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令和4年3月 日本弁理士政治連盟

経済安全保障とイノベーションエコシステムについて

経済安全保障は、我が国の産業競争力やイノベーション力強化に深く関係する

  • 対象技術の範囲がどのように設定されるかが重要。例えば、技術のデュアルユースの問題は一側面に過ぎないと考える。
  • 我が国における社会課題解決に資するイノベーションの社会実装の重要性。社会実装化支援と経済安全保障との両立を実現すべき。
  • 弁理士はイノベーティブなスタートアップ企業等、イノベーターを支援する存在となる可能性がある。

経済安全保障の4本柱とイノベーション社会実装化支援について

①サプライチェーン

〈内 容〉

重要物資やその原材料の国内供給が滞り、国民生活や産業に重大な影響を及ぼす状況を回避し、サプライチェーンの強靭化を図るための枠組みが整備される。

【意 見】

例えば代替原料技術などは、イノベーションとその社会実装化によって、サプライチェーンの強靭化に寄与しうる。本法案の制定に当たっては、特定重要物資に関し、「生産基盤の整備、供給源の多様化、備蓄」のみならず、「生産技術の導入、開発若しくは改良その他の当該物資等の供給網を強靱化するための取組又は物資等の使用の合理化、代替物資の開発その他の当該物資等への依存を低減するための取組」(法案第7条)が推進され、関連する技術開発とその社会実装が十分になされるように配慮頂きたい。

②基幹インフラ

〈内 容〉

基幹インフラの設備の導入等に際し、その重要な機能が停止する状況を回避し、インフラ機能の維持等に係る安全性・信頼性を確保するための枠組みが整備される。

【意 見】

例えばインフラ機能維持技術やインフラ機能分散技術などは、イノベーションとその実装化によって、基幹インフラ機能の維持・信頼性に寄与しうる。本法案の制定に当たっては、特定重要設備の導入や維持管理を監督する(法案第52条等)のみならず、特定妨害行為(法案第52条第2項第2号ハ)に対する強靭性の確保や特定妨害行為の防止に資する技術の開発及びその社会実装についても推進すべきである。法案第四章の特定重要技術の開発支援に関する事項と連動した運用にも期待する。

③官民技術協力

〈内 容〉

我が国の技術優位性を確保する観点から、官民が連携し、技術情報を共有・活用することにより、先端的な重要技術を育成・支援するための枠組みが整備される。

【意 見】

個々の企業等が投資可能な資金に限度があることを踏まえると、重要な先端技術については、多数の企業(ベンチャー企業だけでなく大企業も含まれる)や大学が共同して研究開発を行い、その結果も共有できるコンソーシアムのような仕組みが必要である。 本法案の制定に当たっては、法案第62条の協議会(官民パートナーシップ)や法案第63条の指定基金の運用が、大学な公的研究機関における研究のみならず、民間企業における研究開発の促進にも資するものとなることを期待する。
また、サプライチェーンや基幹インフラの安定化を考慮して重要であるにも関わらず共同研究開発のための効果的な仕組みの構築が民間主導で進まない分野においては、国は、資金や情報を提供するに留まらず、仕組みの構築も主導すべきである。

④特許非公開

〈内 容〉

特許制度を通じた技術流出の懸念に対処するため、イノベーションの促進との両立を図りつつ、安全保障の観点から特許の非公開化の枠組みが整備される。 特許非公開の対象は、当面では、核技術、武器技術を基本として選定するとされている。また、機微な発明は、我が国への第一国出願義務も規定され、罰則規定も定めるべきとの提言も有識者会議でされている。今日、これらの技術と民生技術との線引きは当該技術の専門家といえども難しい。

【意 見】
  1. 特許非公開がイノベーターの意欲・熱意を挫く制度であっては本末転倒である。  保全指定(法案第70条)を行う場合には、保全審査(法案第67条)の際の技術価値の評価に応じて、出願人に対し実証実験などの事業化の支援を行っていただきたい。
  2. 法案第80条の補償を受けるための手続が申請者にとって過度な負担とならないよう配慮いただきたい。
  3. 最終的に保全指定される件数が少なかったとしても、非公開要否の判定に数か月~10か月かかるとすると、早期権利化や外国出願の準備にも影響が大きい。本法案の制定に当たっては、法案第66条に規定の、特許庁長官が内閣総理代理人に対し書類を送付すべき特許出願の範囲(特定技術分野)が徒に広くならないよう、運用方針を慎重に検討いただきたい。
  4. 出願人から早期審査の申請があった場合など、出願人が早期権利化を明示的に希望している出願については、特許庁長官が、法案第66条第1項本文又は第2項の規定による送付をするか否かの判断を優先的に行う運用をお願いしたい。 (イノベーション)に対しては内容に応じて非公開下であっても、そのイノベーションの社会実装を目指しうる仕組みが必要である。非公開認定となる場合もイノベーション創出企業の情熱を挫くことを避けなければならない。
  5. 技術、イノベーションはその事業化、社会実装化ができてこそ真価を発揮できる。これは、経済安全保障に資するイノベーションについてももちろん当てはまる。従って、保全指定(法案第70条)がなされる場合であっても、特許出願に係る発明の内容に応じて非公開下でもそのイノベーションの社会実装を目指しうる仕組みが必要である。保全審査(法案第67条)、保全指定及び保全対象発明の実施や開示の制限等(法案第73-76条)の運用に当たっては、イノベーション創出企業の情熱を挫くことが無いように配慮いただきたい。
  6. 本制度は、法案78条(外国出願の禁止)の適切な運用によって実効性が確保されると期待される。一方で、近年では国を跨いだ共同研究開発が盛んであり、ある発明が「日本国内でした発明」か否かの判断が必ずしも容易でない場合もある。諸外国の制度も参考に、この判断基準を早期に定めて公表頂くことを希望する。
    また、弁理士等が、これらの潜在的非公開特許対象技術の共同研究開発計画の検討段階から関わり、相談を受けることも珍しくない。よって、担当弁理士等が他国の資本・個人・法人に支配されないようにする点に関し仕組みによる担保の検討も必要と考える。
  7. 民間企業、取り分け、大学、中小企業等に対して個別に、機微な発明と民生技術との線引き等を相談できるように、専門家を配置するような施策を打つべきである。
    今日では、武器技術であっても、半導体等のように民生技術と同様のものが使用されている(デュアルユース技術)のが実情であり、機微な発明との線引きは難しいためである。また、国際的な共同研究、開発もごく一般的である。
    一方、最近、現行法の外為法違反事件において、拘置所で亡くなる人も出て問題になった。この事件は、捜査当局の技術の誤解、誤認による違法逮捕とも報道されている。民間企業にとっては死活に関わる大問題である。
    機微な発明の国の審査体制でも、外部の専門家の助力を得ることができる枠組みとする旨が、有識者会議の提言もされている。
    民間企業、取り分け、大学、中小企業等では、専門家を配置することは人材難もあり制約もあり難しい。国として、これらの問題に対応できる相談窓口の充実は勿論として、個別の大学、中小企業等が民間の教育された専門家を顧問等として活用できるよう、機微な発明と民生技術との線引きや機微な発明の取り扱いについて十分な知見を有する人材を養成する施策を打つべきである。
    また、弁理士等が早い段階から相談を受けるケースもあるため、この観点からも、担当弁理士等の独立性を保ち、特定の資本・企業・個人に支配されないようにするための仕組みが検討されるべきである。
資料はPDF版もございますので、こちらからご覧ください。
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