PF-JPA




『ロースクールと弁理士』


 
Nagai.Yoshihisa
  
日本弁理士政治連盟
会 員 永井 義久
 

1.はじめに
 司法制度改革審議会は、本年(平成13年)6月12日で提出された意見書において、人的基盤の拡充の観点から、法曹養成制度改革の柱として法科大学院(ロースクール)の設置を大きく意見として挙げている。このロースクールでは、法曹三者(裁判官、弁護士、検事)となる者を対象とし、弁理士は対象とされない。しかし、はたしてこれでよいのか喫緊に検討し、問題の所在を明らかにして、対策を採るべきであると思えてならない。
2.意見の内容と弁理士制度
 前記意見書での意見の前提は、「司法試験という「点」のみの選抜でなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。」ことにある。すなわち、「点」のみの選抜から「プロセス」による養成制度への移行である。ロースクールが学生の受け入れ開始する2004年4月においても、弁理士試験は「点」のみの選抜による制度として残る。意見で述べられた現状の司法試験を中心とした問題点を踏まえれば、当然に現行の弁理士試験制度においてもその問題点を残したまま存続することは明らかであり、「21世紀の司法を支えるにふさわしい質・量ともに豊な法曹(知財法曹)をどのように養成するか。」の観点から、弁理士試験制度のみならず、弁理士会の研修のありかたを検討すべきである。
 とりわけ、隣接法律専門職としての弁理士の侵害訴訟での代理権を近時及び将来のわたって問題にするとき、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、弁理士の専門性を活用する意見内容に鑑みると、法曹三者の養成制度と弁理士(試験)とがお互いに接点をもつことなく、パラレルな関係にあることは、「21世紀の司法を支えるにふさわしい」とは到底いえないし、いま検討しない限り、将来禍根を残すものとなることは明らかである。
3.基本的な検討事項
 弁理士制度は、侵害訴訟での代理権の問題が深化すれば、技術に特化したまたはプロセキューションを専門とした弁理士と、侵害訴訟を中心としたまたはこれに大きく比重を置く特許弁護士(知財弁護士)的な弁理士とに分化する傾向は強まり、変質せざるを得ない。これはプロパテント時代が要請するものでもある。
 後者を目指す者にあっては、ロースクールを指向し、これを経ることは有意義であると考えるのも当然である。前者を目指す者にあっては、「点」としての弁理士試験をスルーすることがごく自然かもしれない。いずれにしても、多様な選択肢があることはよいとの一事をもって満足すべき事項か、はなはだ疑問である。
「知的財産権は国家戦略である!」との観点からすれば、多様性のみを価値基準とした達観を許すべきでない。
 「各種の法科化大学院構想の比較」「我が国における司法試験制度、司法修習制度の改革に関する議論の整理」(それぞれ「ジュリスト」臨時増刊号 .1198)、及び「法科大学院制度の具体化にあたって」(日本弁護士会、2001年6月16日)の内容を精査しても、ロースクールにおいて知的財産権を扱う意向を示したものはない。
 ロースクールをとおして人的基盤の拡充を謳うとき、法曹養成の「プロセス」を重視するのか、ロースクールでの教育内容を重視するのかにメルクマールがあるのかもしれない。ロースクールは、「実務との密接な連携を図り」「高度の専門職業人」(プロフェッション)の育成も視野に入れる基盤として設立し、意見が隣接法律専門職の活用を謳うのであるから、ロースクールにおいて、複数の法律の有機的な連関を重視しつつ、法理論と実務との整合性のとれた応用教育の徹底を図るとき、その重要な教育内容として知的財産権に関する少なくともコースまたは講座があるべきである。
 意見は、「21世紀の法曹には、経済学や理数系、医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である。社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある」という。弁理士(または試験合格者)がロースクールを指向するとき、いかなるロースクールの制度設計が可能であるかも検討課題である。
 他方、知的財産権に関する特化した「知的財産権ロースクール」を設計することも可能である。この場合の制度設計には、入学者受け入れ形態、教育内容、既存の弁理士制度との関係、財政的基盤、意見におけるロースクールとの関係など問題は山積する。
 いずれにしても、プロフェッションは、ロースクールのみで終わるものではない。弁理士会は研修所を擁する。この研修所の役割は、侵害訴訟での代理権を踏まえ、発展的に改質すべきである。上記の広範な観点から、研修所の位置付けの早期の見直しを望むところである。



この記事は弁政連フォーラム第108号(平成13年11月25日)に掲載されたのものです。

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