務が拡がるとともに、特許裁判所が出来るまでの相当の期間に、専門家の弁理士が代理人としてではなく、訴訟の審理や判決に直接関与することができることになる。そして、より精度の高い審理と判決を確保できることにもなり、司法の閉鎖性を幾分でも打破することができる。

(2)参審制を導入した場合に、すべての事件に対して、強制的か選択制かが問題になると思われる。しかしこれは、事案によって参審制を導入したりしなかったりしていたのでは、参審制の本来の意義が発揮されないから、やはり原則では強制的とすべきであると思われる。

(3)裁判官と参審員の人数
 裁判所の構成との関係を検討しなければならないが、裁判官と参審員が同数またはそれに近い人数とするのがこの制度の意義を高めると思われる。

(4)参審員の評決権
 裁判官との議論において対等であるべきと思われるから、当然に評決権を与えられなければならない。

(5)参審員の人選方法
 破産管財人を決めるように裁判所の意思を尊重することが第一であると思われる。第二は訴訟当事者の推薦が考えられるが、これには原告・被告当事者双方が承諾する場合のみ認めるものとする。尚、参審員については参審員リストを設けて、訴訟毎にそのリストの中から参審員を決定すればよい。

(6)参審員の任期
 参審員の養成を受けて専門参審員となった者が1年〜2年任期とするか(更新も可能)、事件ごとに交代してしまうか、いずれにしてもこれは検討を要する問題であろう。

(7)参審制のもとでの訴訟と報酬
 従来と同じ連続審理とするか、短期集中審理とするかは検討の余地がある。
報酬については勿論受けるが、奉仕活動を原則とする。

(8)参審員の法的素養
 知的財産権訴訟では参審員としての知識の他にもちろん知的財産権の専門知識は必要であるから、参審員となる可能性のあるのは、弁理士、審査官・審判官、大学教授等の学者、企業の知財担当者等が考えられる。

 4.専門参審制導入に備えて日本弁理士会の準備
(1)参審員としての適正会員の把握
 弁理士が参審員となることにおける条件としては種々議論しなければならないが、先ず、東京高裁での審決取消訴訟および知的財産権侵害訴訟において補佐人としての経験の度合いを考慮して適性を判断することが考えられる。また、弁理士本人の意思を尊重して希望者については配慮すべきであろう。しかし弁理士としての経験年数がかなり必要的条件となるから、年齢制限や弁理士としての登録年数を条件に加えることは必要と思われる。例えば40歳以上70歳未満とか、登録後10年以上とかである。年齢に上限を設ける理由は裁判官より余りにも年齢が上だと審理がやりにくいだろうし、時代の流れに追いついていけないだろうから。

(2)参審員の養成
 弁理士会内部に「参審員養成所」を設けて、公正を確保するリーガルマインドの養成や、判決を出すことの意義、重大性についても履修した者を日本弁理士会として登録しておけば、事件とともに裁判所または当事者の要請に応じて人選を迅速に行える。

(3)弁理士の社会的使命
 日本弁理士会は参審員制度が導入されることに積極的に意見を述べて、新しい弁理士の社会的使命を果たす必要がある。更には、弁理士の社会的地位向上を図るうえで参審員になることは極めて有効であり、司法制度改革審議会の報告を政府がどう扱うかの今が千載一遇のチャンスであると思われる。

(4)参審制が導入されるかどうかも、またそれが知的財産権訴訟に導入されるかどうかも全く不明の今から意見を述べることの是非はさておいて、弁理士法改正特別委員会で検討しているのでいちはやく敢えてKTKに報告する次第。
 

この記事は弁政連フォーラム第99号(平成13年2月25日)に掲載したものです。

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