PF-JPA


意 見 書



                           平成20年11月17日

  
   内閣官房知的財産戦略推進事務局 御中
日本弁理士政治連盟
会 長 牛 木   護
政策委員会
委員長 富 崎 元 就



 
「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について」
(報告案)に対する意見


1.「T.コンテンツの流通促進策」について
 この問題の所在として、わが国のコンテンツ・ビジネスにおいて、ネット上の流通の促進を阻害している最大の原因が、一つの作品をめぐる著作権処理が複雑なことを挙げている点は、賛成できる。
 このための検討結果として、「○コンテンツホルダーの権利情報の整備」等を挙げている点も基本的な施策としては賛成できるが、「○所在不明の権利者への対応」、及び「○コンテンツホルダーへの権利の集約化」については、下記の留意点を充分に配慮すべきである。

(1−1)「○所在不明の権利者への対応」について
 権利者不明の著作物の利用は、裁定制度(第67条)があるが現状では機能しているとは思えない。また、この裁定制度は、隣接権は適用されない。著作物の有効利用という観点からも簡易に、かつ公正に利用できるシステムの構築が望まれる。特に、匿名性の高いネット上で広く流布し、有効に利用されているコンピュータプログラムにもこの種のものが多い現状も考慮されるべきである。
 この場合、一定の知識を有する弁理士、弁護士等の専門家が、適正な料金で関係する権利団体等への照会・調査、その関係団体等が定める適正な対価を寄託、又は供託したときは、利用を認めるような法制度の構築が望まれる。

(1−2)「○コンテンツホルダーへの権利の集約化」について
 権利を集約化するために「放送事業者、映画制作者、レコード製作者のみが許諾権を行使できる特別法を制定すべきではないか。」としているが、昨今の経済変動からも理解されるように、著作権の権利期間の長さを考慮すると、安定、公正、かつ長期間に亘ってこれらの事業者が運営できる保証はなく、製作に参加した権利者に公正な配分を行うことも担保できない。逆に、これらの権利者からの不当な権利要求にも対応できない。
 また、映画については、所謂ワンチャンス主義があり、実演家の権利が制限されている(91条〜92条の2)。歴史的に有名な映画を出すまでもなく、実演家の貢献を考えると、著作権法、及び慣行されている契約も今後見直すべきである。
 そこで、映画等のこれらの事業者、及び各権利者に対して、各権利を適正に行使すべく標準的な契約書の公開、及びこれらの紛争を公正に処理する機関の整備が望まれる。
 紛争が発生したときの民間機関としては、弁護士会、弁理士会等の士業団体が行っている調停・仲裁機関の調停、仲裁機能を利用して、これらの紛争を迅速かつ適正な費用で解決できるような、民間による公正な紛争解決のシステムの構築も望まれる。

2.「U.権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」について
 この問題の所在として、権利者の利益を不当に害しない公正な利用であれば許諾なしに著作物を利用できるようにする権利制限を設ける点は、賛成できる。
 このための検討結果として、個別の限定列挙方式による権利制限規定に加え、権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で、公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定を導入することが適切である、としている。
 この「公正な利用」は、時代の流れ、経済情勢、国民の倫理観等で異なり、これを定義することは困難であり、判例等で確立されている概念でもなく、法律で定義することは極めて困難である。また、ネット社会の匿名性等を考慮すると、著作者の権利を不当制限の暴走の根拠にもなりかねず、避けるべきである。更に、フェアユースは、文化審議会等で挙げている個別規定で充分対応できる。
 従って、この問題は、裁判の判例等で積み重ねて議論すべきものであり、一般規定は避けるべきである。

3.「V.ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化」について
(3−1)「1.コンテンツの技術的な制限手段の回避に対する規制の在り方について」について
 問題の所在として、近年のデジタル化の進展により、違法な暗号解読ソフトの流通等による「技術的制限手段の回避」により、コンテンツ産業の経済的損失は大きく、「アクセス・コントロール」について検討した点、については評価できる。
 プロバイター等を法的に規制して、この「アクセス・コントロール」をしたとしても、技術進歩により、合法的な回避手段が出現し、所謂イタチごっこになりあまり意味がない。同様に、「マジコン」等の回避装置も、通常は汎用的な機器であり、この製造、販売に刑事罰を課することは技術的にも法的にも無理がある。
 結論として、現行制度を利用した規制、及び学校教育等による著作権の基礎的な知識の普及、及び遵法精神を継続的に国民に訴えるような地道な運動しかない。

(3−2)「2.インターネット・サービス・プロバイダの責任の在り方について」について
 問題の所在として、著作権侵害の対策及び健全な通信サービスの運営の観点から、プロバイダ責任制限法が十分に機能しているかどうか検討を行った、という点は評価できる。
 昨今の違法なゲリラ的な動画サイトで、映画の新作等が出されている現状を考えると、民間の業界団体による取り組みだけでは限界があり、侵害防止措置のために何らかの技術的な防止手段、監視をプロバイダ、通信業者等に義務付けることは賛成である。ただし、国内だけでは限界があり、諸外国との協調体制も必要である。

(3−3)「3.著作権法におけるいわゆる『間接侵害』への対応について」について
 問題の所在として、近年のデジタル技術やネットワーク技術の発展により、従来では見られなかった侵害行為の幇助的な行為も存在するので、この抑制すべきとしている。
 しかしながら、検討結果にもあるように、間接侵害等の法的な概念が明確でなく、早急な立法化は困難であり、今後の判例、学説を待つべきである。

(3−4)「4.国際的な制度調和等について」について
 問題の所在として、近年のデジタル化の進展やインタネットの普及により、国境を越えて流通するようになり、国境を越えた著作権侵害も増大しているので、著作権侵害に関する司法救済等の国際的な制度調和の在り方について検討した点について評価できる。
 現在協議が続けられている「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」の合意形成に向けて努力することは賛成である。
 他の方策として、既存のWIPO等の国際機関、国際商事仲裁機関のような民間機関による調停、仲裁機能も活用して、適正で迅速な解決を目指すべきである。
以上


この記事は弁政連フォーラム第190号(平成20年10月25日)に掲載したのものです。
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