PF-JPA


「特許法等の一部を改正する
法律案」について
−平成16年2月10日閣議決定−


日本弁理士政治連盟
副会長 牛 木 譲


 2月10日閣議決定された「特許法等の一部を改正にする法律案」は、「知財立国」の実現を図るべく、特許審査の迅速化などに必要な立法措置を講ずることを目的に策定された。
 その骨子は
@高額報償金支払命令判決を背景にした特許法35条の職務発明規定改定等の新たな発明を生み出す環境整備、
A存続期間を10年に延長するなど実用新案制度の魅力向上を含む出願・審査請求行動の適正化、
B従来技術調査の外注先を民間活用する審査処理の促進、
C民間調査人材研修や任期付審査官の早期育成など特許審査迅速化に必要な基盤整備・強化
の4項目を柱にしている。これらの法案は今通常国会に上程され、今後経済産業委員会において審議されるところであるが、上記法律改正の概要の論点、争点となるべき改正点を挙げて日本弁理士政治連盟としての対応を検討してみたい。

1. 審査処理の促進と人材育成の基盤整備・強化
  (前述項目B,C)

 工業所有権に関する手続特例法を改正し、これまで公益法人であるIPCC(財団法人 工業所有権協力センター)のみに外注していた特許審査に必要な従来技術調査を指定の民間調査機関に発注できるようにすることにより、審査前段階の従来技術調査体制の拡充・効率化を図るとしている。
 従来技術調査の民間活力の活用により外注コストの削減を図ることの提案は、われわれが既に改定された審査請求料の大幅値上げ反対論議の際、特許庁に強く要求していたところであった。はからずも、審査処理促進の要請からそれが実現することになったのは皮肉な話である。
 また、迅速・的確な権利付与に必要な行政機能としての研修機能強化のため独立行政法人工業所有権総合情報館に研修館を併設する理由として、企業における知財専門家育成への支援のほか日本弁理士会からの研修要請への対応を挙げていることに注目すべきである。
 昨年12月に発表された産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の中間報告書によれば、「今年の弁理士試験の合格者の増加に伴い、新人弁理士を中心とした弁理士の育成が重要な課題になっている。世界最高レベルの迅速・的確な特許審査の実現に向けた総合施策について弁理士の協力を得ることは必要不可欠であり、特許庁としても、弁理士の人材育成に貢献していくことが求められる。」としている。
 具体的には、審査官との交流機会の確保などに一定の協力を行うとしている。これらは、われわれがこれまで要求していたところであり実現して欲しいところである。
 さらに、任期付審査官の大量採用等を施策として掲げ法案化にリンクした「審査処理促進に向けた取組」、および民間の特定指定調査機関導入を掲げ法案化された「出願・審査請求構造の適正化」には「弁理士の貢献」なる項分け記載がなされている。
 前者については、「世界最高レベルの迅速・的確な特許審査の実現においては、特許庁、出願人と並び、弁理士の果たす役割はきわめて重要である。」と前置きして、記載不備に起因する審査遅延をなくすため弁理士の作成する明細書の充実・適正化、審査官との意思疎通の向上、審査官との円滑な意思疎通のため担当弁理士の明確化が求められている。
 後者にあっては、特許有効活用に軸をおいた企業戦略や先行技術調査により無駄な出願や審査請求を避けるよう要請され、適切な弁理士情報(実績、得意分野等)の積極的な提供が求められている。
 今後のわれわれの活動の指針として弁理士に求められているこのような課題に対し本会ならびに各会員が積極的に取り組み、国民の信頼を得るよう努めなければならない。

2. 出願・審査請求行動の適正化(同A)
(1)出願人による特定登録調査機関の活用と
   審査請求料の減額制度導入
 出願人が特定登録調査機関のサーチレポートを自ら審査請求前に入手し、権利化の見通しを立てて審査請求することは、出願人のより適切な審査請求につながると同時に、特許庁の調査業務にも資するとして、そのサーチレポートを添付して審査請求した場合審査請求料が減額されるというものである。
 この減額改正は本会と弁政連が値上げ改正法案の通過以来要求していたところであるが、どのくらい減額されるかは政令で定める。(規定の半額)この減額が該調査料と同額程度ではメリットはない。特定登録調査機関には民間企業も参入できるのであるから競争原理を働かせてコスト抑制が図られ出願人にプラスに働くことが期待される。
 
(2) 実用新案制度の魅力向上
 無審査制度である実用新案制度の魅力を向上させ、模倣品対策などへの活用を促進するため実用新案権の権利期間を6年から10年に延長し、さらに実用新案登録後でも特許出願に変更できるとするものである。
 会員の中には、実用新案制度の改正については、このほか実体審査制度の導入、現行の「物品の形状等の考案」に限定する規定を改正し、プログラム等を含むソフトウエア関連技術も保護対象として拡大する意見もあったが、今回は見送られた。

3 新たな発明を生み出す環境整備
 @改定条文の骨子
・職務発明規定である特許法35条の改正は4項を
・「・・対価を決定するための基準に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。」と改定する。
・ 同条5項を新設し、
 「前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第3項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。」と改定する。
 A見直しの概要
 発明の対価を一律の算定方法に定めるのは困難であることから、現行法の問題点としては発明者側からは対価が余りにも低すぎるとする一方、企業側からは本来当事者自治の原則である雇用契約の中に国家が入り込んで相当な対価を判決で決める仕組みこそ本来おかしいし、予測の付かないような対価の支払い命令判決が次々と出てくるようでは法的安定性が低いとの課題が挙げられていた。特に、1月30日の青色発光ダイオード事件の200億円報奨金支払命令判決は大きな反響を呼んでおり、政府としても喫緊の課題として今回の特許法改正の中に盛り込んだものと思われる。
 B日本弁理士会の対応
 日本弁理士会は平成13年度に委員会を立ち上げ、私は本会の担当副会長として本庄委員長のもと有識者を招いて意見を聴き、討論を経て答申書にまとめ正副会長会の議を経て本会の見解を小池会長名で公表したが、翌年度これを修正した見解を笹島会長名で公表している。
 政府案は、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会において平成14年9月18日から平成15年12月18日までの間15回開かれた審議を経てまとめられた報告がベースになっている。
 産構審には日本弁理士会も代表を出しているが、昨年10月24日から11月25日までの間行われたパブリック・コメント募集には知財協、日弁連、日本知的財産仲裁センターなどからの意見はあったが日本弁理士会および委員会名では提出しなかったようである。会員個人としては数名の意見が公表されている。
 この問題は今後の日本における知財戦略に大きな影響を与える問題でもあるので、今国会審議に間に合うように本会とともに弁政連としても政策審議をして国会議員の先生方に伝えるなど公表すべきであろう。したがって、ここでは個人的な見解は差し控えることとしたい。

以上

この記事は弁政連フォーラム第135号(平成16年2月25日)に掲載したのものです。
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