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特許法等の一部を改正する法律案について対応報告

ライセンス契約の保護強化、共同研究等の成果に関する発明者の適切な保護、ユーザーの利便性向上、紛争の迅速・効率的な解決のための審判制度の見直し等を柱にした特許法案について、我々の要望が反映されるよう衆議院経済産業委員会の質疑において担保されるよう行動しました。
本法律案の経緯は、3月11日に閣議決定されていましたが、大震災の影響で国会提出されたのが4月1日にずれ込み、その後も大震災の影響で国会審議が滞り、いつ委員会審議に入るのかなかなか予測が難しい状況が続きました。そうした中で、急に4月11日に参議院先議となり参議院経済産業委員会に付託され、4月14日の一日だけの審議で委員会可決、翌15日に参議院本会議可決という慌しいスケジュールで参議院を通過してしまいました。我々は、本法律案について、弁理士の要望を反映させるため様々な機会を狙っておりましたが、参議院はこのような状況で対応が間に合わず、残念な結果に終わりました。
そこで、次の衆議院では見逃すことなく、我々の要望を確実に反映させるため、経済産業委員会の質疑で国会議員に経済産業省・特許庁を問い質してもらうことにしました。要望事項については、日本弁理士会と日本弁理士政治連盟で入念に協議し、法案化の基礎となった産業構造審議会特許制度小委員会報告書の中で、本法律案に盛り込まれなかった内容と、大震災関連と弁理士法改正、とりわけ弁理士試験制度の改正に絞って取りまとめ、日本弁理士会と共に我々の要望が質疑に反映されるよう、経済産業委員会で質問する国会議員を中心に陳情を行ないました。陳情を行なった要望事項5項目について、次のとおり報告させて頂きます。
 
望月義夫衆議院議員を囲んで古谷弁政連会長と塩川修治弁理士


「特許法等の一部を改正する法律案」に対する委員会質疑について(お願い)


【要望事項1】
 特許庁と裁判所の「ダブルトラック問題」を解決させるため、「特許法第104条の3」を見直し、技術専門性の高い特許庁の無効審判制度を再構築して、特許の信頼性と安定性を確保することの検討を行うこと。

<理 由>
 我が国の特許出願数の長期減少傾向は、ユーザーの知的財産制度への不信感が一つの要因と考えられる。
 これは、企業や個人が裁判所に特許権侵害を提訴しても、訴えられた側は特許権の無効審判を請求して、これに対抗することができる。裁判所での訴訟と特許庁の無効審判の双方で「特許の有効性」が争われ、判決と審決の判断が対立するケースも少なくない。現実に、特許侵害訴訟の判決によれば、裁判で権利者が敗訴する割合は80%近くにまで達し、特許権を取得しても怖くて行使できない事態を招いている。
 この状況を是正するには、原点に立ち返って特許制度を見直し、ユーザーが信頼感をもって特許の活用が促進される制度に再構築すべきである。そのため早期に解決すべき課題は、特許庁と裁判所の「ダブルトラック問題」であり、その主原因は「特許法第104条の3」の規定である。
 我が国では従来、特許の有効性は特許庁での無効審判の手続によるものとされていたが、平成12年4月のキルビー最高裁判決、平成17年4月の特許法第104条の3の規定により、侵害訴訟において特許の有効性の判断を行なうことが可能となった。この2つのルートの利用により紛争処理の結果の予測が困難になり、侵害訴訟が紛争解決システムとして機能しなくなっている。現行制度は同じ証拠・理由であっても侵害訴訟の被告に特許を無効とするチャンスを二重に与えており、特許権者にとって一方的に不利な状況である。特許法第104条の3によって生じる特許権者のリスクを軽減させるため、特許庁の技術専門性を活かした制度へ再構築すべきである。

【要望事項2】
 我が国の現行特許制度における期間徒過に対する対応は、諸外国に比べて極めて厳格であることから、国際調和の観点から、特許法条約(PLT)に準拠した救済手続きを導入すること。

<理 由>
 特許法条約(以下「PLT」という。)は、ユーザーフレンドリーな手続の導入及び国際的な手続調和を目的とした国際条約である。主要諸外国の多くは、同条約に未加盟ではあるが、手続期間の徒過により出願又は特許に関する権利の喪失を引き起こした場合について、PLTに準拠した救済手続を設けている。
 一方、我が国の現行制度には、特許料及び割増特許料(以下「特許料等」という。)の追納期間(特許法第112条の2)等の限られたものを除き、期間徒過後の救済手続が設けられていない。今次の特許法改正においてもいくつかの期限について救済手続きが新たに設けられたが、さらに検討を継続し、PLTの趣旨に合致した緩和された要件をもって、広範な救済規定が設けられるべきである。

【要望事項3】
 我が国産業の国際競争力の源泉である特許出願数の減少が長期化している。この状況を早期に回復させるため平成16年4月から大幅に引き上げられた特許審査請求料を可能な限り元に戻すこと(50%引下げ)を検討すること。

(法案内容)
 本法案では、特許料等の減免制度の拡充、意匠登録料の引下げ、国際出願手数料の引下げが手当てされ、また特許庁は本年1月に特許審査請求料を25%引下げる方針を打ち出した。

