PF-JPA
日本の繁栄のために
「新たな知的財産制度を構築しよう」
 <弁政連フォーラム第82号(平成11年9月25日)より>
 
Watanabe, Mochitoshi   
日本弁理士政治連盟
会長 渡 辺 望 稔
 
 

1.はじめに

 今般、日本弁理士政治連盟の会長に推挙されました渡辺望稔です。大変革の時代を迎え、 その重責に身が引き締まる思いで一杯です。この荒波の中を、古谷史旺前会長をはじめと する諸先輩の築かれた足跡にのっとって、8人の副会長の協力を得つつ、弁理士会の理事 会と一体となって、ロビー活動を行っていきたいと思っています。

2.活動方針

 我々、日本弁理士政治連盟は、以下の観点を踏まえ、知的財産制度のより効率的な構築・活用 に向けて、国際的な見地から、政界、官界、財界、学界、法曹界などに対して、積極的に活動して いく所存でございます。

(A)世界の新たな動向

 今、米国はレーガン大統領時代のヤングレポートの成果として空前の繁栄の中にありつつも、さら にソフトウェアを加味した知的財産を活用して、軍事的覇権に加えて知的覇権をも希求する21世紀 の新たな繁栄を勝ち取る新戦略を展開しつつあり、また、ヨーロッパもユーロ圏という大合同体を形 成し、強力な競争力を獲得しつつあります。また、アジア諸国は急激な発展をとげ、先進国に肉薄し つつあります。

 その中で、我が日本国は、認識を新たにし、新たな知的財産制度を構築・活用し、経済的繁栄、雇 用確保などの国際的役割を果していかなければなりません。

 そして、現在、三極(日米欧)間では、工業所有権の審査の共通化が話し合われ、将来的には世界 共通特許のテーマさえ見えています。さらに、弁護士や弁理士などの資格の相互承認の問題も見え かくれしているのです。

(B)日本の新たな動き

 このような情勢下、日本でも、行政改革、規制緩和などの諸施策により、世界的なメガコンペティション に対応する改革がなされつつあり、知的財産の活用を図る官庁である特許庁にもその波は及びました。 その一つが、残念なことに、特許庁の独立行政法人化でした。賢明にも政府は特許庁を独立法人化致し ませんでしたが、実施庁として残したので、5年後に見直すことになり、現在進行中と聞いています。

(C)新たな知的財産機構の構築

 知的財産権(あるいは知的所有権)は、特許、実用新案、意匠、商標などの工業所有権に加え、不正 競争防止、著作権などを広く含めた概念として、最近では新聞をにぎわせない日がない程、注目されつつ あることは大変喜ばしいことです。

 しかるに、我が国では、工業所有権は特許庁、著作権は文化庁、農産種苗は農水省、科学技術の 奨励は科学技術庁といったように、総合的な運用がなされていません。一方で、知的財産の保護範囲は、 米国を中心に増々広がっています。

 また、我が国では、知的財産という言葉の定義が不明確な上に、この重要な言葉が法律上明定されて いないのです。我々は、この点を憂い、知的財産基本法(仮称)を定め、この基本法の上に乗った知的 財産(所有権)庁を構築してほしいという要望を、特許庁の独立行政法人化の折に政府に提案致しました。

 世界の国々が、知的財産権を駆使して国家の繁栄を実現すべく努力している折に、特許庁は独立行政 法人化することなく、国家の根幹機構としてより強力な機構に改革していくべきであります。

(D)新たな知的財産機構の運用

 知的財産制度とは、人間が知的活動により生み出した知的創造物を財産として活用する制度です。 その典型が知的創造サイクルです。知的創造サイクルとは、知的創造をなし、その創造物を権利化し、 その権利を活用するサイクルを繰り返し、社会・文化の発展に寄与する優れたものです。

 ところで、現在、知的創造サイクルの知的創造・その権利化・その活用のそれぞれの過程に、より効率 的な運用が求められています。その中で特に重要なのが、国内はもとより国際的な紛争解決であります。

(D−1)新たな紛争解決機構

 紛争を解決するに当って、制度上のインフラおよび人的インフラのバランスのよい整備が必要です。 各国は積極的に技術開発を時にはナショナルプロジェクトとして支援し、その保護を以って国家の繁栄 の礎にしようと努力中です。例えば、通信技術、バイオテクノロジー、半導体、コンピュータ、電子マネー、 暗号技術、衛星接術、環境技術、遺伝子、食品など極めて多岐に亘り、一層先鋭化しているのが現状です。 このように多岐に亘る上に先鋭化していく技術に紛争が多発しつつあり、技術の模倣などの派生的問題 の存在にも大きなものがあります。

