[反対の意見書] |
日本弁理士会
会長 中 島 淳 殿
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平成20年7月14日 日本弁理士政治連盟
会長 牛 木 護 |
規制改革会議関係意見具申について
(商標権存続期間更新登録手続の行政書士への開放)
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冠省 首記の件に関し、以下の理由で商標権存続期間更新登録申請業務〔書面作成〕を行政書士に開放することには反対いたします。
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記
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1.更新登録申請の前提としての書き換え登録申請は容易ではない。 |
更新登録には、その前提として平成4年改正法により施行された国内分類から国際分類への移行を受けて指定商品の書き換えが義務付けられ最初の更新時に書き換えをしなかった商標権の指定商品一部が次期の更新時では消滅する。指定商品の書き換えは、市場の動向、企業の商標戦略の方針、特許庁及び裁判所の判例を睨みながら行うなど高度の専門性が要求される事項である。この指定商品のミスがあると、その企業の商品を保護できなくなるなど国民に重大な損害を与える事態も予想される。したがって、更新登録の手続きを専門知識がない試験、研修を経ない他士業者などが行うことは問題がある。
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2.更新登録申請は不使用取消審判と密接な関係があり専門知識のない他士業には不適。 |
商標権更新登録申請をする際には、その商標権にかかる登録商標が使用されているか否かについて鑑定を求められることがある。その鑑定の結果、商標の態様(文字や図形など)が変更されていて、現商標権では十分な保護が受けられないため新出願をしなければならない場合もある。すなわち、更新登録申請にあたっては、単に申請書を様式どおりに作成して提出するだけでなく、その背後に専門知識を駆使した鑑定行為が伴うのである。
したがって、商標権者の利益を守るためには、商標の更新登録申請は試験、研修を経た専門的知見を有する弁理士が行うことが国民的利益に合致する。
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3.更新登録申請書の却下は厳しくチェックされ、的確な対応が求められる。 |
提出の趣旨の不明な申請書で手続きしたとき、更新登録申請のできる期間外に申請したとき、申請人と原簿上の商標権者が一致しないときなど申請が却下される場合がある。これらの救済はほとんど出来ないか、その誤りの治癒のためには多大の労苦を伴う。その他、商標登録番号が登録原簿に存在しない時や申請人を誤記したなどは補充指令がかかる。
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4.更新登録申請を開放すれば法20条の消滅した商標権回復申請の開放をもたらす。 |
商標法20条の更新登録申請を開放すれば法21条に従い、その責めに帰することが出来ない理由により法21条の更新登録申請が出来る期間内にその申請が出来なかった場合に一定の期間内に許される商標権の回復の申請も必然的に開放することになる。
しかしながら、法21条に基づく該商標権の回復の申請には詳細な理由と証拠を伴わなければ許されないとされている。様式に当てはめた申請書を作ればよい分けではない。
したがって、商標権の回復の申請手続きをその専門的知見を具備しない行政書士に開放するのは国民の財産権を守る面からみて妥当ではない。
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5.登録商標も時代の推移でかつて登録されたものでも公序良俗に反するものもでてくる。 |
これに対する審査はないので、その申請の可否は、かかって商標の専門家たる弁理士により的確に判断されるべきである。つまり公序良俗の審査の「民間への移管」といえるのである。したがって、商標については全くの素人であって、しかも商標更新登録申請をただの書類作成と捉え、ひたすら職域拡大を主張してやまない行政書士にこの制度を開放したら、商標制度の運用の適正が著しく損なわれることになる。
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6.商標の更新登録申請は、当然に商標登録出願を代理した弁理士が手塩にかけた権利
として事務所において存続期間の期限管理をしっかりと行っている。 |
弁理士は期間満了する前に順当な日程でクライアントに通知し、更新の要否・可否・使用の態様の事情聴取などをしてクライアントとの的確な打合せをし、また指導もしている。
従って、そこに商標の非専門家である行政書士が入り込む意義は、ユーザーたる国民にとって全くないばかりでなく、不正確な情報がクライアント側に入り錯綜することになり有害ですらある。
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7.商標登録出願時の受任時から依頼人の事情を把握している弁理士でなければ
更新登録の際に高度の専門的なサ−ビスを提供することはできない。 |
商標権存続期間更新登録申請において代理人が行う業務は単に登録番号と権利者を記載した申請書を作成して提出することではない。更新登録によって権利者の利益が適切に守られるかを正しく専門的に判断し適切なアドバイスをしなければならない。
例えば登録されている商標権の指定商品、指定役務が現在、権利者の使用している商品、役務と一致しているか、また、今後の権利者の使用予定を考慮してこれらが適切になっているかを判断し、もし余分な商品、役務があれば経済性を考慮してこれらを削除したり、逆に足りない商品、役務があれば新たな出願を考える必要がある。このような商品役務の削除、新たな出願における商品役務の指定は高度な専門的知識を必要とする。また、国際分類の変更を考慮し商品役務の記載を適切に補正する必要もある。
このように更新に伴い必要な判断を正しく行ない、権利者に適切なアドバイスをするためには専門的な素養をもつことはもちろん、さらに商標登録出願時の受任時から依頼人の事情を把握している弁理士でなければ更新登録の際に権利者の事情を理解し、権利者の利益を適切に守れるような高度の専門的なサ−ビスを提供することはできない。従って出願を代理できる弁理士でなければ更新登録の業務も適切に遂行することはできない。もし、更新登録申請のみを他の者が代理して行うことになれば、以上のような依頼人が希望する質の高いサ−ビスを提供することができず、商標制度に支障が生じると考える。商標権存続期間更新登録申請書の作成・提出業務を弁理士の専権業務から開放することは商標制度を利用する国民の利益を害すると考える。
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8.その他、これまでの行政書士会の開放要求の背景。〔参考〕 |
【1】 商標登録出願は定型的業務であるので開放すべきとの意見に対して。
・行政書士会はこれまで商標登録出願が一枚の定型的なものであるので開放すべきであると主張してきた。しかし、これらの主張に対して我々弁理士会側は、商標登録出願は、単に方式審査のみだけでなく独占排他権を付与するに足りる登録要件を具備しているかの実体審査を行っている。行政書士は手続き〔方式〕の専門家であるかもしれないが実体要件について審査官、審判官と議論できる素養がないので開放すべきでない。
【2】 本人出願が年約5万件あり、その4分の3程度が登録になっていることを根拠に商標出願願書作成業務
の開放要請について。
・商標の本人出願は専門部署を有する大方の大企業が勤務弁理士など専門的知見を有する者が、自社の特定された業務範囲における商標調査のノウハウを持ち、事前調査をしっかりと行い出願しているから高い登録率を維持できていると思われる。これに対し専門的知見の乏しい行政書士に商標出願業務は妥当ではない。
【3】 研修義務付けについて
・行政書士制度とその業務を見るならば、試験制度に知的財産法の専門的知見を求める科目はなく、単に官公署に提出する方式書類の作成に必要な一般的な「知識」のみを問う択一式だけとなっている。それなのに、行政書士は、商標について「特別な研修」を施して商標制度を開放せよと主張しているが、研修で能力が担保されるのであれば、そもそも国家試験などは不要なのであるから、そのことからして「特別な研修」などということは、理不尽な要求である。既に行政書士などには平成12年に専門性が薄れた商標権などの移転登録、年金登録料納付など専門性が薄い業務は開放している。
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