<理 由>
 小泉政権のもと平成15年にスタートした知的財産立国の国策の下、プロパテント政策の流れに沿って知的財産推進計画が推進され、この梃入れの結果もあって、平成15年に41万件まで減少していた特許出願数は、平成17年には43万件弱まで一旦回復した。しかし、平成18年以降再び減少し始め、昨年は平成21年の35万件よりさらに減少している。
 このような状況を招いた大きな要因の一つに特許審査請求料の大幅引上げが考えられる。特許庁は平成16年4月1日以降の特許出願から審査請求料を約2倍に引き上げた。これ以降、中国等の特許出願数が増加傾向を続けているにもかかわらず、我が国の特許出願数は長期減少傾向を続けている。
 知的財産立国を標榜しながら、特許出願数の長期低落傾向を放置することは国策に反する。特許出願数を早期に回復させるためには、特許出願人の実質的な経済的負担を大幅に軽減させることが緊要である。特許庁が打ち出した25%引下げでは不十分であり、特許審査請求料を平成16年4月1日以前の料金に戻すこと、つまり50%の引下げが必要である。

【要望事項4】
 原子力発電所の問題を始め、東日本大震災の復興は我が国経済の喫緊かつ長期的な重要課題である。復旧も重要であるが、それを超えた新規産業の創造、新技術の創出を視野に入れるべきである。特許制度などの知的財産制度によりこれに貢献する必要がある。そこで緊急提言として、以下のような提案をしたい。

<東日本大震災の復興に向けた知財からの提言(政策要望)>

1.被災地の産業への知財の貢献
 被災者は、尊い人命、家財産までも無くしただけでなく、職場までなくした方が多い。何よりも復興に大切なことは、被災者の経済的基盤を整えることである。これには、既存インフラ、及び産業の復興はもちろんだが、同時に新しい産業を起こし、地域の雇用を増大させることが最も重要である。この産業の復興、創成に、同時に考えなければならないことは、原発、計画停電等による首都圏の混乱から理解されるように、日本の将来のあるべき産業構造である。
 BRICs諸国の台頭、地球環境の悪化、エネルギー・資源価格の高騰、原発によるエネルギー確保の限界を考えると、我々が主張してきた知財集約型の産業振興以外に、我が国が生きていく道はない。具体的には、新エネルギーの開発、省エネルギー、省資源を推進する産業の育成であり、創成である。
 更には、我が国が強いとされているゲーム、漫画に代表される日本のコンテンツを活かした産業の育成等が挙げられる。
 被災地域の知財による産業の振興は、日本経済、産業にとって戦後最大の試練でもあるが、これを克服できれば、被災地に止まらず日本の将来の産業のモデルを構築することにもなり、その影響は大きく、この成否は日本の将来を左右するといっても過言ではない。

2.具体的な施策(提言)
 (1)知的財産を担保とした特別融資制度の創設
 (2)技術分野を指定し被災地企業出願の優先審査
 (3)経済特区に知財分野の指定
 (4)知財基金の創設


【要望事項5】
 今般の特許法改正(特許制度拡充強化)に伴い、弁理士制度も拡充強化する必要がある。その方策として、弁理士法改正も視野に入れた「望ましい弁理士試験制度」の再構築を、早期に検討し見直すこと。

[弁理士試験制度に関する具体的要望]
1.短答式筆記試験(多肢選択式)、論文式筆記試験、口述試験の構成は維持する。

2.短答式筆記試験(多肢選択式)は、問題量を増やし、以下の形式、合格基準、事項に配慮して行うことを提案する。
ア)基礎問題と応用問題との二部構成とする。
イ)基礎問題は、必要最低限度の知識を問う問題を出題する。基礎問題の合格最低ラインを80%程度とすると共に、科目毎の合格最低ラインを70%程度とし、これに満たない受験生は基礎問題の合計得点にかかわらず不合格とする。
ウ)応用問題においては、問題発見能力、法的思考能力を考査できる問題を出題する。
エ)論文式筆記試験における丁寧な採点を可能とするため、短答式筆記試験において、論文試験受験者数の十分な絞り込みを行う。

3.論文式筆記試験においては、長文の論述を要する問題を出題し、問題発見能力、法的思考能力に加え、説明能力(論理的思考能力、表現能力)を考査する。

4.口述試験は、コミュニケーション能力を測る内容に変更する。結果として、多数の口述試験受験者が不合格となることが無くなるようにする。

5.試験の免除(弁理士法第11条)の制度は2号(論文合格による必須科目免除)、3号(論文合格による選択科目免除)以外廃止し、2号の免除期間は1年間とする。

<今の弁理士試験全体に亙る問題点>

(1)弁理士を大幅増員して、弁理士選択の幅を広くし、競争原理をもって弁理士を淘汰するという施策は、ユーザーが各弁理士について所望の能力の有無を判断するということを前提としているが、実際には、ユーザーが弁理士に具わっている能力を評価することは困難であることが多く、従って、上記施策はその前提に難があり、また、弁理士の大幅増員により弁理士試験合格者の能力低下が指摘されているところであるが、それにもかかわらず、現実には、弁理士試験が合格し易いものとされて、弁理士の大幅増員がなされていること。

(2)昨今、弁理士試験合格者数が特許事務所にとっての実際の雇用可能人数を大幅に超えていて、弁理士試験合格者であって特許事務所に就職できない者が増加しており、また、業務経験のない弁理士資格保有者に対して十分なOJTが実施されていない実態があるが、それにもかかわらず、最近の弁理士試験合格者数は、弁理士試験合格者が適切に弁理士業務を行うことができる環境におかれることになるものとは言えない状況にあること。

(3)近年の弁理士試験受験者の傾向として弁理士の専権業務を軽視する風潮があるのに対して、ユーザーは基本的業務を適正に遂行できる知識及び応用力を有した弁理士を求めているが、それにもかかわらず、弁理士試験が、弁理士の専権業務についての知識及び応用力がある者を適切に選別できるものとなっておらず、検定試験的な捉え方をされることもあるものとなっていること。

この記事は弁政連フォーラム第219号(平成23年5月25日)に掲載したのものです。
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