 裁判においては、技術判断と法律判断がなされていますが、問題なのは技術判断の処です。技術を 理解する裁判官が極めて少ないために、その上に技術が多岐に亘り先鋭化しているため、裁判が迅速 に進まず、その判断も理解不足のために往々にして問題となっているのが現状です。このような問題を 解決するには、技術裁判官を擁した特許裁判所が必要なのです。

 既にして、米国の巡回控訴裁判所、ヨーロッパの国々の特許裁判所、韓国の法務院など名称は別とし て、先進国は当然の如く、途上国においても、知的財産の重要性に鑑み、特許裁判所が設置されている のです。

(D−2)新たな紛争解決の人的インフラ

 特許裁判所という機構での重要な役割を果たすのが、訴訟代理人です。現在、裁判官も訴訟代理人も 司法試験をパスした人々のみによって差配され、接術判断を伴った裁判では、その解決に荷が重すぎる ため、弁理士を補佐人として使う制度になっています。しかるに、裁判の大半を占める技術判断を伴う裁 判過程において、弁理士が大きな役割を果たしていますが、代理権が認められていないのです。

 法廷において、技術の理解できる裁判官も代理人もいないというのが、現在の知的財産に関する裁判 の決定的欠陥なのです。

 これをうまく解決する方法は、技術と法律の専門家である弁理士に知的財産に関する訴訟代理権を 与えることです。さすれば、法律の専門家である弁護士と、技術および法律の専門家である弁理士が、 時には競争し、時には協力して、より充実した質の高い裁判がおこなわれていくのです。

 また、弁理士はその手続き中に企業の秘密を知ることになります。外国において訴訟になったとき、 弁理士が知った秘密の開示を求められた場合、守秘義務があるから秘密を開示できないと拒絶できる か否かが問題となっています。弁理士の大半が、海外業務を行っており、国際間の紛争が増加している ことを考慮すると、弁理士が弁護士と同様の知的財産に関する訴訟代理権を持って、守秘義務を全う できるようにすることが日本の企業を守ることなのです。

(D−3)新たな紛争解決網

 紛争の解決は裁判によってのみ行われるわけではありません。現在、弁理士会と日本弁護士連合会 は、工業所有権仲裁センターを設立し、裁判外紛争解決に協同して社会に貢献しています。また、弁理 士は新たに裁判所において、調停委員として活躍しています。さらに、一般的な紛争解決の仲介を行う 業務も重要です。

 このように、裁判や裁判外紛争解決手段(ADR)において、そのネットワーク化が必要です。これにより、 国民は種々のリーガルサービスを受けられるようになるのです。

E)新技術開発支援・新知的財産支援

 新技術の開発支援は国の消長に関わる重要な問題である。起業数が廃業数より少ないと言われる 現在、金も人もないベンチャー(起業家)に、国を挙げて協力態勢をお願いしたい。特に、NASDACの 開設、ベンチャー資金、税制上の優遇などできるものは何でも施策していく努力する必要がある。紛争 になった時には、リーガルサービスが受けられるよう法律扶助の制度化も必要である。

 弁理士会は、このような観点から、知的財産支援センターを開設し、国民の要望に応えています。

F)新たな司法を求めて

 今般、内閣府に司法制度改革審議会が設置されました。21世紀の国民のニーズに適合した司法の 実現に向けて議論がなされています。特にこの国にとって重要である知的財産権についてこの場で論 議されるよう努力していきます。

(G)世界の中の日本

 人間の生み出す知的創造物は、国家を超越して、人類全体の財産でもあります。その知的創造物を、 拡大生産し、活用し、紛争時に迅速処理する効率的な知的財産制度を構築し、連用していく機構を、日 本国が世界に先駆けて実現していくことが求められているのです。

3.新弁理士像に向けて

 弁理士に今求められていることは、知的創造の創成、権利化、紛争解決を含む活用といった総合的な 知的財産制度への関与および貢献であります。現在、その実現に向けて法整備が行われている最中で す。

 我々、日本弁理士政治連盟は、日本国のみならず世界中の国々の知的財産制度の発展に寄与し、 経済の繁栄、人類の幸福、地球の環境保全などの高い理想を以って、国際的見地から積極的活動を 行っていきたいと存じます。

 各界の皆様の絶大なるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。


この記事は弁政連フォーラム第82号(平成11年9月25日)に掲載されたものです。

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