PF-JPA




新弁理士試験・研修の骨格を考える


 





  
日本弁理士政治連盟
会 員 永井 義久
 

1.はじめに
 弁理士試験合格者の増大に伴って、実務経験が乏しいペーパードライバーの増加により、質的拡大・担保に対する批判や疑問が多くなされている。
 これに関し、知的財産推進計画2004には「弁理士の量的・質的拡大を図るため、2004年度から、弁理士試験のあり方や弁理士試験の合格者の実務能力を担保するための方策等について、知的財産専門職大学院等の活用も含めて速やかに検討を行う。」と謳われている。
 これを、法科大学院での教育及び新司法試験制度の将来像の検討・議論を踏まえて具体的に考えると、新しい弁理士試験や研修制度は、現行の弁理士試験・研修の単なる延長線にあってはならないと強く感じる次第である。

2.新司法試験及び新司法修習(実務教育)
 今後の法曹の養成は、
 法科大学院でのプロセス教育→新司法試験→新司法修習(プロセス教育)→考試→法曹としての継続教育
 によって行われる。
 2回のプロセス教育と2回の点としての試験によって構成されている。
 「新司法試験実施に係る研究調査会報告書」(司法試験管理委員会が設置した新司法試験実施に係る研究調査会 平成15年12月11日 以下「調査会報告書」という。)によれば、『新司法試験を通じて選抜すべき法曹像』として次のことが謳われている(下線は加入)。
○これからの法曹には、「豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門知識、柔軟な思考力、説得・交渉能力等の基本的資質に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力」などの資質が求められるが、これらの資質は、「プロセス」としての新たな法曹養成制度全体を通して涵養されるべきものである。
○ 新司法試験は、法科大学院の教育を踏まえたものとし、司法修習を経れば、法曹としての活動を始める程度の能力を備えているかどうかを判定するものとする。
○ 新司法試験の実施に当たっては、法科大学院における教育及び司法修習との有機的連携に配慮する必要がある。
 すなわち、ここには、次の点が明確にされている。
(1)新司法試験は、先の法科大学院の教育を踏まえ、その後の司法修習を経れば、法曹としての活動を始める程度の能力を備えているかどうかを判定するものである。
(2)新司法試験は、「プロセス」としての新たな法曹養成制度全体を通して涵養される資質を判定するための試験である。

3.現行の弁理士試験・研修制度
 前項での今後の法曹の養成におけるプロセス型システムに対し、現行の弁理士試験と研修制度は、詳しく述べるまでもなく、試験と研修がそれぞれ点として存在し、関連がきわめて薄い。すなわち、試験と研修の連携がない。これで知的財産における専門的人材の養成を図ることができるのであろうか。

4.新弁理士試験及び新研修制度
(1) 私は、弁理士試験においても、試験が単独であるのではなく、義務又は任意研修との組み合わせによる、弁理士養成制度全体を通して涵養される資質を判定するための試験であるべきものと考える。
 このためには、弁理士の業務範囲の拡大に伴って、民法や民事訴訟法の基礎的な能力をも担保すべきであり、弁理士が技術的な業務も専業範囲とするのであれば、少なくともその最低限の資質を涵養する必要があると考える。
 最終的に、弁理士の最終的な資質を弁理士養成制度全体を通して涵養されるシステムを構築することが重要であって、弁理士を志す各受験者の過去における教育は様々であることに鑑みれば、画一的でなく、試験と研修制度とが有機的に連携した、多くのバリエーションを用意することによって、受験者の負担増は回避できるものと考える。
(2) 次に弁理士に求められる資質の判定との関連から言えば、現行の弁理士試験における知識中心判定主義から脱却すべきである。
 この点で、「調査会報告書」の『出題の在り方』に関し、次の提案がなされている。
 『短答式試験』
○ 短答式試験においては、幅広い分野から基本的な問題を多数出題することにより、専門的な法律知識及び法的な推論の能力を試すものとする。
○ 短答式試験については、出題の形式を多様化し、配点についても、科目の特性に応じて工夫を施すこととする。
 『論文式試験』
○ 公法系科目、民事系科目及び刑事系科目の出題に当たっては、事例解析能力、論理的思考力、法解釈・適用能力等を十分に見ることを基本とし、理論的かつ実践的な能力判定に意を用いる。その方法としては、比較的長文の具体的な事例を出題し、現在の司法試験より長い時間をかけて、法的な分析、構成及び論述の能力を試すことを中心とする。
○ ……
○ 選択科目については、公平性の観点から、各科目の出題の在り方を検討するとともに、出題方針等について何らかの共通する基準を設定することが必要であり……。
  私は、弁理士試験においてもかかる意見の方向で改革すべきと考えるものである。






この記事は弁政連フォーラム第143号(平成16年10月25日)に掲載されたのものです。

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